作戦会議。上手くいくとは限らないけども
「しかし、随分とエネルギーが貯まりましたね」
奥の部屋からは割と長い廊下があるんだが、コアの光がはっきりと分かるほどに辿り着いている。
「ちなみに私たち、現在侵入者撃退数では全ダンジョンで第三位みたいですよ」
そんなにか!?
ってか、そんなこともわかるのか!
「まあ、一位と二位にはぶっちぎりで突き放されていますけどね。その二か所はマスターぶっ殺したところです」
「……たしかマスターはコアに吸収されるエネルギーが高いって話だったよな? やっぱり、スタートダッシュ決めるために殺されたってのか……」
しかしこいつ、黙っていることが多すぎる。
他にもまだダンジョンに関して、俺が聞いてないことはたくさんあるんだろうな……。
「まあ、マスターの方がダンジョンのエネルギーを効率よく使えるので、長期的にみると一長一短です。あまり気にせずいきましょう」
俺が気にしているのは有利不利じゃない。
というか、これもまた新情報だな。最初にホムラネコ三匹をラッティが召喚したのは効率悪かったのか。
「それで、どうする? 魔物の国とは完全に敵対して、あれだけ被害を出させたんだ。次は本気で来るだろう。女王への対策を用意しないといけないんじゃないか?」
「女王対策と言っても、私は女王のこと、マーメイドで魔法能力に優れているということくらいしか知りませんからねえ」
それだけの情報で対策しても、役に立つかと聞かれればたしかにあやしい気がする。
「何か女王に関して逸話とかはないのか?」
「七百年前、死霊術師が世界征服を企てたときには、嵐を呼び起こして死霊に支配された大陸を削り崩したと言われています」
「あ、嵐で? 大陸を削り崩すだと!?」
アトランティス大陸は洪水に飲まれたんだったか?
何にせよ俺たちとはスケールが違う。
……しょ、所詮は逸話だ。
「話半分、小島を海に沈めたくらいに考えたとしても、並はずれているな」
召喚した人間の魔術師が火球程度なのだ。自然災害のごとくは、まさに魔法。
「ま、それはそれとして、多分女王は前線に出てきませんよ」
「なぜだ?」
「そりゃあ、それだけ強力な魔法は使うたびに命を消費しなければならないからです。であれば、いよいよ追い詰められなければ温存するものでしょう。少なくとも数万の軍勢が敵に残っているうちは出てこないんじゃないですかね?」
敵の切り札ってことか。
「なら今は女王のことは一旦置いておくとして、数万の軍勢相手にどう立ち回るか、だな」
「敵の数を減らさなければなりません。私たちはもはや不倶戴天です。全滅させるには流石に戦力不足でしょう」
ラッティは零れるコアの光を見ながら言う。
「毒でも流して殲滅できないか?」
すらっと出てきたが、言った自分自身、あまりの非道さにドキッとした。
「海流の流れに沿って毒を流しますか。でも難しいでしょうね。下手に怒りを買うだけで終わる可能性が、無視できません」
「……ああ。そういえば、ダンジョンを拡張するのはどうだ? 海底の一部をダンジョンにできれば戦力を多く展開できるだろうし、この洞窟が崩壊する危険も冒さなくていい展開に持っていきやすいんじゃないか?」
「それはありですね。ただし、敵の戦力も完全に活かされますけど」
先程は洞窟の中で迎え撃った。
二千の敵が一斉に洞窟に入ってこれるわけもなく、逐次投入される敵を順に討伐しただけの話だ。
これから本気になるであろう敵、数万を相手に数の差が活きる戦場をわざわざ選ぶのは自殺行為か。
「俺が言い始めたことだが、なぜそれが有りになるんだ」
「洞窟の外で戦えるようになるということは、私たちも大型の強力な魔物の力を使うことができるようになるからです」
そしてラッティは魔物の名前を挙げはじめる。
「中でもお勧めは大型ゴーレムです。冷気に強い素材のゴーレムにすれば、魔物の国の戦力では有効打となる攻撃がほとんどないということもあります」
打撃攻撃は質量の差で有効ではなく、魔法では水か氷、つまり冷気に強ければ問題はないとのこと。
「質量で対抗できそうな大型海獣だって、水がなければ身動きを取るのにも問題がある種族ばかりですから」
「だが、そんなデカブツが洞窟の上で暴れて、問題ないのか?」
「……どうでしょうね?」
放り投げるようないい加減さで答えられた。
「駄目じゃないか!」
あははと笑い、悪びれない。
「まあ、そんなに簡単に上手い手立てが見つかるような状況じゃないんです。焦らずじっくり構えましょう」
「焦らずじっくり構えていられるような状況じゃないだろうが」
「そうなんですけどね」
一度落ち着いて、一から考え直すべきかもしれない。
コアの力で生み出した野菜と、外でラッティが獲ってきてくれた魚を焼いて腹を満足させた後。
「なんとかさ、この洞窟の入り口を隠して、ゲリラ戦でも仕掛けられないか?」
ここが襲われないのであれば、じっくり事を構えられるのだ。
「幻術で隠す。入口を岩か何かで塞いで隠す。……できますが、つまらない戦略になりそうですねえ」
敵は俺たちを血眼になって捜すだろう。
しかし見つからなければ。時間が経って、捜索や警戒が弱まれば。
はぐれを襲い、ダンジョンへ拉致して始末する。時間をかけて、コアのエネルギー蓄える。
「緊張感がある、の間違いだろう? ばれないように神経を張り詰めなければいけない」
「私はもっと、斬った張ったを派手にやりたいんですがねえ」
「それは最後にやればいい。どうせ最後には正面からやりあうことになる。敵を密かに拉致して始末するなんてやり方だけじゃ、勝てはしないからな」
「いいでしょう。従います。何も間違っていませんからね」
目を細めて、随分と不服そうな笑顔だ。ちょっと可愛い。




