第1話
恋愛向上部。水無月恋歌が恋愛という青春を謳歌する為に、恋愛だけをシミュレートして十二分にそれを発揮できるように部活を作ったと、僕は聞かされている。
今では僕は端くれながら一員だ。
「ミッションスタート!」
水無月恋歌が高らかに宣言する。
「いや、まだ始まってすらいませんから」
部活の一貫として僕の部屋に集まるメンバー三人。三人とは、水無月さんと、矢追さんと上野さんの三人で、僕を入れると四人である。
もう一人、向井さんも来るはずだったのだが、直前になってキャンセル。来るかどうかはわからなくなった。
何故僕の家というか部屋なのか……。それは、矢追さんの一言により水無月さんが決めてしまった。
僕としては構わないけど、僕の住まいは割と広く家賃もそれなりに安価のアパートで、四、五人程度は大丈夫なんだけど……どうしてか僕の自室に入っている。
一人暮らしだからどこでも問題はないといえばないけれど、何故に僕のプライベートルームなのか。
「ふふん。計画は練ってあるんだから」
ありそうでない胸を張る水無月さん。
「デートプランのですか?」
「違うわ。今日のよ」
つまりノープラン、と。
半ドン(半日だけ学校がある日のこと)の土曜にわざわざ部室ではなく僕の部屋を選ぶ意味はあるのか、そこには理由はあるのかな。
「明日のデートは遊園地デートに決まったことだし、それを誰が貫司とデートをするかを検討し、今後の部活内容も考えようと思うのよ」
帰るまでが遠足というように、水無月さんは始まるまでもデートという見方なのかな。
僕は嫌いではないかな。そういう考え方は。
「あ、僕相手なのは確定事項なんですね」
「あたりまえじゃない。あんたしか男がいないんだから。しょうがないけど、あんたで我慢してあげるわよ」
確かに、僕しか男がいないわけだけど、そんな簡単に決めていいのかな?いや、いいのか。部活なわけだし。
まぁ、僕的にはいやではないし、むしろ得したように思えるのだけど、他の人が反対ではなければいいかな。
「ま、男がいなければ私たちの中で見繕うかエア予行練習ってことでやってたけどね」
女の子同士はなんか如何わしい妄想を掻き立てられるね。というか、エアってことは、二人を予測して一人で……て、それは悲しいな。
「……ん?あれ、ということは、僕と相手以外はどうするので?まさか、家に待機とかですか?」
「…………それはこれから考えるわ」
うわ、ぐだぐだだな。
「別にいいじゃない。具体的に考えるのは今日にしてたんだから問題はないわっ」
問題はないけどね。
「なら、僕とペア以外の人は遠くで監視、というのはどうでしょうか」
「監視?」
「そうです。遠くから見て、どういう風なのがいいのかとか、どういう行動がいいとか、そんな感想とか意見とかを無線機などで伝える役ですね」
「無線機なんて持ってないわよ?」
「あ、それは僕が準備しますので心配は入りません。それなら例えはぐれてもすぐにでも情報が入りやすくなるからやりやすいかと思いまして」
「……そうね。それでいいわ」
「私もそれでいいと思います!」
「私もですわ」
さっきまで僕の部屋の中をわいわいと模索していた二人も賛同する。
「なら次は誰があんたとペアになるかね」
「先輩とデートっ!」
「私、心がとてもきらきらしてます」
「ちゃんと公平に決めるわよ。じゃ、あんたが決めて」
方法も僕が考えるのね。いいけどね。
「え、先輩に選ばれるんですか?……ドキドキします」
「あらまぁ~」
「違うわよ」
「ここはじゃんけんでいいのではないですかね。それなら簡単でわかりやすくて公平でしょう」
「それでいいわ」
三人がじゃんけんをした結果、僕とデートをすることになったのは水無月さんだった。
ちなみに、向井さんは結局のところ来ることはなく、その日の内に連絡を取ったところ、特に反対意見はなかった。