終わりを見据えて行進する
「グルモヴァアァアアァ!!」
シービショップが、この世のものとは思えないような断末魔を上げて崩れ落ちた。
量産される触手と、シービショップ本体の強靭な肉体に魔法。
これらを攻略し、完封し、捕えて殺した。
「これで準備は完了だ」
思い返せば、ラッティは本物の戦闘狂だったのだろう。
新たにコアが用意してくれた助っ人というか、案内人というか。
あの黄色いレインコートの子にシービショップの能力を詳しく聞き、必要な対策をこなせる魔物や道具がないか聞き。
結果が完封だ。
完全に敵の攻撃を抑え、安全にシービショップを捕えた。
ラッティが思い付いていなかったとは思えない。
考えてみれば当たり前だ。コアの力を使えば、大抵の物は手に入る。
経費を上回る結果を得ることなど、敵のことさえ分かっていれば簡単だったはずなのだ。
方法は一つじゃない。いくらでも思い付いただろう。
おそらくラッティは、勝ち負けの際どい勝負が好きだったのだ。
勝てるかどうか、わからない勝負を最前線で楽しむ勝負師。
いなくなってからわかる、気の合いそうな部分。
俺はゲームとか、遊びの中でしかそういうスタイルを貫くことはできないが、ラッティは命がけでやった。
やはり狂人だ。
「うーん? まだまだ絞り取れたのに、もうやめちゃうの?」
捕えたシービショップに配下の触手を生み出させ、それを狩ってエネルギーを溜める作業。
確かにまだまだ時間をかけて稼いでも良いものだったが。
「もう、勝つには充分なエネルギーが貯まったからな」
まあ確実に、とは言えないが。
さっさと終わらせて、新天地を目指したいのだ。俺は。
もうこの洞窟に閉じこもったままは嫌なんだ。
「おおう! すごい強気! 傲慢! ワンマン! 無鉄砲!」
やんや、やんやと、まるで褒め言葉かのように。
そういう少女は、うんうん唸って考えて、結局名前は決められなかったようだ。
俺が代わりに名付けてやるのも何か違うような気がして、放っている。
≪国一番の猛者であるフラメフィス将軍を失い、シービショップは取り逃がし、謎の敵の正体も全く掴めず、味方の被害は大きい、か……≫
グイコ将軍の報告を聞き、老将グランスバルは頭を抱えたくなった。
女王も、長年国へ尽くしてきたことへの反動が、もうどうしようもないところまで来ている。
次に大魔法を使えば、女王はその命を散らすだろう。
≪シービショップの行方は未だ知れず。では、ガミ千人長の危惧していた謎の空洞から処理しましょう≫
先だっては老将とともに、都の防衛に当たっていた将軍エスノート。
彼は嗄れた声で泰然と言い放った。
≪……お主は、頼もしいのう。おう……≫
グランスバルは言葉を選んだ。
エスノートには覇気がない。どこか死人のような顔つきで、どのような逆境でも評価すべき戦果を挙げる、不気味な男だった。
たしかに先日の戦いで多大な被害を被ったものの、まだ五万からなる軍勢が健在だ。
ゆえにエスノートの、まずはすべきことを見据えて行動しようという気概は、確かに頼もしい。
だが、七万の味方が短期間で二万も殺されたことにも動じない言動が、不信感をも与えている。
≪……大敗を喫した私が言えたことではありませんが、決して油断なさらぬよう≫
グイコ将軍はこの会議の中、事実以外のことを喋ろうとはしなかった。
総大将が戦死してしまった以上、責任はグイコ将軍が取らなければならない。
強さが地位となる魔物の国で、明らかな命令違反や軍法違反以外で降格は無し。今は人手がいる状況なので、謹慎なども無し。結果として、減俸のみとなった。
咎めが軽いと感じたグイコは、自主的に慎ましく振舞うことにしたのだ。
≪もとより油断はせぬ。この身は常に、若輩なれば≫
エスコートの表情と声色では、謙遜なのかもわからない。
最終決戦の部隊へ進む道中で、魔物の国の戦団と出遭った。
「おっと、前哨戦があったか」
召喚した味方に、水中で活動できる魔法をかけてもらっている。
最終決戦をお留守番だなんて、できるはずもない。
海の中は視界が悪く、俺にはほとんど何も見えないが、斥候である味方のマーマンが逐一周囲の状況を教えてくれる。
そして今、進行方向からマーマンなど魚人の群れが迫ってくると報告が来た。
「いやー。マスターがどれほどのお人なのか、ここでわかるってことだね! 楽しみだね!」
レインコートの少女も、魔法をかけてもらって同行している。
戦闘力は皆無らしいが、知識担当だというのだから、こういう時には付いてきてもらわないと困る。
「ここまで戦力が整っていれば、俺がどうのこうのなんて関係ないがな」
最終決戦に向けて整えた自陣を見渡す。
……視界が悪くて見渡せなかった。
「ま、まあいい。これは本番への試金石だ。どれだけ戦えるのか実際に……。まあ、結果が出ればわかるか」




