最終回:紫煙は立ち昇り地球はまわる
飛鳥は足早に帰宅の途を辿った。
少女に、なにか自分でもわかっていない心内を見透かされているようで、とても気分が悪かった。そんなはずはないと否定しているうちに、次第に怒りが募ってきた。なぜ、小林の葬式でそんな気持ちにされなければならないのだ。あんな意味のわからない、練習量の割にちっとも上達しない、ようやく一つ当てたかと思ったら死んでしまった、あの小林の葬儀で。
その時、飛鳥は自分が思いのほかいらだっていることに気付いた。新田の行動を気味悪いと思う気持ちも残っていたが、どうやらほとんどの感情は違うところから湧いてきているようだった。それは小林から自分に対しても、自分から小林に対しても、理不尽極まりないものであるようだった。
飛鳥はその正体に察しがいって愕然となった。
でも、やたら難解そうに見えて実は単純なクイズのように、答えがわかると、心は途端に平静さを取り戻した。
(……あぁ、なんだ。そうか。つまらねえ……)
飛鳥はジョーカーという銘柄のタバコを胸ポケットから取り出すと、壁に寄りかかって吸いだした。慣れた味が口に広がる。
もう二度と部活中に「タバコばかり吸っているとバカになっちゃいますよ」と言われることもないだろう。
「……なに、死んでんだよ、バーカ。俺、一生禁煙できねーかもしんねぇじゃねえか」
吐き出した言葉は紫煙と共に、たとえば天国にまで届きそうな気がした。
こうして、このお話はいったんの終わりを告げる。
残されたものたちが、いかようにして今後の人生を歩んでいくのか、語り続けることはないだろうが。
けれども世界は脈々と物語をつむぎ続けていく。
本来ならこの話で終わりにしようかと考えていたのですが、番外編と銘打ってもう少しだけ書いてみることにしました。
冗長かもしれませんが、もうしばしの間だけお付き合いください。