幼馴染の彼
サークルで出逢った彼に誘われて、地元では有名な遊歩道のある商店街に遊びに来た。
これはデートというべきものだろうか、と肩を並べて歩く彼の横顔を眺めながら考える。意識し始めると胸が高鳴り始め、熱が頬に帯びる。
そっと指先に冷たい何かが触れ、体がぴくりと反応する。視線を下に向ければ、彼の指先が私のに触れていた。
視線を彼に戻すと、彼は足を止めて照れを隠すように顔を伏せ、頬をかく。
「その――……手、繋いでもいいかな」
ぎこちなく聞いてくる彼に、断る理由もないので頷けば嬉しそうに顔を上げて笑う。
「私、服が見たいな」
「いいよ」
彼を導くように、止めていた足を進める。
それからお互いに行きたい所を回り、気がつけば帰る時間帯になっていた。
邪魔にならない駅の改札口付近で今日は楽しかった、有り難う。また誘ってね、とありきたりな言葉を吐く。
じゃあ、と手を振り上げて行こうとしたところで、待って、と呼び止められる。
顔を真っ赤にさせ、口をもごもごさせる彼。ああ、告白される。そう冷静になりながら、彼の言葉を待つ。そして彼が意を決めた瞬間、それは阻まれる。
すぐ近くから私の名を呼び声に、私も彼も肩を揺らして驚く。小走りで近寄ってきた人物を見て、私は顔を顰める。
「この人誰? 日向ちゃんの知り合い?」
「いいえ」
「初めまして、日向の彼氏の小鳥遊 葵です」
「え、彼氏って……。日向ちゃん、彼氏いないって」
大きく開かれた彼の瞳が揺らぐ。
「ちがっ」
「違わないよ」
否定しようと口を開けば、遮られる。
「え……っと、俺、そろそろバイトだから。もう行くね」
目を合わせてくれないまま彼はこの場から立ち去る。
勘違いされた、如何しよう、と、蹲る。
「俺達も帰ろう」
伸ばされた手を弾き、立ち上がる。
「貴方は! 私の! 彼氏じゃないのに! 何で邪魔するの?!」
怒りに任せて喚き散らせば、周囲の視線が私に向く。
修羅場かしら、と囁く声が聞こえる。
恥ずかしくて、口を噛み締めれば生暖かい指先が唇に触れる。
「唇、かさかさしているね。俺があげたリップ、ちゃんと塗ってる?」
先週葵から貰った、ある化粧品会社が販売しているブランドが少しかかった良い香りがするリップクリームは、貰ったその日に捨てた。
「あんなもの、捨てたわよ。あんな甘い匂いがするもの、私は嫌い」
嘘。本とは好きな香りだった。
「そう、それは残念。今度はもっといいのをあげるね」
「いらない。いい加減手、離してよ。汚い」
「ごめんね。今度から消毒してから触るね」
そういう意味で言ったわけじゃない。
葵の手を解き、今後のサークル活動について考えながら改札口に向かう。