不安
この物語は甘い空気に重点を置いています。
・・・・・ストーリーは進みにくいです・・・・・。
膝から降ろされることも、それどころか自分で食べ物を口に運ぶことも許されず、エリナと師匠の知り合いらしき男性の前で羞恥に耐えた。
エリナのニヤニヤとしか形容できない笑みに、食事の味はわからず、ただ腹は膨れたのでもうそれで良しとする。
男性はティグルと名乗った。師匠と同郷らしい。
「ゼル様にお会いしたのは4年前ですね。それ以前から噂は聞いていましたが。旅にご一緒させていただいて3年経ちます。」
ちなみにゼルとは師匠のことだ。
「クリスのお師匠様は、クリスと離れてずっと旅をしてたの?」
「いや、旅を始めたのは3年前からだ。それまではずっと里にいた。」
「・・・12歳のクリスを放って?」
エリナがすぅっと冷えた目で師匠を見る。
エリナは2年前に知り合い、何度か依頼で顔を合わせ、1年半ほど一緒に旅をしている。
私がどれだけ真剣に師匠を探していたかを身近で見てきた分、内心では師匠に怒りを募らせていたようだ。
「それは恐らくクリス様のためでしょうね。」
「クリスのため?」
「ティグル。」
口をはさんだティグルを、師匠が低く呼ぶ。
ティグルはすぐに頭を下げた。
「クリス。」
打って変って柔らかく呼ばれ、師匠を振り返った。
声と同じ柔らかなまなざしに、苦味がまじる。
「12のお前を一人にしたことは変わらん。恨み事があればいつでも俺を詰っていい。」
「・・・いつでも?」
「これからは傍にいる。」
「ほんとうに?」
「本当だとも。ずっと一緒だ。」
力強く頷かれ、泣きつくしたはずの涙がまたあふれてくる。
「・・・お師匠様がいなくなって、何故いなくなったのかもわからなくて。」
「ああ。」
「いつもと同じ日だと思っていたのに、違ったのかと。でも違うことも見当たらなくて。」
「ああ。」
「じゃあ、私が何かしたのかと思って。お師匠様に戻ってきて欲しくて、でもわからなくて。」
「ああ。」
「お師匠様に嫌われたのかと・・・でも、いつもと同じはずだったのに。じゃあ、お師匠様は本当はずっと私を嫌いだったの?」
「馬鹿な!お前を嫌うなんて、ありえん!」
「でも、お師匠様は急にいなくなったの。なんで?私を嫌ってたから、でも優しくて見捨てられなくて、でも我慢できなくなったんじゃないの?」
「違う。クリス。お前は俺の宝。お前を嫌うなど、この心臓を抉られてもありえない。」
師匠がいなくなってからずっと不安に思っていたことを、師匠のまなざしに勇気づけられて吐き出す。
真剣な表情で、力強い腕で、甘やかな瞳で、涙をぬぐう唇で、全身で否定してくれる師匠に、心が満たされていく。
顔中にキスを送られ、抱きしめられて頭のてっぺんにも唇を落とされる。
「不安にさせて悪かった。愛しているよ、俺のラミレナーダ。」
8年前と変わらぬ呼び名に、私は泣きながら笑った。
エリナ「結局理由は言ってないわね。」
クリスさんの不安解消の回でしたので・・・・。