第2回:休み時間の目撃
私が彼と初めて会ったのは去年のことだった。
四月、まだ高校に入学したての頃、私は校舎の構造がわからず迷子になっていた。
というのも、うちの学校は在籍する学科ごとに棟が別れているのだが、わけのわからないことにそれぞれの教室の配置にまったく関連性がない。
どういうことかというと、普通理科室の隣には理科準備室があるものなのに、この学校の場合視聴覚室がある。購買部は放送室とつながっているし、校長室は一旦屋上に出ないといけない構造になっている。理事長室は職員室と同じく一階にあるのに、ある意味校長先生に対するいじめだと思う。
まぁ、そんな事は置いておくとして、その時、社会科の先生に世界地図を社会科資料室に戻すように言われた私は、一度持ってくるときに道順を確認していたにもかかわらず社会科資料室の場所がわからないでいた。
我ながら情けないことである。しかし、その時の私の心情としては世の不条理をはかなく思うしかなかった。
自分の現在位置もわからない。どうやら普段人の立ち寄らない区画に迷い込んでしまったらしく、人に聞こうにも相手がいない。
地図を戻したら職員室に鍵を持っていかないといけないのに、早くしないと次の英語の授業に間に合わない。英語の坂崎先生は遅刻にうるさくて、少し遅れただけでも妙〜なイントネーションで因縁をつけるのだ。で、その授業中いちいち指すのである。
私はほとんど確定に近いその未来予想をしてブルーになった。
まったく、クラス委員なんてなるものじゃない。ていのいい面倒係だ。推薦されても今度は絶対断ろう。お菓子にも釣られないぞ。ポッキー5箱でもダメ。
あちこち歩き回り、ようやく社会科資料室を見つけたのはもうチャイムが鳴ってしばらくたった頃だった。
ようやくみつかった安堵とやるせなさで脱力して、扉を開ける私。
がらっとなんの躊躇もなく開いてから気づく。
あれっ。鍵閉め忘れてたんだ。
でも、その事について深く考えることもなく私は部屋の中に入り、そして見てしまった。
テーブルの傍で身を重ねる2人の人影。
紅潮した頬、荒い呼吸、着衣の乱れ。下の人の足は大きく開いて上の人の胴を挟み込み、手は肩に回って肌を赤くひっかいていた。2人の間になにがあったのか、今の今までなにを行っていたのか、むしろ今なにがおこなわれつつあるのか、推測するには結構な判断材料で。
二人はぎょっとした表情で突然の乱入者である私を見つめていた。
そんな見つめられても、こんな時多感な少女はどう反応すればよいのだろう。キャーキャー喚きつつ指の隙間からじっくり観察すればいいのだろうか。私にはそんな余裕はないって。
とにかくその時の私はしばらく呆然と眺めてしまった後、ダッシュで部屋を飛び出した。
すっかり混乱してなんにも考えられなかった。で、当然先生から頼まれていた仕事なんかもほったらかしにしてしまった。
でも、だって、弁護の余地はあると思う。
不意打ちみたいな感じで、うら若い少女が。
男同士のそんなラヴシーンを目撃してしまったんだから。
とにかくインパクトは十分だった。
後から思い返せばそれが、彼との初めての出会いだったわけだ。
もっとも、その時はそんなこと考える余裕なんて全然なかったんだけど。
彼の名前は宇留間。宇留間飛鳥。
もう一人は斯波祐貴。
私が彼らの名を知るのはこの衝撃的な出来事のもうしばらく後のことになる。