幕間: 公孫瓚たちの戦い
俺の名は公孫瓚 伯珪。
幽州から呼び出された田舎者よ。
それがなんの因果か、車騎将軍を名乗ることになった。
それというのも、中原にとんでもない動乱が起こったためだ。
まず董卓が呂布に襲われ、洛陽も占拠されたのだが、これは孫堅どのの働きによって覆された。
あの手際は見事なものだったな。
俺も見習いたいものだ。
しかしこれでひと安心とはならず、今度は関東士人が一斉に叛旗をひるがえした。
どうやら董卓政権から弾き出されていた名士どもが、周到に準備を進めていたらしい。
おかげで多くの州が乗っ取られ、漢王朝は一気に窮地に陥った。
ところがそんな状況にもかかわらず、漢朝を支えつづけたのが孫堅どのだ。
彼は根拠地で反乱が起きても、それを短期間で鎮圧し、再び洛陽に馳せ参じてくれた。
しかも一向に協調しようとしない董卓の配下を説得し、支配下に置いてしまう。
これによってようやく官軍がまとまり、反撃に出られるようになった。
その後、皇甫嵩どのを主将にして、官軍は攻勢に出る。
俺もその一翼を担って出撃し、見事に敵を撃破したものだ。
ところが反乱軍の魔の手は、官軍の中にも伸びていた。
敵の用意した裏切り者が、大事なところで寝返ったのだ。
幸いにも俺や孫堅どのの軍では、大きな被害は出なかった。
事前に注意を受けていて、すぐに対処できたからだ。
しかし皇甫将軍の主力軍では、それは難しかったようだ。
なまじ規模が大きく、昔からの武官も多かったからな。
主力軍は大きな損害を出し、将軍もまた深手を負った。
おかげで官軍は窮地に陥ると思われたが、そうはならなかった。
孫堅どのが総大将となって、急場を見事にしのいで見せたのだ。
なにやら特殊な連絡手段と騎兵を使って、敵を引きずり回したのだとか。
さらには自身の統治する荊州から、短期間で数万の兵を補充し、訓練までつけた。
おかげで俺たちは、再び討って出られることになった。
官軍はまず手近な巻城を奪うと、その後は別々に行動となる。
「公孫将軍。原武の攻略は任せたぞ」
「うむ、承った。孫将軍もご武運を」
「そちらもな。出陣だ!」
俺たち遊撃隊は主力軍から分かれ、原武を攻めることになった。
その兵数は3万と、あまり多くはないが、敵の主力は孫堅どのが受け持ってくれる。
原武には1万弱の兵しかいないので、敵は早々に城に立てこもった。
「掛かれっ!」
「「「うお~~~っ!」」」
配下の兵が、一斉に原武の城に攻めかかる。
城壁からは雨のように矢や石が降ってくるが、さほどの勢いはない。
それに対して我が軍の戦意は旺盛だ。
こちらからも盛大に矢を放って、城壁に取り付こうと奮戦している。
おお、趙雲のヤツが張りきっておるな。
あいつは戦闘能力も高いが、頭の回転も速い。
配下を上手く使って、効果的に戦っているようだ。
早くも城壁に取り付いて、ハシゴを立て掛ける勢いだ。
おっ、劉備たちもなかなかやるではないか。
特に関羽と張飛は、あれは化け物だな。
矢の威力が、他とはひと味もふた味も違う。
あいつらが矢を射るたびに、バタバタと敵兵が倒れているぞ。
…………
…………
…………
おお、ようやく城壁上にたどりついて、敵と刃を交える者たちが出てきおった。
これはじきに、城門が開くかもしれんな。
兵を移動させておくか。
…………
…………
…………
「城門が開いたぞ! 我に続け~!」
「「「おお~~っ!」」」
とうとう城門が開いたか。
どうやら劉備たちが、大活躍してくれたようだ。
俺は敵に逃げられんよう、逃げ道をふさぐとするか。
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「乾杯!」
「「「かんぱ~い!」」」
思った以上に原武の城は早く落ち、我らは祝杯を挙げていた。
すると劉備たちが近寄ってくる。
「お疲れっす、兄貴。あ、やべ。公孫瓚さま」
「おい、人前では気をつけろと言っているだろう。劉備」
「けへへっ、気をつけます」
「まったく……しかしまあ、お前たちはよくやってくれたな。おかげで想像以上に早く、城を落とせた」
そう言ってねぎらうと劉備、関羽、張飛、趙雲が嬉しそうな顔をする。
「ヘヘヘ、まあ、今日は張りきりましたからね」
「うむ、我らも存分に戦えて、満足ですぞ」
「そうそう、公孫瓚さまのお役に立てたなら、光栄ってもんすよ」
「私も今日は、いろいろと勉強になりました」
なかなか嬉しいことを、言ってくれるではないか。
「とはいえ、敵の主力を孫将軍が受け持ってくれたからこその勝利だ。あまり浮かれていてはいかんぞ」
「ああ、そうっすよね。あっちは敵の方が多いのに、俺たちはいらないなんて、凄い自信ですよね」
「まあ、敵が烏合の衆なのも事実だが、それでも大したものだ」
すると趙雲が、大事なことを指摘する。
「孫堅さまには勇将、猛将だけでなく、優秀な軍師もいますからね」
「ああ、そうそう、なんか周瑜とか、賈詡っていったか」
「うむ、周瑜などはまだ18歳と聞くぞ」
「マジかよ。でもたしかに、頭よさそうな顔してるよな」
「兄いには一番欠けてる部分っすよね?」
「うるせえ、この」
「あいてぇ」
なぜか劉備と張飛のどつき漫才が始まった。
しかし彼らの言っていることは、俺にも当てはまる。
「軍師、か。たしかにそのような存在も、必要なのかもしれんな」
「えっ、公孫瓚さまも、軍師をお探しで? なら俺が」
「無理だって、兄い。そんなに頭、よくねえんだから」
「だからうるせえっての」
「あいたぁ」
またどつき漫才を繰り広げる2人の横で、今度は関羽が口を開いた。
「たしかにそのような存在も必要なのかもしれませんが、どうにも文官や名士などというのは、信用ができませんからな」
「ほほう、関羽もその辺は嫌いなようだな。実は俺も、あまり好きになれんのだ」
すると趙雲が、異論を唱える。
「別に文官や名士だからと、差別する必要はないのではありませんか? 信用できるか否かは、その者次第なのですから」
「……うむ、そのとおりだな。俺も少し、考えたほうがよさそうだ」
「そうですね。なにしろ公孫瓚さまは、車騎将軍なのですから」
「我ながら、似合わんとは思うがな」
「いえいえ、むしろ実力に官職が追いついたのでは?」
「それは褒めすぎだ」
「「「アハハ」」」
そんなたわいのない話をしつつ、俺は軍師の必要性について、改めて考えていた。




