第26回:怖気づきがちな傍若無人
俺の名は小林良彦。享年十九歳。関東に良彦ありといわれた伝説のアルバイターだ。未成年の時分から年齢を偽って働いた数々のアルバイト。まずは基本のコンビニ、カラオケボックスの店員、焼肉屋、線路清掃、世界一有名なネズミの中身、コスプレ喫茶のウエイター……などなど。退職する際の戦利品ゲットも忘れずやってきたから指名手配もばっちり。おそらく俺に敵うようなやつは伝説のゴールデンボーイ(江川達也著)以外にはいるまいと自負していた。
まぁ、それも過去の話。暴走するトラクターに轢かれてめでたく天に迎えられてからは死神に就職して、今は下界に出向中。
命の灯火の尽きる魂を迷わないよう無事神の御許へ送り届けるのが俺の仕事……なんだけど、なんとその相手が俺が生前可愛がっていた従姉妹の千歳ときたもんだ。神もとんだ試練をお与えになるってもんだね。さあて、この状況、いったいどうしたもんだか。
「いってよし!」
事務員のおっさんにこってりとしぼられた俺は、精神的に疲労した状態でよろよろと事務室を出る。逃げようにもタイミングがつかめなかった。目の前で消えるわけにもいかないし。
(千歳も見失っちゃったし……あー、もー今日はいいや。姿消して、どっかで寝てよ……)
俺はそう思って職員用トイレに入った。周囲に誰もいないことを確かめて個室で姿を消す。よし、完璧。見事なまでの姿消しを行い、トイレを出る。さて、どこで休むか、と思っていると、ちょうど廊下を通りかかった女子生徒と目が合った。
「あ〜、こんにちは〜」
「……あ、ども、こんちは」
間。
(……あれ?)
「……あの、すいません」
「はい、なんですか〜?」
そのまま通り過ぎようとしていた女子生徒は振り返りほえほえと笑った。ほえほえとは異次元語であるからおって知るべし。
「……もしかして、俺のこと見えます?」
「はい、みえますよ〜」
「つかぬ事を聞くようですが、透明じゃありませんか? 俺」
「つかぬ事を言うようですが〜、透明ですね〜」
「……え、じゃあ……なんで?」
お兄さんわかんな〜い。これじゃ女子更衣室でうかうかパラダイス満喫してらんないね。なんて、思っていると、
「あのぉ、わたし、霊能少女なんです〜。だから見えるんですよ〜」