そして
斜陽が様々な影を映す。
小さな影。
大きな影。
二つ並んでいる。
以前、来た公園。
前と変わらない風景。
前と変わらず、野球を楽しむ子供たち。
変わらないゆえに愛おしい日常。
でも、何もしなけらば朽ちてしまう。
「あっ」
小さな影ー信也は、小さく声を洩らす。
あの時と同じく、ボールが転がってきた。
「すいません~ボールとってください~」
あも時と同じく、間延びした少年の声。
あの時と同じく、信也は、ボールを拾い上げ、
投げた。
「ありがとうございます~」
あの時と同じく、礼を言い、踵を返す。
「あのっ!」
あの時と同じ………じゃない。
信也は、声をかけていた。
「あの、……僕も野球やりたいんだ。」
勇気を振り絞り、手を固く握り締めながら。
大きな一歩を踏み出した。
「いいよ。一緒に野球やろう!」
少年は、微笑みながら、了承した。
「うん!」
その時、見せた信也の表情は、とても嬉しそうで、野球をやっている表情は、とても輝いていた。
「もう平気だな」
大きな影ー大沼幸二が公園から去る。
どうな困難があろうと立ち向かっていけるだろう。
信也君なら。
悩む事もあるかもしれない。
だけど、それも糧にし、プラスにして生きていく。
もしそれでも、苦しくなったら、立ち止まれば良い。
そうすれば、見えない物も見えてくる。
今まで、通った道にたくさんの幸せが落ちていた事に気づくことができる。
あとは、信也君がどう生きるか。
彼の人生は、彼自身が決めるのだから。
時は流れた。
春、夏、秋、冬。
いくつの季節を巡り、年を重ねる。
そして、秋のドラフト。
『埼玉西武ライオンズ一位指名 上条信也』
信也は、見事球団から指名された。
憧れた人の背中を追い続けた結果が現れた瞬間。
たくさんの記者に囲まれ、取材を受ける。
試合より緊張したが、何とかこなす。
質疑応答も一段落した時、不意に扉が開いた。
「あっ、監督だ」
記者が口々に言う。
監督は、真っ直ぐ信也の所に向かう。
「君には、期待してるよ」
監督は、大きな手を差し出す。
「はい、ご期待に副えるよう頑張ります。
そして、全力を尽くし、胴上げを誓います」
監督と固い握手を交わす。
「大沼監督の胴上げを!」