親友
食事の後、伊織とサスケは用意された部屋に戻ると休んだ。
あまり眠ることが出来なかったサスケは、朝早く、伊織を起こさないように部屋を抜け出す。甲板に出ると床に座り込んだ。
空を航行しているからか、朝早いのに太陽が近く見える。しかし、結界のおかげで暑くもなく、眩しくもなかった。時折、雲の側を通り過ぎ、鳥の群れの横を追い抜いて行く。
(皆で見たいな……)
睦月さんはとても喜ぶだろう。サスケはこの光景を見ながら思った。独りでは、色がくすんで見える。そんな思いにふけっていた時だ。いつの間にか側に来ていた錦が話し掛けてきた。
「……昨日は、醜態を見せてしまった。すまない」
「いや、こっちも熱くなったから、お互い様だ」
サスケはそう言うと、隣に座るような促した。錦は促されるまま、サスケの隣に腰を下ろす。
「前にも、こんな時があったな……」
錦が空を見上げながら呟く。
昔……百年以上も前になるが、錦とサスケ、先代の本屋の店主の三人で帆船の旅をしたことがあった。
この時、伊織はまだ常世に堕ちてはいなかった。サスケは今とそんなに変わりはないが、錦は十歳ほど若く見えていた。
皆で五聖獣の都を巡る旅をしていた時、今のように、よく甲板で二人で話をしていた。普段はあまり話さないが、この時はよく話していたのをはっきりと覚えている。何気ないことをずっと話して笑っていた。
「……ああ、覚えてる。ほんと、馬鹿話ばっかしてたな」
昔を思い出して、自然とサスケの顔に笑みが浮かぶ。それを見て、錦の顔にも笑みが浮かんだ。
「若かったからな」
「今も十分若いだろ」
サスケは錦に言った。「それはお前だろ」と言いかけたのを、錦は飲み込む。
見た目が多少変わっても、サスケにとって錦は錦なのだ。
昔も今も変わらない。
確かにお互い背負うものが増え、先代が常世を去って以後は、別々の生活をおくってきた。だが根本的なところは変わっていないと、サスケは今も思っている。それは錦も同じだった。
「そう思ってるのは、サスケだけだがな」
一旦言葉を区切ると、錦は言葉を続けた。
「……サスケ、礼を言う。皆、サスケの言葉に救われた」
錦が頭を下げる。
錦はこういう奴だ。その潔い姿にサスケは笑みを浮かべた。
「何か言ったか?」
サスケの言葉に錦は苦笑する。昔から、サスケはこういうところがあった。とても懐が広い。今まで何度、この男に救われてきただろうか。年をとっても救われている。絶対勝てないなと、錦は思う。
錦は軽く息を吐く。
「実は、少し白翼船を改造した。二週間もかからないだろう。もしかしたら、ぎりぎり間に合うかもしれない」
「本当か!!」
サスケは身を乗り出して、錦に詰め寄った。
「ああ」
錦は答えた。そして、続けて言った。
「さぁ、行こうかーー皆で黒劉山へ」
最後まで読んで頂いて、本当にありがとうございましたm(__)m




