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危なげない命の危機


「ギャギャッ!」

「ギャッギャ!」

「ギャートルズ!!」


 色んなゲームで見たことのある、サハギンとかディープワンとかそういうヌメッた人型の生き物が三匹入りこんでいた。水色の鱗が薄汚い。

 しかし、こいつらが先ほどの揺れを発生させたとは思えない。

 体つきが貧層だと言うつもりはないが、こいつらが暴れたところで、揺れるのはあばら家くらいだろう。


「あれはギルマンです。魔物の国の先兵ですよ、きっと」


 ラッティ、こいつはこんな時でも笑ってやがる。


「おい、どうすればいい!?」


 ダンジョンの運営について、まだ具体的なことは何も聞いていないし、分かってもいない。


「ギャーン!!」


 ギルマンどもがこちらを指差し、駆けてきた。


「あれくらいなら私が片づけてもいいですけど、せっかくなのでダンジョンの力を使って撃退してみましょうか」


 こいつ語り口がのんきすぎる!


「どうすればいいんだよ! 早く! しろ! 早く!!」


「そうですね。相手は魚人ですし、炎の魔人でも呼び出してみますか」


 大仰な名前が出てきたが、いきなりそんな大層な奴が使えるのか!?

 いや、迷っている時間はない!


「炎の魔人、召喚!!」


 何も起こらない。何も出てこない。

 口で言うだけじゃあ、駄目なのか!?


「いやいや、冗談ですよ。いきなりそんなの呼べるわけないじゃないですか」


 口に手を当てて、嘲るように笑ってやがる。


「お前ふざけんなよ!? どうすんだよ!!」


 間近まできたギルマンが鋭い爪を見せ、腕を振りかぶるのを見た。

 こんなくだらない冗談のために死ぬのか? 俺は……。


「ホムラネコを三匹召喚。……侵入者を始末してください」


 目で追えない速度で突きだされたギルマンの腕は、目に見えない速度で割り込んできた三つ又の槍で受け止められていた。

 隣でラッティが槍を持ちながらニヤニヤと、尻もちついた俺を見ている。腹が立つ。


「ギャ!」

「ギギャ!」


「ギニャー!!」


 ついで真っ赤な猫が三匹、現れると同時に三匹のギルマンに跳びかかった。

 ラッティは俺の首根っこを掴んで、ギルマンたちから離れた。

 ギルマンたちは突然現れ襲いかかってくる猫たちに動揺して、離れた俺たちから意識を外したようだった。


「ギギギ!!?」

「シャーッ!!」


 傍から見て、ギルマンたちは猫の動きについていけていない。

 翻弄され、手傷を負い、一体が膝をつき、ギルマンたちは順に倒れ伏していった。

 三匹のギルマンが倒れると、猫たちはそれぞれ大口を開けてギルマンの体に齧り付く。


「うお……」


 猫の口元が、噛みつかれたギルマンの体が、炎に猛る。

 しばらくして、焼け焦げ、一部が黒ずみ、ギルマンが動かなくなったのを確認した猫たちは、凛とした佇まいで居直った。


「さて、このダンジョンが誕生して三時間ほどで、いきなり侵入者が現れてしまいました。彼らのような海洋生物には、案外見つけやすい入り口なのかもしれませんね」


 海底にひっそりと開いた洞窟。それがこのダンジョン。

 そんな辺境ゆえに、本来行われるようなダンジョンマスター同士の争いからは遠いのかもしれないが、それは置いてけぼりにされることを意味する。


 かと思いきや、実はここも戦いの最前線なのだという。


「くそっ、怖えじゃねえかよ。こんなんで俺はやっていけんのか……?」


 多分、ギルマンは雑魚中の雑魚なんだろう。

 最初から呼び出せる猫型の魔物だけで、あれだけ圧倒したのだから。

 でもそのギルマン相手でさえ、俺は全く動けなくなり固まってしまった。

 これから場数を踏んでいけばマシになるのか?


「なんとかなりますよ。なんともならなかった時のことは、考える必要ないんですから」


 ラッティの声は今までで一等優しい声色だった。少なくともそう感じた。

 思うところが、あるにはある。


「……助けてくれてありがとう」


「あはは。素直にお礼が言えるのはいいことですよ」


 差し出された手を取って立ち上がる。

 緊張でこわばった体は節々が少し痛む。


「さて、私たちは初戦を勝ち抜けました。ですが、そうではなかった方々もいるようです」


「なんだって?」


「すでに死んでしまったダンジョンマスターが三人。あなたの同胞ですね。私のような助っ人に殺されてしまったようです。乗っ取りですね」


 ガンと殴られたような衝撃を感じた。

 こいつ裏切るのか!?

 というか、外の、他のダンジョンのことがわかるのか!


「そういう子もいるということです。私たちはダンジョンのコアに生み出された存在ですが、あなたたちダンジョンマスターは違います。よそ者で、コアが死ねばマスターも死ぬというだけの存在なんです。コア側である私たちが、あなたたちマスター側を裏切ることは選択肢としてありえます」


「そんな……」


「まあ、少なくとも今の私にあなたを切るつもりはないですよ。仲良くやっていきましょう」


 ……なんでこいつは、今こんな話をしたんだ。

 三人も死んだ? 殺された?

 仲間だと思っていたやつに殺されたのか、最初から敵として殺されたのか。

 どれだけ巻き込まれた奴がいるのかわからないが、少なくとも俺は生きている。助けられた。きちんと現状を教えてくれるやつがいた。

 どう考えればいい。


キーワード

ギルマン:半魚人。敵。

ホムラネコ:真っ赤な猫。味方。

ダンジョンマスター:ダンジョンの支配者、ではなく、雇われ社長。

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