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ラン・アンド・ガン  作者: 魔桜
shoot 02~someday somewhere~
5/8

act:05-biohazard

「バイオハザードにより、世界中の人類がゾンビ化してしまった。……っていう設定らしい」

「へえ」

「結構ありきたりだろ? まあ、ストーリー性がないから、ないだけハマる人間もいるだろうからそれでいいんだろうけど。最初からストーリーが決まっているゲームより、あれこれ想像を膨らませて、自ら物語を創作するほうが面白いってのが、俺の持論」

 昨今のサブカルチャー作品は、VRMMO以外であってもストーリー性はほとんど皆無になっている。世界観や設定だけを作って、それから後は消費者に委ねるというスタイルが定着している。言うならば、二次創作万歳という感じ。

 結局は、他人の作った作品よりは、自分が作ったストーリーが一番面白いと感じる。

 所詮、ゲームやライトノベルやアニメなんて、二次創作を作るための素材。……なんて、堂々と宣う人間が出てくる始末だ。

 だからこそ、このゲームにはストーリーがない。

 ネット上では、《RAG》を題材にした物語を創作した人間もいる。

 出来が秀逸だと話題になり、評価されてライトノベルを出版した作者だっている。確か現役の中学生だったはずだ。その中学生もヘルヴァンと同じように、《RAG》の虜になっているプレイヤーの一人だと聞いたことがある。

「それじゃあ、あれは何ですか?」

 ナナシが指差したのは、ヴィラの街からフィールドに出る直前にある半透明の画面だった。

 映写機によって撮されたグラフイックのようなもので、半透明。

 そこにはずらりと下から上までびっしりと名前が刻まれている。その横には何やら数字の羅列。大きな内壁にぼんやりと写っていた。

「スコアボードだよ。あそこにはプレイヤー10万人の中から、上位50人のトッププレイヤーが写し出されるんだ。あそこに映し出されなくても、ステータス画面を見れば、自分が何位に位置するかは確認できるけどな」

「えっ? プレイヤーって10万人もいるんですか?」

「……ああ。10万人はちょっと言い過ぎたかな。一年前に発売された時は世界中で10万本売れたほどの傑作だったんだが、今となってはその十分の一くらいのプレイヤー数になっているんじゃないのかな」

「なんでそんなに少なくなったんですか?」

「噂だよ」

「……噂、ですか?」

「そう。この《RAG》のゲーム内で死んだ人間は、二度と現実世界に戻ってくることができないっていう噂」

「それって、危ないじゃないですか」

「そうでもないよ。そんなもの、ただの噂だって。このゲームの特徴は一度死んだら、今まで稼いだスコアがゼロになるってことでさ。……だから、発狂してゲームから続々と離脱する人がいるってだけ」

 ゾンビにも種類や強さが千差万別。

 それに、困難なステージで戦うことによってもスコアは違う。

 それが面白いところであるが、流石に一度でも死んだらゲーム終了というのは厳しすぎる。それに、瞬時に傷を回復するようなアイテムもこのゲームには存在しない。かなりの廃人ゲーだ。

 だからなのだろうか。

 最初は大勢でやっていたゲームも、全盛期と比較すると活気がなくなってしまった。残っている奴らは古参のプレイヤーばかり。だから、ナナシのように初心者プレイヤーがいるのは珍しいことだ。

「だけど、今でもこのゲームを続けている奴らだったら分かっていると思う。……VRMMOという、牢獄という名の楽園から抜け出すことは、俺たちには……もう……できないってことが」

 VRMMOは実際、世界的な問題となって提起されている。

 銃刀法違反である日本はともかく、禁止されていない外国では、《RAG》の影響を受けた無職の男が、銃を乱射するという有名な事件が勃発している。大々的に発表され、日本でも連日放映されていたのだったが、それでもVRMMOはこの世界から無くなってはいない。

 VRMMOというゲームが出来てから数年足らずで、厳然とした法律は未だに制定されていない。日本を例に取ると、県それぞれで違った条例が作られている程度だ。

 だが、なくらない理由はきっとそれだけじゃない。

 きっと、それだけ現実に絶望して、VRMMOという世界を心の拠り所にしている人間がいるということなのだとヘルヴァンは思う。

「……なーんてな。ただのゲームだよ、ゲーム」

 ナナシが神妙な顔をしてこちらのを伺っていたから、おどけるしかない。纏う空気の重さに耐え切れなくなって、そのまま駆け足になって街の外に出る。

 それになんとか、ナナシをスコアボードから引き剥がしたかった。

 上から三番目に位置するところに、ヘルヴァンの名前が記されていたからだ。

 あまり、ヘルヴァンが実力者であるということは、ナナシには知られたくなかった。どういった反応を返すのか想像だにできないが、人から少しでも逸脱していると、それだけで爪弾きの対象になる。

 だから、徹底的に他人と歩幅を合わせることを覚えた。

 自分の感情を抹殺して生きることに慣れていた。

 誰かが傍らにいないことが日常だった。

 だけど、ナナシとの邂逅から徐々に心が変容してきた。ヘルヴァンにとって、ようやく他人と何かが繋がったような気がした。か細くて、可視化できなくて、掴むことはできないのだけど、確かに心と心が行き来する、糸のようなものが――確かにあった。

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