ようやくダンジョンマスターっぽい話になってきた
ゲーム感覚だったんだろうと詰られれば、楽だったろう。
「死んじゃった猫ちゃんの分も合わせて、そこそこエネルギーが入りましたよ。何かやってみませんか?」
これは決して気を紛らわせようとしてくれたわけではない。
そんな可愛らしさなどこいつは持ち合わせていない。
まだたった一日ほどの付き合いでも、それはわかる。
「先に、殺されたホムラネコを弔いたい」
仲間だったんだ。
引っ掻かれた恨みはあるが、最初に歩み寄ってきてくれた。
ギルマンたちのように、ただ海へ捨てておしまいだなんてしたくない。
「いやいや、これからもっと仲間は死にますよ。いちいち弔いなんてしてられないんじゃないですか?」
「そうなのかもしれないが、今の俺には必要なことなんだよ」
「……まあ、あなたがそう言うなら、いいんじゃないですか?」
何か含むところがありそうな返事だった。
「火葬できないとは……」
ホムラネコは種族の特性ゆえに燃えなかった。
埋める場所なんてない。
「結局は海に流すだけなんですね」
「自然葬だ。大切なのは気持ちなんだよ」
血塗れの体を洗ってやり、洞窟の入り口から海へ放つ。
ホムラネコの体から手を離すと、海流にのまれてすぐにどこかへと見えなくなった。
「では改めて、コアの力で戦力を整えましょう」
「罠やらなんやらを仕掛けるには、いろいろと不足がある。武器も今は必要ない。魔物を召喚して戦力を増やすのが一番いいか?」
「そうでしょうね。まずは量より質で魔物を召喚しましょう。この洞窟は狭いですから」
「今後のことを考えれば、海で活動できるやつの方がいいか?」
「いえ、まずは専守です。ダンジョンの外で戦っても不利な消耗戦にしかならないので、海で活動することは最初から捨て、この洞窟内で敵を迎え撃つのに最適な戦力を選びましょう」
それには異論がある。
「お前も言ってたろ。あまりここで暴れると、洞窟自体がどうにかなってしまうかもしれないと。外で戦えるようにもしておいた方がいいんじゃないか?」
ダンジョンの外で迎え撃ち、生け捕りにした敵をダンジョン内で仕留める。
洞窟内で戦うということは、コアに危険を近づけるということでもある。
倒した敵全てをダンジョンのエネルギーへと還元させることはできないだろうが、詰みを回避するには必要な犠牲だと思う。
「それも一理あります。しかし、外で戦う道はいばらの道ですよ。敵の強みも活かす戦場ですから」
それもそうか。
「まあ、万一のことを考えるあなたの意見もわかります。私は水陸両用なので多少の融通は利きますし、いざというときは召喚した魔物を殺して、エネルギーに戻しましょう。召喚したときよりエネルギーは減りますが、そもそも余裕がある状況ではないので、取捨選択による我慢です」
「仲間殺しか」
「嫌ですか?」
「当然だろ」
「良かったです。それを気にしない人なら、きっと一緒に戦っていて楽しくないでしょうから」
ひどい罠だ。
楽しくなければ俺は切られるんだろう。
「量対量の戦いになれば乗り切れない公算です。質だってやりくりするのは現状厳しい。では、上手く弱点を突くしかないでしょう。その点では、供物さえあればどんな力だって手に入る私たちに目があります」
「供物って言い方はやめろ」
「あはは」
「それはそうとして、今、コアのエネルギーはどれくらいあるんだ?」
「ホムラネコなら二匹くらいですかね。マーマンの分が結構いいエネルギーになってるんですよね」
初期のエネルギーよりは少ないのか。
「じゃあ、あんまり強い奴は喚べないわけだ」
「ネコちゃんは強いんですけど、遠距離から炎攻撃ができる子がいいですね」
「候補は?」
今だと、止めの時にしか敵の弱点である炎攻撃が活かされていないからな。
「人間の魔術師とか……」
「待て! 人間も作り出せるのか!?」
「できますよ? むしろなぜできないと思っていたんですか?」
「いや、魔物じゃないだろ人間は!」
感情的にも。
この世界のことを知らない俺だが、こればかりは違うんじゃないかと言いたい。
「いやいや、それは差別です。人間だって魔物の仲間ですよ」
どういうことなんだ。
「まあその話は置いといて、人間の魔術師の他にはサラマンダー、ドラゴンインファント、火吹きネズミなど、いろいろといます。おすすめはドラゴンインファントですね。千年ほどで成体になるので、養殖するとお得です」
千年後まで生きている気がしない。
「人間の魔術師がいい」
会話の相手がラッティだけだと気が滅入りそうだし。
「理由は?」
「意思疎通ができる相手がいい。連携を組ませやすい」
「なるほど」
納得してくれたようだ。
「そういえば、お前はコアの力を使えるんだろ? 俺に構わずやりたいようにできるのに、なぜ俺の意見を優先してくれるんだ?」
最初、こいつは勝手にホムラネコを召喚した。
「私はあんまりごちゃごちゃ考えるのが好きじゃないので、面倒臭いことはいずれ全てあなたに押しつけます。そのためには学んでいってもらわないと」
いい笑顔だ。だが、嫌な笑顔だ。