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世界を管理する最弱女神は、滅びた世界をデバッグする  作者: パンダプリン


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第10話 さあ、新しい世界へ旅立とう

「さて、今日はどうしようかな」


 翼人たちは徐々に生きる力を取り戻してきている。

 さすがにこれでおしまいと言うつもりはないけれど、まずは窮地を脱したはずだね。

 となると、いったん私が目を離しても問題ないと思う。

 それで絶滅するようなら、そもそも私が来る前にとっくに全滅しているだろうし。


「……今が頃合いかも」


 大丈夫かな? まあ見るだけなら大丈夫かも。

 あまり負荷を増やしたくないけれど、放置して全滅していましたでは寝覚めが悪い。

 神様だもんねえ。それも担当区域として割り振られたんだから、しっかりとそちらも対処しないとね。


「頃合い、ですか?」


 私の独り言にリオラが思わず反応し、それを失態と思ったのかぴくっと翼を動かした。

 別に気にしなくていいのに。私の仕事の邪魔をしないように黙って見守ってくれていたんだ、いい子だね。


「この前リオラのおかげで担当区域が増えた」


「全ては神様の御力によるものです」


 謙虚だねえ。とりあえず頭をなでてあげると、驚いた様子をしつつもこちらに頭をあずけてくる。

 なでられてないんだろうね。迫害されていたってくらいだし。


「翼人たちが大変だから後回しにしていたけど、今なら様子を見てもいいかもしれない」


「そうですね。翼人たちも、神様の邪魔をするくらいなら死を選ぶでしょう」


 選ばないでほしいなあ。私の作業全部無意味になるじゃん。

 これでもこの世界を救うことを志している神様なんだし、救える者は救いたいのだ、私は。

 ということで、周辺区画も救える者たちだろうね。


 ――管理対象世界:放棄領域〘崩壊区画-4041〙

 ――人口:0


 ふむ……。


 ――管理対象世界:放棄領域〘崩壊区画-4042〙

 ――人口:0


 ここもかあ……。


 ――管理対象世界:放棄領域〘崩壊区画-4043〙

 ――人口:0


 ことごとくがゼロ。なるほど、翼人たちはかなりがんばってこの世界を生きていたらしいね。

 周辺区画の担当になりましたって言われたけどさあ、完全に死に絶えてるじゃん!


 ――管理対象世界:放棄領域〘崩壊区画-4044〙

 ――人口:68


 おぉ? これは……。

 人口がゼロじゃないから生存者が存在している。

 それも、翼人たちよりも多く生き残っているみたい。


「翼人たちのことは今日はお休み」


「はい! では、新しい信者を増やしにいきましょう!」


 違うんだけどなあ。いや、最終的にはそのほうが助かるけれど、リオラが私より神の布教を張り切っている。

 ……まあ、神様ってそれが正しいよね。自分から力を誇示するのではなく敬虔な信徒が語り継いでくれる。私なんかはそれでいいのだ。


「ログイン。管理対象世界:放棄領域〘崩壊区画-4044〙」


 さあ、こっちはどんな世界が広がっているのかな?


    ◇


「巫女様! 海域の汚染がさらに拡がっています!」


「被害状況は」


「漁場が一つ完全に死に絶えています……」


 その報告に唇を噛む。わずかに血がにじむけれど、海の中へと消えていった。

 私の血程度が混ざっても、海は変わらず雄大でとても美しい。

 でも、穢れはそんな海を容赦なく確実に蝕んでいく。


「避難を最優先にしなさい。死んだ海域は放棄するわよ」


 ぐずぐずしてはいられない。

 そんな場所に残っていたら、私たち海人(かいじん)まで汚染されてしまう。

 汚染された仲間を結界の中に移動したら、かろうじて結界で守っているこの場所にまで汚染が侵食する。

 それを防ぐために見捨てる判断をするのは私なのだから……。そんなことはしたくない。


「ああ……」


 手遅れだ。その言葉はかろうじて胸の中に消えていった。

 だけど、それが何の救いになるんだろう。

 私の魔力を中心とした結界の中から彼女を見つめる。

 彼女は、困ったように笑っていた。諦めたように笑っていた……。


「巫女様。私はもう手遅れです」


「そう、みたいね。……役目を果たしなさい」


 助けたい。でも、こうなったら被害を拡大させないことしかできない。

 私は苦楽を共にした仲間を見捨てる。こんな荒んだ世界を必死に生き抜いてきた家族をまた見捨てるんだ。


「戻るわよ。結界の維持をかかさないように全員に通達しておきなさい」


 振り返らない。振り返れない!

 きっとあの子は私に深々と頭を下げているだろう。汚染された海域の中で、残されたわずかな時間を過ごすだろう。

 だけど、あの子は優しいから私たちを恨むことはしない。……してくれない。


「あの子のためにも……」


 私たちは生き延びないと。なんて言いそうになった。

 なんて気持ちが悪い言葉だろう。自分から見捨てておきながら、よくもまあそんなことを言いそうになったものね。

 忘れよう。忘れないと。私は巫女だから、あの子のことを考えている時間さえない。


 幾重もの結界で守っていた数少ない生息領域。それがまた一つ失われた。

 私たちが生きることができる場所が徐々に狭まっていく。

 このままでは……結界に入れずに死ぬ者さえ出てきてしまうかもしれない。


「巫女様……。このままでは、私たちが生きる場所が……」


「わかっているわ。それでも、まずは今日生きるために結界に集中なさい」


 当てのない延命措置。本当にただ一秒でも長く生きているだけ。

 そうしてずるずると生き延びて、最後は汚染されて死ぬ? なんのために必死に抗っているの?

 助けがこない絶望的な時間稼ぎ。いったい何を期待してそんなことしているのかしらね……。


「巫女様!」


「今度は何?」


 少し嫌な言い方をしてしまった。

 でも仕方ないじゃない。私への報告なんて、どうせ全部悪い報告なんだから。

 今からさらに悪い報せをされるこちらの身にもなってほしい。


「海域の汚染が縮小しています……」


「そう。それじゃあ、また結界……」


 ……ん? 汚染が拡がっているとか拡大しているとかじゃなくて、縮小って言わなかった?

 聞き間違い……じゃないわね。じゃあ言い間違いね。


「慌てるのはわかるけど、報告は正確になさい。汚染の拡大でしょ?」


「い、いえ……。それが汚染が縮小といいますか、先ほど汚染された海域の穢れが消えていまして……」


「……なんで?」


    ◆


「がぼぼぼ……」


 ログインしたその先は、一面真っ黒な海でした。

 先に言ってくれないかなあ!? そういうのはさあ!

 これだからシステムは融通が利かない! いや、それがわかっていながら確認しなかった私が悪い!


 まったく……。こんなことじゃ、私のかわいいリオラがずぶぬれになってあきれちゃうよね。

 リオラは……。あれ、リオラ?


「リオラ!」


 やばい。私はすぐに意識を切り替えて水中で呼吸をしたけれど、リオラにはそんなことができない。

 苦しそうに溺れているリオラはすぐに見つかった。……いや、溺れているだけじゃない。

 直したばかりの汚れた翼が、墨が染み込んでいくかのように黒く染まっていっている。


「その子、私の巫女なんだけど」


 海といえど、私のリオラを勝手に自分色に染めないでくれるかなあ!?

 むしろあんたが私色に染まるといいさ!


 ――管理コマンド入力


 ――[環境操作]

 ――対象:下位領域水系

 ――操作:浄化処理(簡易)


 浄化浄化浄化浄化浄化!!

 リオラが苦しんでいるのは呼吸ができないからじゃない。

 巫女になった以上、リオラが溺れるはずはない。

 ってことは、この汚れがリオラを苦しめている原因でしょう?

 なら、私はリオラを苦しめる全てを修正する。


「大丈夫?」


「は、はい! 神様のおかげで、助かりました……」


「転移先の確認不足。私のミスだった。ごめん」


「い、いえ! 神様が謝ることでは!」


 やさしいねえ。翼が黒くなっちゃたし、こちらもさくっと直してしまおう。


 ――管理コマンド入力


 ――[生体操作]

 ――対象:翼人種翼部

 ――操作:正常状態復元


「うん。きれい」


「あ、ありがとうございます……」


 これでどこに出しても恥ずかしくない新品のリオラだ。

 まあ、さっきの状態でもどこに出しても恥ずかしくないけど。

 まったく……いきなり予想外の信仰力を使うことになっちゃったね。


 この世界でデバッグの一つでもしようと思ったけど、予定が狂ったなあ……。

 まあ、リオラを救えたのであれば私にとっては十分に価値のある使い方だし、必要経費だけどね。

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新品のリオラって笑
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