第27回:ぽっと出てみた霊能少女
まだ昼前だったが、俺と新田小春というその少女は早めのお昼休みにすることにした。棟に挟まれた中庭に腰を落ち着けて、彼女の持ってきた弁当をつまみつつ、学校の話などした。彼女は千歳の中学時代からの友人で今も同じ組であるという。そういえば、俺も小春ちゃんの顔に見覚えがなきにしもあらず。
「小春は覚えているのに〜、おにいさん、ひどいですよ〜」
ああ、やめてくれ、年下の女の子にそんな風に責められるとついつい押し倒したくなってしまう。今は神の下、聖職につく身であるし、なんとか自制する。
「どうしたんですか〜?」
「いやなに、健康な青少年にはうら若き乙女の制服姿はまぶしすぎるのさ」
俺は小春ちゃんに千歳の話をねだった。俺のいない間の千歳を知る彼女に出会えたのは嬉しい誤算だった。二年間のブランクを埋めるように、俺は話を聞き続けた。
「おにいさんが死んじゃって、ちーちゃん、すごく落ち込んでたんですよ〜」
千歳の祖父母は早くから亡くなっていたし、親しい人を亡くすという経験がなかったから堪えたのだろう。俺も千歳に先に死なれてたらきつかったかな。
でも、一ヵ月が過ぎる頃には千歳は元気を取り戻し、元のように生活するようになったらしい。中学を卒業後は、俺も通っていたこの出鱈目高校(略してラメコー)に進学。小春ちゃんは、聞いてもいないことまで色々語った。
夏休みには女三人でよくプールにいった。帰りには決まって、田んぼ沿いの駄菓子屋で買った六十円のアイスキャンディーをかじりつつおしゃべりをした。
一度は潮干狩りに行ったが、千歳はなかなかアサリが見つけられず、そのうち小春ちゃんは迷子になった。夜は校内に忍び込み、花火なんかもした。
秋の学園祭の時には一組で劇をした。題目はシンデレラで児島さんが王子。小春ちゃんが魔女。千歳はかぼちゃだった。配役おかしいぞ、こら。シンデレラが男ってなんだ。
斯波とやらの企画したコスプレ大会もあったそうだ。賞品に目がくらんだとかで千歳達も参加したらしい。なにに扮装したのか「なんでしょうね〜」とごまかされるばかりでは教えてくれなかったが、そんな時に死んでいるとは俺も惜しいことをしたものだ。結局、女装した二年三組のモーニング息子。達が優勝をかっさらっていったらしいが……だから、なんで男なんだ。その時、千歳は誰かからプレゼントをもらったようで。負けたというのにそこそこ上機嫌だったとか。
冬には女ばかりでクリスマスパーティ。食べ物を持ち寄って騒いで、いつのまにか聖夜の怪談パーティに突入したらしい。ハハハ、バカらしいユーレイなんているわけないぢゃないか……ブルブルブル。今日は冷えるなぁ。
「児島さんてのはどんな子?」
「えーとぉ、かっこいい人ですよ〜。あ、あと、昔の千歳ちゃんに少し似ているかも」
「千歳とぉ? そしたら全然かっこよくなんかないと思うけど」
「でもぉ、似てますよ。んと、自分のことは我慢しちゃうのに、他人が傷つけられるとすんごく怒るところとかぁ。一学期の時はすごかったんですよ〜」
ま、そんなこんなで話に聞く限りでは結構楽しく過ごしてたんじゃないかと想像できた。なんだ。別に俺が気にするまでもなかったんだな。千歳、楽しく高校生活エンジョイしてたんじゃん。
……でも、それも明後日で終いか。
死神の仕事。俺が命を刈り取り、天に届ける。
俺が千歳を殺すんだ。