日常
目を開けたら師匠の腕の中だった。
柔らかく体を包み込む腕が懐かしくて、ぼんやりと顔を見上げていると、額にキスが降ってくる。
「おはよう。よく眠れたようだな。」
「おはようございます・・・。」
あいさつに応えると、一緒に体を起こされる。
いつの間にか夜着に着替えていたが、部屋が借りたものとは違い、食事をした師匠の部屋だ。
「顔を洗って着替えて来い。それとも、昨日みたいに着替えさせてやるか?」
差し出される自分の着替えを不思議に思うが、そのまま服の裾に手をかけられそうになって、慌てて押さえる。
「大丈夫です。・・・・昨日?」
「泣き疲れて寝ボケたお前が、俺に着替えさせろと服を渡してきた。」
「!?」
「かわいかったが、さすがに寝ボケて子供返りをしてるやつに手は出せんからなぁ・・。」
にやにやと笑う師匠に、顔が赤くなる。子供返り?
混乱する自分の耳のすぐそばで、低い声が囁く。
「ラミレナーダ、今から愛し合うか?」
「~~~っ!結構です!!」
師匠から逃げだし、洗い場に飛び込んだ。
備え付けの鏡に映った顔はこれ以上ないほど赤くなっていた。
何とか体裁を整えて戻ると、エリナとティグルもそろっていた。
「おはよう、エリナ。ティグルさん。」
「おはよう、クリス。体に違和感はない?」
「違和感?特にないけど。」
「そうなの?・・・。」
「おはようございます、クリス様。私のことは呼び捨てで構いません。・・・・。」
挨拶を返して、二人は何故か師匠を見る。
師匠はいつもの笑顔だ。
「・・・まぁ、私からはとやかく言いません。ところで、お二方の本日のご予定は隣町までの警護だと伺っておりますが、同行させていただいても構いませんか?」
気を取り直したようにティグルが訪ねてくる。横で黙っているところをみると、情報源はエリナらしい。
確かに今日は、商隊の警護を請け負っていた。
師匠を探して旅をしていたため、移動しながら路銀を稼げる仕事はうってつけだった。
しかし、師匠を探していたのだが、師匠に会えるとは思っていなかったために受けた仕事に、二人をつき合わせてもいいものなのだろうか?
「クリス。俺はお前と共にいるのなら、どこで何をしたってかまわん。」
迷いを的確に見抜いた師匠が、頬を撫でつつ言う。その手に安心して、肩の力を抜いた。
「では、一緒に来てもらえますか?商隊には私から話しますから。」
「ま、何度か会ったことのある人だし、同行ぐらい大丈夫でしょ。」
エリナも肩をすくめて了承してくれたので、視線に感謝を乗せる。
いつもと変わらぬ頼りになる笑顔が返ってきて、それにも安心して笑った。
そうして日常が始まる。
昨日とは異なる、昔手にしていた幸せな日常が。
クリス視点はとりあえずここまで。
次は過去か、師匠視点か、他視点か・・・・R18につなげるか?(笑)
考え中です。