第一話 光
水中なのに、その水は不思議と冷たくはなかった。
反対に生温かくて、まるで温水プールの中にいるようだった。その温かみは、私の冷えた体と心を温めてくれる。
体はぴくりとも動かない。
だけど、不思議と息苦しくはなかった。
(……綺麗)
徐々に小さくなっていく水泡が、僅かに開いていた目に映る。水面の光と反射してキラキラと輝いていた。とても神秘的で綺麗だった。
だけど体が沈むにつれ、水面の光も見えなくなり、次第に、水泡も見えなくなっていく。
(……どこまで沈んで行くの)
自分の事なのに、どこか他人事のようだ。
どんどん沈み、次第に真っ暗になっていく視界に反して、不思議と少しも恐怖を感じなかった。壊れた心は恐怖を感じないのかもしれない。
(もう……どうでもいい事だけど)
あまりにも心地良くて、私は静かに目を閉じる。
意識が完全に途切れた。
この時、私は確かに死んだ。
人としての生を終えたの。
でもね、光が私を救ってくれたんだ。
光が私の周囲を優しく包み込む。
沈んでいた体が光に包まれ、沈んでいた私の体は止まる。脈が止まり意識を失っていた私は、それに気付かない。
ぐったりと横たわる私の体を、光の束が上から通り抜けて行く。通り抜けた光の束は、今度は下から私の体を突き上げる。
突き上げられ、通り抜けようとした瞬間、体の奥深くで消えていた灯りが灯った。
失っていた意識が一瞬浮上仕掛ける。浮上仕掛けた時、何かが自分の体を通り抜けて行ったような、不思議な感覚した。
いや、確かに間違いなく、何かが通り抜けて行った。
だって、何かが通り抜ける瞬間、何かに上から押さえつけられるような感覚がしたからだ。
(…………な……にが……)
浮上し掛けた意識と同時に、肺に大量の空気が流れ込んできた。
ごぼっごぼっと、口から大量の泡が吐き出される。苦しくて、苦しくて、もう見えなくなっていた水面に必死に手を伸ばした。
(誰か……誰か助けて!!!!)
声にならない叫び声を上げる。
今まで心地良かった暗闇が、その瞬間、恐怖に変わった。恐怖から逃れたくて、私は必死に手を伸ばし続ける。
再度意識が途絶えようとした時、何か温かいものが、私の腕を強く掴んだ気がした。
ある夜の深夜。
寝ずの番をしていた星読みの一人が、星の異変に気が付いた。
突然、それは起きた。
星の一つが虹色に輝きだしたのだ。
その輝きはまるで太陽のようだった。闇夜が昼のように一瞬で明るくなり、山々を照らしている。しばらく輝くと、虹色の星は北の方角へと流れて行った。
二百年程前にも、これほどの輝きではないが、同じような現象が起きたと文献に記載されていたのを、星読みは知っていた。
長い間……星読みたちは、その現象が起きるのをずっと待っていたのだ。
興奮が押さえきれないまま、星読みは直ぐに〈常世〉の五聖獣の元にある報せを送った。
『神獣森羅、北の大陸に降臨する』とーー。
拙い文書を読んで頂いて、本当にありがとうございますm(__)m
次から、いよいよ〈常世〉の世界に突入します!!