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第34回:激昂

 それから私は死神二人から説明を聞いた。

 お兄ちゃんは、人の命を運ぶという死神の仕事がやはり耐え切れず、自ら降りたのだと言う。瀬名は「言うは易し行なうは難し、ですよ」ともっともらしく頷いた。

「お兄ちゃん……。まぁ、わかる気もするけど。生半可な気持ちじゃできないことだよね」

「そうそう。辛くってもー。ほら、虫も殺せないような優しい性格だから、俺」

「お兄ちゃんの夏休みの宿題。昆虫採集だったよね」

「あれは買ってきたの。高島屋で」

「嘘!? 最低!」

「んなわけないじゃん。千歳、単純〜」

 私はこのふざけた男にビンタをかました。

「……んー、まぁ、それはそれでおくにしても、死神には色々制約もあって面倒くさくなったしね。誰かの下で働くなんてもうまっぴらよ」

「お兄ちゃん!」

 怒鳴りかけた私を制して、瀬名が笑いかけてきた。苦笑だった。

「ふざけてないで。そろそろ本当の事を言ったらどうですか。神に逆らった君の行為はそれなりの罪を負う所業なんですよ」

「……どういうことですか?」

 瀬名はよどみなく答えた。

「彼は貴女の死を取り消せと言ったんですよ。畏れ多くも我らが主に直訴してね。もちろん神の決定が(くつがえ)されることはなく、彼はめでたく退職後下界に……」

「先輩」

 お兄ちゃんは冷たい声で言った。

「……千歳の前で言うんじゃねえよ! 馬鹿野郎!」

 お兄ちゃんが瀬名につかみかかった。襟首(えりくび)をつかまれ、しかし瀬名は涼しい顔で冷たい瞳で視線を返す。

「馬鹿はどっちですか」

「お前だよ! それは千歳には聞かせちゃいけないことなんだ! 千歳はそんな重みを知らなくていいんだ。千歳は、思いつめなくていいんだ!」

 一触即発の緊迫した状態にも関わらず、私はといえば瀬名の言葉を受けてそれどころではなかった。二人を止めるどころか、自分の気持ちをも止められなかった。


 お兄ちゃんは私を助けようと神様に背いた。

 お兄ちゃんは私を死なせないためにせっかく得た死神の地位を捨てた。

 お兄ちゃんは私のせいで罪を負った。

 私のせいで……!


「……なんで!?」

 私は叫んでいた。

「なんでそんなことしたの、お兄ちゃん! 私そんなこと頼んでない!」

「……千歳……」

「お兄ちゃんの馬鹿! いつも自分勝手で、ちゃらんぽらんで、人の貯金箱からこっそりお金とって食玩買ったりしてたのに!」

「……いや、それは悪かったよ……」

「私を構わないでよ。私……私、お兄ちゃんの足枷(あしかせ)になんかなりたくない」

 

 本心だった。

 私は子供の頃から良彦お兄ちゃんに頼ってばかりで、自立できないでいた。おどけるお兄ちゃんにごまかされて、今まで曖昧に、なあなあで済ましていたけれど、お兄ちゃんがいなくなって事実を突きつけられた。私はお兄ちゃんがいないと何一つできなかったんだ。そんなひ弱な存在だったんだ。

 私はもう、お兄ちゃんの邪魔になりたくない。

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