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第6回:高校部活案内

*この小説はフィクションであり、某茨城県立高校とは何の関連もありません(笑)

 私は実は弓道部だ。

 よく「名前はあっている気がするけど実物はそうは見えない」なんて言われたりするけど(余計なお世話だ)本当に弓道部なのだ。

 武道を修める部。もしかしたら一番動かない運動部。

 そんな印象を持っていた私が弓道部に入ったきっかけは、友人である新田小春に誘われたからだった。

 他に特別入りたい部活もなかったし好奇心も手伝ってのことで、最初は別に入る気もなかったのかもしれない。

 私を誘った小春の方は随分と最初から入れ込んでいたみたいなんだけど。

 小春のいわく。

「だって、飛び道具の方が有利だと思うでしょ〜?」

 ……なにと比べて有利なんですか、小春さん……。

「将来〜、もしかしたら誰かと闘うかも知れないし〜……」

 この日本でそんな心配は不要だと思うんだけど……。

 小春は本気なんだか違うんだか、ほえほえとしてつかみ所のない話し方をする。中学の頃からどこか抜けたところがあるなあとは思ってたけど……彼女はやっぱり不思議少女だ。

 まぁ、そんなこんなで小春と一緒に校庭の隅にある弓道場へ見学に行ったのである。

 弓道場はプレハブづくりの全体的に白い建物で、外見からはおよそ一般的な『道場』っていう物々しいイメージを受けなかったからちょっと戸惑ったんだけど、ドアサッシの近くには『出鱈目高校弓道場』と達筆の書かれた表札がかかっていたから迷わずにすんだ。

 砂が詰まってすべりの悪いドアをおずおずと開くと、とても愛想の良い女の先輩が出迎えてくれた。

「あら、新入生の子? どうぞ上がって見ていってくださいね」

 この先輩が一つ上の、白井恭子先輩。

 物腰も軽やかな清楚な印象のお姉さんで、彼女の立ち姿はまさに、立てば芍薬(しゃくやく)なんとやら。同姓の私から見ても綺麗(きれい)な人である。家柄も地元では名のある旧家らしいというから、本当のお嬢様なのかもしれない。素敵な先輩だ。

 私は、弓道をする女性はこんなに綺麗なんだと感嘆をした。

「外、暑いかしら。水でもどうですか?」

 目を奪われたって感じだった。先輩はその時袴(はかま)姿だったし、凛とした美しさというか大和撫子(やまとなでしこ)というか古き良き時代の女というか、よくわからないけどそんな見たこともない境地を見ちゃった気がした。

 でも、ぽけーっとしていたのは私だけで小春はさっさと白井先輩に応じて練習場に上がりこんでいた。

「千歳ちゃん、どうしたの? 入らないの?」

「え、あ、ううん! なんでもないの。ただの健忘症」

「……それって軽く済ませていいの?」

 一人だけ突っ立ったままで、ちょっと恥ずかしかった。

 対応に出てくれた白井先輩と他の先輩に案内されて上に上がった。そこは板張りの床が広がっていてすぐに控えの場と射場(しゃじょう)へとつながっている。床板の上は慣れていないときついから、と私達は隅のカーペットへと座らせてもらった。

 先に座った小春は正座をしていて、先輩方もみんな正座。私もならって正座したはいいものの、ものの五分で足が痺れてしまった。

 でもなんだか道場に流れる緊張感というか、身を引き締める場の空気が暗に足を崩しちゃいけないと言っている気がして、私はできるだけ耐えるよう頑張った。もっとも、後で入部してから知ったことには、いつもいつもこんなに緊張感のある練習をしているわけでもなく、おしゃべりしたり、袴でなくジャージを着て練習に出ることも多い。私が感じた静とした空気と、もっとざっくばらんな雰囲気が同居する場所なのであった。

 でも、初見学の私にはそんなことわからなかったから、時折腰を浮かしたりして我慢し続けた。白井先輩が察してくれた頃には、もう私の足は立てないくらいビリビリに痺れきっていたものだ。

「そのうち慣れるから」

 微笑みかけてくれた白井先輩。私はそれどころじゃない騒ぎで返事もできなかった。

「そちらの彼女は大丈夫かしら?」

 つられて私も小春を見る。小春も正座に耐えられなかったんじゃないかって。

 でも、小春は全然騒いでなくて。一瞬、すごいって感心した。

 けど、よく見れば、小春は正座したままのポーズで眠りこけていたのだった。

 ……弓道部の見学に行こうって言いだしたの誰だったっけ?

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