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ラン・アンド・ガン  作者: 魔桜
shoot 01~cowboy meets little girl~
3/8

act:03-lesson to me

「……うう、気持ち悪いです」

「大丈夫、今日の昼食べたお好み焼きよりはグチャグチャしていないからね」

「……おえっ」

「女の子が『おえっ』とか言っちゃいけません。せめて、『うえっ』と言いなさい」

「あなたのせいですよ、あなたの! あと、それどっちも変わりませんから!」

 ナナシの目の前には一匹ゾンビが蠢いていた。

 ドロドロの鉄板で焼く前のお好み焼きのような腕を上げながら、「あー」、だとか「うー」、だとか呻いている。

 グチャグチャの身体に、先程からナナシは照準を合わせながら弾を放出している。

 だが、

 ①持っている拳銃と弾のレア度が低い。

 ②ナナシのレベル自体が、まだ初期レベルである5。

 ③敵がグロ過ぎて、まともに照準を合わせていない。

 という、三点の理由から先ほどから手こずっているのだった。見守りながらアドバイスをしているヘルヴァンは、お手上げという感じだが、決して匙は投げない。ずっと傍にいてくれた。

「銃口をゾンビに向けてみて。ちゃんと真正面から」

「うっ。こう……ですか」

「そうそう上手い。そうだね。胸辺りを狙ってみて……そう。今、青いターゲットカーソルが出ているよね」

「は、はい」

 ヘルヴァンの言う通り、大きめのターゲットカーソルがボゥと出現する。

 円形の、二重丸。

 円の上下左右に線がついていて、ちょうどスコープを覗き込んだ時に現れる表示のようなものが出る。

「それが出たら、ちょっと横に動かしてみて、右でも、横でもいいから、そしたら――」

「あ、赤くなりました」

 しかも、ターゲットカーソルがギュッと狙う箇所が絞られたかのように、小さくなる。

「そう。そうしたら、撃つ」

「はい!」

 銃口が火を噴く。

 すると、先程までいくら撃っていても平気そうだったゾンビがたじろぐ。やがて、苦痛めいた表情をし、何発目かの弾が被弾すると、地面に土埃を上げながら倒れこむ。

「やった! ……初めて、倒しちゃった!」

 普段は大人ぶって話すナナシだったが、初撃破という喜びに、子どものように無邪気にはしゃぐ。

 飛び跳ねるように歓喜していたのだが、ニヤニヤとこちらを見ていたヘルヴァンを見て、コホンとわざとらしく咳き込む。そしてナナシは、

「……気持ち悪い」

「いきなり!?」

「この、変態」

「理不尽過ぎるっ!」

「この、ロリコン」

「…………」

「なんで、そこで黙り込むんですかっ!?」

 ヴィラの街からそう遠く離れていない、荒れ果てた大地に野良のゾンビがいたので、さっそく駆逐することになった。

 ここら一帯にいるゾンビは低レベルであっても倒せるということなので、ナナシの実力を底上げするためにもこうやって、ヘルヴァンがコーチをしてくれたのだった。

 それにしても、この荒廃した世界観は、まさに西洋劇映画。

 ヘルヴァンの狂ったコーディネートが映えてしまっている。

「銃はちゃんとリロードしておいてね」

「リロードってなんですか?」

「弾の補充。補充しておかないと、いざっていう時に対応できないから」

 なるほど、と呟きながら弾を慣れない手つきで装填していく。それを見かねたヘルヴァンが手伝ってくれながら、このオンラインゲームの講釈を垂れる。

 主にレベルアップを告げるファンファーレのON/OFF機能についてだった。

 ①周囲にも聴こえるように音量をダダ漏れにするのか。

 ②自分の頭の中にだけ音を流すのか。

 ③完全に音はシャットダウンして、ステータス確認した時に表示されるだけか。

 ④フレンド登録をした人間の頭の中にだけ流れるようにするのか。

 という、四点があるということだった。その他にもフレンド登録をすることによって様々な利点があるということだった。ちなみにヘルヴァンとナナシは既にフレンド登録を済ませていた。

 正直、ナナシ一人でこのゲームを戦うには難易度が高すぎるからだった。

 そうして初心者であるナナシがゲーム説明を聞いていると、はっと何かを思い出しかのようにヘルヴァンがウィンドウを開く。

 頭の横をどこでもいいので、ダブルクリックの要領で叩くと、ブゥンと四角いステータスウィンドウが表示されるようになっている。ジジジッとちょっと歪んで見えるのは、まだまだ発展途上といったところか。

 ヘルヴァンが言うには、発売当初は心の中で念じただけで出現するように設定されていたらしいが、不評だったので取りやめたらしい。

 機械の誤差なのか、それともプレイヤーの雑念が多いせいなのか、すぐにステータスウィンドウを具現化させることのできないプレイヤーが現れたからだ。個人差があるということで、ゲーム会社側も今のシステムを承認した。

「もうこんな時間か。ごめん、そろそろ今日はリアルに帰らないと」

「そう……ですか」

 胸に詰まった寂寥感を押し殺すように、ナナシは殊更明るい表情を努めると、

「そういえば、どうして決まった場所でしかログアウトできないんでしょうね? フィールドでログアウトとかできればいいのに」

「技術的な問題か、それか、そんなことしたらゾンビに負けて死にそうになったらログアウトするプレイヤーが現れるからじゃないのかな?」

 なんの気なしにヘルヴァンは言うと、

「それじゃあ、お嬢ちゃん。戻ろうか」

「は、はい!」

 ナナシには、今現在ログアウトする必要はなかったのだが、ヘルヴァンの後に慌ててついていく事にした。背が高いせいか、歩幅が大きく、歩くのがちょっと早い。だけど、そんなヘルヴァンの後ろを懸命に追いかける。

 置いていかれないように。

 早く。

 一生懸命にナナシは走った。

 

 ――決してもう、独りぼっちにならないように。

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