プロローグ
部長と書かれた名札が置いてある仰々しい机に堂々と乗っかる少女は言う。
「今日は今度の休日に行う予定であるデートのプランを考えようと思うわ」
腕を組み足を組み、胸を張り彼女、水無月恋歌は今日の活動内容を提示する。
肩まで伸びた黒髪に鋭い目付き、堂々とした風貌はどことなく獲物を得る為に画策している虎を思わす。
「いいと思います。私は反対意見などありませんわ」
頬に手を当てニコニコしているおっとりとした人は、私と書いてわたくしと読み、イメージ通りのお嬢様で名は矢追愛さん。
矢追さんはなんというか、問答無用という感じの活動内容に遜色を示さず賛成を一票入れる。
「私もいいと思いますっ。デート……あぁ、なんて甘美な響きなんでしょうか!」
さらにもう一票入れるのは一つ下の後輩で元気一杯という感じの上野朱里さん。
髪型を毎日のように変えているらしく、今日はツインテールだ。その日の気分で変えるらしい。だからといってただの気分屋ではなく、回りの意見なども尊重できる空気の読める子だ。……たまにドジもやらかすが、そこは愛嬌として受け止めている。うん。
「……」
そしてさっきから無言を保って一言もしゃべろうとしないのは向井さん。
マイペースで自分のしたいようにする神秘的な人だ。髪の色が青みがかっているのは海外の血が混じったクォーターだかららしい。ショートヘアーにヘッドフォン、それにいつもしているネックウォーマーが特徴的だ。
「んで、あんたはどうなの?反対したとしても決定事項だから変える気などさらさらないけど。一応部員なのだし、意見くらいなら聞いてもいいわ」
僕に話は振られる。
「僕も賛成でいいですよ。特に否定することもないです」
「そう。なら、議題はこれで決まりね」
水無月さんは机から降りてソファにドシッと座る。
「じゃあ早速デートプランを考えましょう」
誰か意見を、と視線でコンタクトを取る。
「はいはいはいっ」
元気よく手を挙げる上野さんは自身満々そうだ。
なにかいいプランでも思い付いたのかな?
「はい、朱里」
水無月さんは指名する。
「ショッピングデートがいいと思います」
「普通ね。他には?」
「ふぇ~っ」
上野さんはばっさり言われテーブルに突っ伏す。
「ならこれはどうでしょう?」
「愛の発言を許可するわ」
「遊園地デートがいいと私は思うのです」
「あら、ベタね」
確かにベタだ。
矢追さんは話を続ける。
「確かにベタです。ですけど、ベタだからこそ、デートという感覚が出ると思うんです。遊園地でのデートに需要があるのは漫画などによく取り入られるのが証拠だと、私は思います」
矢追さんの説明はどことなくわかる気がする。
デート=遊園地というのは子供っぽいと思われたりするが、それでもカップルには楽しむには申し分がないし、最近はそういう人向けの場所もあったりする。ニーズがあるのは納得できる。
なるほど。いい得ている。
「そうね。ベタだからこその味わいがあると言うのね、愛は」
「はい」
「ならそれで行きましょうか」
どうやら方向は決まったようだ。
「ふぇ~っ。私のは軽く受け流されたのにーっ」
涙目になる上野さんに僕はなでてあげる。
「大丈夫です。今回はボツになりましたけど、次はきっと通りますから」
「……そうですかね?」
涙目で上目遣い、意外とグッとくるものがあるね。
「はい。僕はわるくないと思います。ショッピングデート。買い物もデートの内だと思いますから。一緒に選ぶのも楽しいですしね」
「はいっ。先輩はわかってます!先輩~っ」
腰にくっついてくるかわいい小動物のような上野さんを優しくなでる。
こういうのもいいね。
「……む。ほら、いちゃいちゃしないっ。まだ考えることはあるんだからね。そこ、わかってるわよねっ」
水無月さんに指摘される僕と上野さん。
まぁ、端から見ればいちゃついているように見えるのも否めないけど、僕としては妹をかわいがる兄の図であってほしいと思うな。
「ふふ。私の提案としては――」
矢追さんは柔らかく微笑み提案の提示をする。上野さんは変わらず僕にくっついたままで、向井さんはマイペースに読書――と思ったらゲーム機で遊んでいた。
デートはどうなるか、見物かな?
僕は能天気に思考をしていた。