息をした日
師匠視点。過去話。
*流血(?)表現あり!詳しくは書きませんでしたが・・・
苦手な方はご注意ください。
泣き疲れて眠ってしまったクリスを見下ろす。
8年ぶりに手の中に取り戻した。仕方なく手放し、大切だからこそ近づけなかった女。
出会いがしらに抱きつかれた時はさすがに驚いたが、クリスだと認識した途端、他のすべては関係なくなった。
ティグルが叫ばなければ宿の階段で襲いかかっていたかもしれない。そこは感謝してもいい。
相変わらず泣き顔も反応も可愛らしいクリスに改めて酔いしれながら、瞳に浮かぶ変わらない思慕に理性を働かせる。
クリスの中では8年前、父代わりでもあっただろう自分が、急に男の顔をすれば怯えさせるかもしれない。
これからは時間がたっぷりとあるのだから、焦る必要はないと自分をなだめた。
あどけない寝顔を見つめながら、クリスを拾った頃に思いをはせる。
あの頃の自分は、周囲に飽きていた。
里から出たばかりのころは目新しいものも多く、何をするにもそれなりに楽しんでいたが、時間が経つにつれてそれもなくなった。
剣を握り鍛錬をしてみたりもしたが、身体能力の高さや生来の器用さにより、王都の祭りで優勝するのも早かった。そうすると騎士団や貴族が取り込もうとうるさくなり、それらのいないところへと放浪する。
そんな旅の途中だった。
最初は、死体かと思ったのだ。
(野盗でも出たか?)
山の途中、血の匂いが獣の仕業にしては強いと思いつつ、その時は好奇心が勝って、わざわざ崖下まで降りた。
壊れた荷馬車と、御者をしていたらしき男の死体。馬の死体と共にかろうじて認識できる。2日は経っているようだ。
荷物らしきものは見当たらない。獣に人の荷は必要ないため、やはり何者かが持ち去ったようだ。獣の狂宴はその後だろう。
また獣が戻ってきても面倒だと、その場を去るために足を進める。
と、別の血の香りがあった。
どうやら同じ馬車に乗っていた女のようで、恐らくは崖から落ちた時に放り出されたのだろう。
木に引っ掛かっていた。こちらは比較的綺麗だが、すでに息はしていない。
だが、何故か離れがたい。
(・・・・・何か持っているのか?)
女の体は自分の視線の上にあったが、よくよく見れば両腕はしっかりと何かを抱きしめている。
死体に触れるなど普段はしないが、気になるモノはその腕の中だ。仕方ない。
なるべく丁寧に女の死体を引きずり下ろす。
がっちりと固まっている腕を、壊さないように開いた。
「・・・なるほど。」
血に染まった身体。小さな手足。青ざめた顔。閉じられた瞳。
だが、抱きしめていた女とは違い、少女の身体には確かに温度があった。
それが、クリスだった。
その時初めて、自分はこれを探していたのだと知ったのだ。
・・・・・・・・・・ありがちですが!
いいのです。宣言します。私は王道が好きです!