表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大沼幸二  作者: しろクロ
4/6

宿命

ミス。

訳・判断の誤りや、やりそこない。


信也は、ミスを恐れていた。

失敗が怖かった。

冷笑されたり、迷惑をかけて嫌悪を抱かせてしまうのでは、ないか。

思考は、マイナスへ一方通行になってしまう。

そして時にはー


ー批判につながる。

「なにやってんだ!」

「このままだと優勝どころか、三位以内にも入れないぞ!」

一部のファンから厳しいヤジが飛ぶ。

12連敗という数字が拍車をかけ、言葉の嵐は、止まない。

そしてその火種は、決勝打を許した投手のも振りかかる。

「大沼!なんのために出てきた!」

「二軍行け!大沼!」

張本人の大沼は、まっすぐ前を見つめている。

ブーイングの嵐の中。

何も語らず、大きな背中が揺れていた。。



「帰ろうか」

「……うん」

父の申し出に信也は、頷いた。

楽しかった。

それは、間違いなく、揺るがない真実。

それなのにどこか心がもやもやする。

楽しい事が終わってしまった虚無感とは、別の代物。

ゴールのない迷路に迷い込んでしまったよう。

席を離れ、現地から去ろうする。

その時だった。

一瞬、信也は、我が目を疑った。

目の前には、西武のユニフォームを着た男。

大沼幸二だった。

「信也君、ごめんね」

開口一番、謝った。

大きな体を前に曲げながら。

「あっ、いえ……」

言葉が上手く繋がらず、詰まってしまう。

大人の人が謝るなんて……。

上条信也、9年の歴史にそんな事項は、刻まれていない。

子供の自分に対しても、誤魔化さず素直に謝れる姿は、憧れさえ感じた。

「もう一度、明日来てくれないかな?」

大沼幸二は、提案した。

嬉しい。

信也の第一感想だ。

またこの場所に来ることが出来るのだから。

嬉しいに決まっていた。

なのにー

「大沼さんは……明日なげるんですか?」

ー口からは、違う言葉が飛び出した。

そんなの監督次第だし、プロだから投げるのは、当然だ。

わかっている。

「あんなに、みんなから、失敗をせめられて……マウンドに上がるのこわくないんですか?」

投げて、もしまた打たれたら。

マイナス思考は、マイナス思考を生む。

負のループが巡り、悪循環に陥る。

投げなければ、打たれることもないのに。

大沼幸二は、少し考え込む仕草を見せる。

「投げるよ。ミスは、怖いかもしれない。

でも悪い物でもないんだよ。」

「?」

何を言ってるかわからなかった。

真実が見えない。

もっと詳しく聞こうと思いつめた時、どこからか走ってくる足音が響いてきた。

「あっ、いた!大沼さん、そろそろ戻らないと」

足音の主は、発見すると同時に声をかけた。

正装しており、裏方さんだろうか。

わずかであるが、息があがり、肩が上下に揺れている。

急いできた事が伺える。

「すまない、すぐに戻る。」

大沼幸二は、一声かけ、信也を再び向いた。

「もう戻らなきゃいけないんだ。

度々、ごめんね。

信也君、答えは、明日のマウンドで示すよ。

だから、来てくれるとうれしいな」

そう言い残し、大沼幸二は、足早に去っていた。

手には、チケットが残されていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ