再会
とにかく甘ーいのが書きたくなりました。ありがちなお話です。
「---------!」
後ろから音がするような気がするけれど、そんなものは全く気にならない。
今しがみついている人が消えてしまうんじゃないかとか、夢じゃないかとか、間違えるなんてないとは思うけれど別人じゃないかとかの方が重要だから。
「・・・・。」
「・・・・ひさしぶりだな?」
「・・・・っ!」
驚いていた顔から、ゆっくりと笑顔になって、8年ぶりに大好きな声が聞けた。
あわせている胸から伝わる振動も、間違いなく目の前の人の存在を伝えてくる。
「あぁ、泣くな。お前に泣かれると困る。」
一気に涙腺が決壊して、せっかくの顔が見えなくなる。
そのまま消えられては困るから、しがみつく腕を強めて、肩に顔を押しあてた。
変わらない大きな手が優しく頭を撫で、昔に比べ重くなったはずの体を軽々と抱きあげられる。
「よしよし。部屋に行こうな。お前は食いもんとって来い。二人分。」
だれかに命じて、そのまま歩きだす。まだ顔を上げられないが、どうやら部屋まで運ばれているらしい。
扉の開閉の音が聞こえ、どこかに腰掛ける感触がした。
「・・・ししょぅ・・」
「うん?」
「おし・しょぉっ・さまっ」
「無理にしゃべるな。咳き込むぞ?」
「ふえええぇえぇぇぇっ!!」
優しく声をかけられ、頭をなでられ、背中をたたかれ、もう我慢が出来なかった。
8年ぶりの泣き声は全く成長してなかったと、後から言われた。
あれからどれだけ経ったかわからないが、ため込んだものを押し流す勢いで泣き続け、しゃくりあげ、それも落ち着いてきた。
お師匠さまがあててきたちり紙で鼻をかみ、苦笑する顔をぼんやりと見上げる。
「落ち着いたか?」
「・・・ぁい。」
「『あい』って・・・・相変わらずかわいいな・・・」
「?」
ちょうどしゃくりあげてしまい、お師匠さまの言葉が聞こえなかったので首を傾げるが、何でもないと頭を撫でられる。
そのまままた軽く背中をたたかれ、お師匠さまの肩にまた頭を預けた。
「・・・・・そろそろよろしいでしょうか?」
「!?」
そのままうとうとしそうになったところにかけられた第三者の声に驚き、振り返る。
胡乱な表情で見つめてくる知らない顔と、生温かい目で見つめてくる知った顔にまた驚いた。
「お前ら、ちったぁ気をきかせろよ。俺たちは感動の再会をしてんだぞ?」
「だからこそ、そちらの方が落ち着くまで待ったのではないですか。」
「一晩二人きりにするぐらいしろっつってんだよ。」
「それは貴方が暴走しかねませんので却下します。」
知らぬ顔の男の言葉に、お師匠さまが舌打ちする。
その音にお師匠さまを見、その顔の近さに自分たちの体勢を思い出した。
お師匠さまの膝にのしかかり、首に腕をからめたまま人前で大泣きしたことに気付き、先ほどとは違った熱が顔に集まる。
慌てて腕を解いて降りようとしたが、腰にまわされた腕が許してくれなかった。
「お師匠さまっ!」
「別にこのままでいいだろ。」
「恥ずかしいです!」
「昔は人前でも平気で膝の上に乗ってきてたじゃねぇか。」
「あ、あれは幼かったからで・・」
「でかくなったなぁ。」
「だから放してください!」
「いやだ。」
きっぱりと断られ、二の句が継げなくなる。
背後からため息が聞こえ、ますます顔が熱くなった。
「・・・その方を探されていたのですか?」
「そうだ。かわいいだろう?やらねぇからな。」
「人間ですよね?」
「まぁな。だがどうとでもなる。」
「・・・・貴方ならそうでしょうね。しかし、里に何と報告したものか・・・」
「別に、前から言ってあるだろうが。」
「8年も離れていられたのですから、信じられるわけないでしょう。」
「てめぇらが引き離したんだろうがよ・・・。」
何の話かわからなかったが、お師匠さまの怒りを身近に感じ、勝手に体がびくつく。
その揺れに気付いたお師匠さまがすぐに怒りを消して、笑いかけてくる。
「ねぇ、とりあえず食べない?せっかく持ってきたのに冷めちゃうし、私もクリスも食事に行く途中だったんだけど?」
お師匠さまの笑顔に見とれかけて、呆れたような笑っているような声にまた我に返った。
見れば、生温かいとしか言えない笑顔で、旅仲間のエリナが卓について食事を示している。
示された食事に空腹を思い出した途端、くぅと胃が主張した。
その音が聞こえたらしく、お師匠さまが仕方ないと言うように苦笑し、腰かけていたベッドから立ち上がる。
・・・私を抱えたまま。
「自分で歩けます!」
「いいからいいから。ほら、着いた。」
普通の宿にしては広い部屋と言っても、室内のこと。
抵抗しようにもすぐ卓に着き、そのまままた膝に下される。
「お師匠さま・・・」
「ん?何が食いたい?」
「とりあえず話が進まないから、そのままでいいわよクリス。私は気にしないわ。」
「私は気にするんだ!」
「諦められた方がよろしいかと。」
お師匠さまの知り合いらしき人にばっさりと切り捨てられ、お師匠さまは機嫌よく、器用に片手で料理を皿に取り分けている。
羞恥に耐える時間が始まってしまった。
登場人物
クリス
18歳女性。冒険者をしつつ師匠を探していた。
男装の麗人。
師匠
クリスの師匠。8年前に姿を消した。
クリスを探していたようだが・・・?