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伊織とサスケ、中央都に降り立つ

 暫く主人公お休みです。



 伊織は非常に焦っていた。


 表情は全く変わってないが、実のところすごく焦っていた。


 そして同時に、行き場のない怒りが蓄積され、いつ溢れ出るか分からない程危険な状態でもあった。


 しかし、その表情は一切変わっていない。それが一層、伊織の氷の美貌を際出させていた。


 黒翼船が墜落したという大事件は、常世中を駆け巡った。


 神獣森羅様の化身である睦月が乗船していたことは伏せられていたが、新聞には、行方不明者が数人いるとだけ書かれていた。その数人に睦月が含まれているかどうか、それを確かめるつてがなかった。


 最強の魔法使いである伊織をもってしても。


 黒翼船は一ヶ月で北の大陸から南の大陸まで行く事が可能だ。でもこの帆船はどう飛ばしても、一ヶ月で、聖獣麒麟が支配する中央都にどうにか辿り着けるかどうかだ。玄武の所有する一隻を借りてもそうだった。民間の帆船はもっと遅くなる。


「伊織、もっと速い帆船はないのか!?」


 苛々したサスケが伊織に突っ掛かる。一刻も早く、黒劉山に行かなければという気持ちが、サスケを更に苛立たせた。


 何よりも、睦月を目の前で連れ拐われたことが、サスケには耐えきれない程の痛みとして、彼を襲い続けていた。同時に、自分自身に対しての怒りでどうにかなりそうだった。


 そんな状態の中で『黒翼船墜落』という記事を目にした。


 それからサスケは、眠れなくなっていた。当然、心に余裕などなかった。


 一応、御守りは持たせてある。


 主である、睦月の命に関わる何かしらの事が起きたら、サスケはすぐに分かるようにしていた。命に関わる程のことが起きていなくても、次第に御守りの力が弱くなっていることが、サスケを更に不安にさせ、苛立たせた。


「あれば乗っています!! これでも速い方ですよ!!」


 サスケの苛立ちに同調するように、伊織の言葉の端々にも怒りが含まれている。サスケはまだぶつぶつと文句を言っていが、伊織の耳には入っていないようだ。伊織は何かを考えているようだった。


「……サスケ、中央都で降りますよ」


 伊織はサスケに告げた。それは提案ではなく、決定事項として。


「はぁ~!?」


 サスケは耳を疑う。


 文句ばかり言っていても、この帆船が黒翼船に及ばなくてもかなり速い帆船であることは、重々分かっていた。玄武様の所有する帆船だ。当たり前だ。


 ましてや、特別なルートで航行している。現時点で、最速の方法。サスケもそれは重々承知していた。それを途中下車すると、伊織は言っているのだ。 耳を疑っても当然だった。


「確か……中央都には、錦が隠居生活をしているはずです」


「白翼船か!!」


 サスケは伊織が何を言おうとしていたのか、瞬時に理解した。


 ーー白翼船。


 それは、黒翼船の対の帆船である。


 そのスピードは黒翼船と比べると若干落ちるが、常世において、黒翼船に次ぐ速さを誇っていた。そしてその帆船を所有していたのが、先代の天狗の族長錦だった。隠居した際、一緒に持って出たと、伊織は聞いていたのだ。それを思い出した。


「まぁ……今回の件は天狗たちの仕業ですし、船を借りるぐらい別に構わないでしょう(貸さなければ奪うまで)」


 伊織の言葉の裏には、明らかにその意図が含まれていた。


 勿論、サスケは気付いていた。サスケは伊織の怒りの深さを感じながら、自分もまた同じだったので、ニヤリと笑うと快く賛同した。





           




 二日後。


 伊織とサスケは中央都に降り立った。


 名前の通り、中央都は常世の中心地である。


 故に、必然的に色々な種族が都を訪れ、また生活を営んでいた。中心都は経済の中心地でもある。それは、聖獣麒麟の性質に由来しているのだが。


 五つある王都の中で、色々な意味で一番発展した王都である。


「伊織、錦の居場所知ってるんだよな?」


 サスケは伊織に尋ねた。


「いや、知らない」


 至極当然のように伊織は答える。


「はぁ~!?」


 サスケは伊織の思いがけない台詞に絶句する。


「だったら、何で降りたんだよ!?」


 サスケは伊織に詰め寄る。乗って来た帆船はもう出港している筈だ。


「落ち着きなさい、サスケ」


 伊織はそう言うと、懐から一枚の札を取り出した。それに軽く息を吹き掛けると、札を空中に放り投げる。すると、札が一羽のカラスに姿を変えた。カラスは伊織とサスケの上空を二、三回旋回すると、西の方向に飛び始めた。


「行きましょう、サスケ。あのカラスが錦の場所まで案内してくれますよ」


 伊織はそう言うと、西に向かって歩き始めた。十メートル程歩みを進めた時だ。伊織がその歩みを突然止めた。


「伊織?」


 サスケは伊織に呼び掛ける。


 歩みを止めた伊織は上空を見つめていた。サスケも伊織につられるように上空を見つめる。上空で旋回しているカラスの側に、漆黒の羽根を羽ばたかせている一人の天狗の姿が見えた。


「どうやら、お迎えが来たようですよ」


 伊織がサスケに言った。





 最後まで読んで頂いて、ありがとうございました。拙い文書ですか、一生懸命書いていきますので、応援宜しくお願いします。

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