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第11回:入部の理由

 部活見学期間一か月の後、私は小春と一緒に弓道部に入部した。

 きっかけはもちろん白井先輩への憧れ。先輩は普段の仕草も弓を引く姿も素敵で、私は先輩のようになりたかった。

 同じ部活に入り、より身近に感じられるようになっても、私の先輩への想いは強まりこそすれ薄らぐことはなかった。それほど、白井先輩は私をひきつけてやまない魅力を持ちあわせていた。

 白井先輩は外見ばかりでなく実績もあった。

 文武両道を地で行くというのはこの事かと思った。

 私だって人並みには勉強もできる方だと思うんだけど、白井先輩は私を大きく引き離していて、定期テストでは常に上位、実力テストでは校内一位もざらだという確かな情報を伝え聞いていた。

 部活動の方でも、幾度か大会で、個人上位入賞を果たして、射形(しゃけい)の美しさから弓道連盟側から表彰もされていた。また、市井の楽団に所属もしていて、将来有望なピアニストでもあるとか。

 まったく、身を知らされる話である。何でこんなに神様は不公平なんだろう。死んだら一度聞いてみたい。


 私は学力も常にまんなか。平均点ぴったりの点数を取ったりすることも普通にあって、得意の国語の点数も不得意の物理で帳消しになってしまったりしている。学力向上を諦めるわけではないが、私の頭ではそうそう上位を狙えはしまい。

 そこで私は部活に心血を注ぐことにした。我ながら安易な考えだとは思うが、あれこれ頭を使うより身体を動かすことの方が好きな性分なのである。白井先輩も弓道を始めたのは高校になってからだというし、私にも少しは近づくチャンスがあるかもしれない。

 手始めに私は放課後いち早く道場に来て準備を始めることにした。矢の刺さる安土に水をかけて手入れしたり、的をかけたり、道場の床を掃除したり……それらをするのは新入生の仕事で、私は面倒くさがらずに実行した。弓道の教本にそうするよう心構えが載っていたからでもある。それに、準備を早く行えれば、自然と自分が練習できる時間も増えた。

 部活の時間だけ練習に集中していてもその他がおろそかになっては意味がないと、私は自宅でも構えや動作の練習をした。ゴム弓という練習器具があって、弓の握りの部分に太いゴムをつけたそれで筋力も養おうと、それを自宅に持ち帰り努力した。ゴムをめいっぱいひいた姿勢で持ちこたえる。最初は三十秒ももたなかったけれど、地道に続けていると次第に耐えられるようになった。でも、初めの頃はやっぱり普段使っていない筋肉が刺激されて、筋肉痛がひどいものだった。

 入部一ヵ月ほどして、実際に弓をひかせてもらえるようになった。私の射る矢は安土までの半分も行かなかった。白井先輩は「最初の頃はそんなものよ」と言ってくれたが、私はなんだか悔しかった。同じ学年の羽田君という男の子は、安土の上の方のコンクリートに当ててしまい矢が跳ね返ってきて怒られていたが、それでも届くだけましだと、私は思った。私はまだ全然足りていないのだ。

 だから、私はこっそり朝練を始めることにした。

 弓道部は弓と矢を使うということで、本当なら先生がいるときでないと部活動は認められていない。もし万が一生徒が怪我でもしたら大変だから、校則で決まっているのである。だが、うちの学校の先生は前にも言ったかと思うが、やる気というものが見受けられないため、道場には滅多に顔を出さないし朝早い出勤もない。何度か歴代の部長が、朝練がしたいと掛け合ったらしいのだが、そのたびに適当な理由をつけられて許可は下りなかったそうだ。「やれやれ」とため息をつきたくなる。

 まぁ、そんなわけで、朝方練習をするためには先生に見つからないように行わなければならない。どうせなら他の生徒にも見つからない方が都合が良かった。白井先輩は校則を決して破らないし家の事情もあるらしくて朝早くは学校にいない。他の先輩方もいないはずだった。同級の子達は小春も含めて多分寝ている。

 道場の看板の裏に隠してある鍵で、少しドキドキしながら道場を開ける。職員室のある棟とはそれなりに離れた位置にあるから、見つかる心配はあまりないと思うけど、それでもついつい周囲を気にしてしまった。

 道場には予想通り誰もいなかった。私は必要以上に呼吸を潜めて準備を済ませると、巻き藁で練習して、射場に向かった。思い切り引きしぼったつもりだったけど、矢は土煙を上げて進んでいった。

 段々と自分が悲しくなってくる。どこが悪いのか、どうすればよいのか、その道の人に尋ねれば、どこも悪くて、直すところはたくさんあるのだろうが、私ではさっぱりわからない。

 しょんぼりと矢を拾いに行こうとする私の前で、突然ドアが開いた。

 まさか、先生!?

 と、驚く私の、目の前の人もまた驚いていた。その人は先生ではなく、宇留間先輩だった。

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