第32回:他人の告白
部活が終わってお昼になった。暇のある人は白井先輩のお別れ会二次会をやろうと話がついていた。場所は近所の焼肉食べ放題のお店で、私も小春も参加するつもりでいた。
「あのお店のシーザーサラダ美味しいんだよ。シャキシャキしてて、あと杏仁豆腐も美味しいの」
「小春、焼肉屋なんだからお肉も食べようよ……」
なんて話をしていると、今日の主役である白井先輩の姿が見えない。少し探してきて、と一つ上の先輩に言われて探していると学校の垣根の外に白井先輩を見つけた。
「白井先輩」
と、声をかけようとして、私は固まった。
そこには白井先輩と、宇留間先輩がいて、邪魔しちゃいけない時間が流れているような気がしたから。私は咄嗟に垣根の陰に隠れた。
「急に、こんなところに呼び出してごめんなさい。でも、向こうに行く前に言っておきたいことがあって……」
耳に届く白井先輩の声。
「本当はもう、だいぶ前から思っていたことだったんだけど……どうしても勇気が出なくて……でも、今を逃したら、きっと私一生後悔すると思うから……聞いて下さい」
耳を押さえた手の隙間を通って、白井先輩の声が聞こえてくる。鼓動が危険なくらいに激しくて、呼吸が苦しい。
「最初の頃は貴方のことを知って驚いたの。だって、周りと壁を作るようにして誰とも交わろうとしなかったし、授業や行事にも全然でてこなかったし、こんな人もいるんだって、思ったの」
立っていられないくらい辛いけれど、私は金縛りにあったように座ることもできなかった。
「……でも、そのうち興味が湧いてきた。宇留間君は、宇留間君なりの倫理でそうしてるんだなって、わかって……自分でも気付かない間に、貴方に惹かれていたの」
「……」
「私は留学するから、高望みすることはない。でも、せめて、私の気持ちだけでも、応えてくれないかな。がんばってつくったから、このチョコレート、受け取って下さい」
その言葉が聞こえた瞬間、時が止まったような気がした。想像はついていたけど、聞いてはいけない言葉だと。宇留間先輩がどう答えるのか、気になってしょうがなかった。
「……あぁ」
しばらくの沈黙の後に宇留間先輩の声。ぼそぼそとしてよく聞こえなかったけど、私はもうそれ以上聞いてはいられなかった。遠くに行きたい、と私は気付けばその場から逃げ出していた。
私は思い知ってしまった。
私は宇留間先輩が好きだ。大好きなんだ。
いつのまにかその気持ちが私の中に芽吹いていた。でも、私は今日死ぬかも知れない。だから、私は告白してはいけない。どう転んでも、先輩に嫌な思いをさせるだけだから。お兄ちゃんを失った、あんな気持ちは、もう誰にも味あわせたくない。
白井先輩は留学するけれど、宇留間先輩ともう二度と会えないわけじゃない。綺麗で性格も良くて才能にも恵まれている、素敵な女性だ。宇留間先輩にはもったいないくらいだ。
これでいいんだ。これで。
私はポシェットに入れておいた小さな箱をきつく握り締めた。