第19回:だってあなたは
そういえば前に『つきあってよ○○ちゃん』て漫画があったな……て、何を言っているんだ、このすっとこどっこい。
私にはすぐには斯波君の言葉が理解できなかった。
(だって、あなたホモでしょ?)
ホモならホモ同士でくっついていればいいじゃないか。そんなことしなくても私はバラしたりしない。他人の行為にあれこれケチをつけるほど私は野暮じゃない。
それに、誰かと付き合うとか、そういうことに私は一切興味がなかった。
「ダメ?」
いつのまにか斯波君は椅子から立ち上がって私の目前にまで迫ってきていた。おおよそ男の子らしくない柑橘系の甘い香りが漂ってくる。なにか香水でもつけているらしかった。
目の前の斯波君の顔は、女の私が引け目を感じてしまうくらい綺麗で、それでいて可愛らしかった。端正な顔立ち、切れ長でいて優しい印象を与える瞳。少々童顔だが、モデルとしてもやっていけるくらい一つ一つのパーツからして私とは段違いだった。
一般女子生徒からキャーキャー言われるのも頷ける話ではあるが、
「ダメです」
私はにべもなく断った。
「えー」
不満そうに口を尖らせる斯波君。
「もしかして彼氏いるのー」
「いません」
「じゃ、理由は?」
「理由がないと断っちゃいけませんか?」
「……いけなくないです」
きっぱり言うと、なぜか語尾が弱まる斯波君。
話も済んだようなので、私はさっさと教室に戻ることにした。この暑いのに、面倒くさい話を蒸し返さないで欲しい。もう、私もすっかり忘れていたのに。
出て行こうとする私を、斯波君が呼び止めた。
「もう友達になったんだしさ。敬語は使わないでよ、他人行儀みたいじゃん。それだけ。じゃね」
どうやら私は彼と友達になってしまったみたいだ。