第8回:不条理な恐怖との邂逅
死んだはずの従兄弟のお兄ちゃんが突然現れて死神を名乗り私を殺しにきたと口を滑らした。
こんなにショックなのはいつぶりだろう。
そりゃあ大なり小なりショックを受ける出来事はあるものだけれど。
こういう時に真っ先に思い浮かぶということは、それはやっぱり結構根が深いということなんだろうか。
それはあの、部を見学に行った日のこと。
だいたい小一時間も経っただろうか。
部の活動の事とか授業の事、先生の噂。小春が起きるまでたわいない会話を続けていた私と先輩方。
いい加減お邪魔をしたということで小春を起こしていとまを告げる私。
新入生が部活を見学できる放課後の制限時間までにはまだ余裕があったけれど、私はまた来ますと白井先輩に告げて今日はもう帰るつもりだった。
もうこの時点で、白井先輩を通じて伝わってきた弓道の魅力に参っていた私はすっかり入部するつもりでいた。で、明日からでもいりびたるつもりだった。
そんな気持ちを笑顔にくるんで持ち帰ろうとしたその時に。
彼は現れた。
宇留間飛鳥。
彼は無遠慮に弓道場のドアを開け、靴を履き終わって帰ろうとしていた私達とかち合うのを認めると、そのままふいと回れ右して帰ろうとした。
その際に、耳に届いた苛立ちの声。
「……ち、また女かよ」
なんだか悔しかった。
なんだか怒りたくなった。
けれど、それらよりも私を強く支配したのは恐怖の感情だった。なぜなら私は気付いてしまっていたから。
肩越しに私を睨む、鋭い視線。
底冷えするような、透き通った氷の目。
何がそんなに気にいらないのか、瞳の中の憎悪の色。
正体不明の失礼な態度に腹を立てた私。なのに、私のその怒りは外に出ることはなく、射すくめられたかのように私はその場から動けなかった。
「宇留間君!」
私の後ろから聞こえた声。
白井先輩には似つかわしくない焦りのみえる声。
でも、彼は一度も振り返る事なくそのまま去っていった。
わけがわからなかった。
ただ、怖かった。
短い8回目ですが、今回で序章をシメということで。
時間軸がころころ変わる予定なので、そこが心配。私だったらついていけない(コラ