5.反乱の終結
熹平3年(174年)4月中旬 揚州 会稽郡 上虞
未来の名将軍 朱儁を味方につけた俺は、その勢いで上虞の城を攻め落とした。
討伐軍の指揮官である揚州刺史の臧旻、丹陽太守の陳夤、会稽太守の尹端らがいたく喜んだのは言うまでもない。
「富春の英雄に乾杯!」
「「「乾杯!」」」
当然ながら、情勢が落ち着くと宴席に招かれ、メチャクチャ持ち上げられた。
「いや~、それにしても愉快よな。許信を討ち取ったばかりか、あっという間に上虞の城まで落とすとは」
「しかりしかり。これほどの逸材が隠れていたとは、とんと知りませなんだ」
「いえいえ、俺なんか先頭に立って、剣を振るしか能のない人間ですよ。皆さんの助力があってこその、上虞攻略です」
「フハハッ、歳に似合わず、謙虚だな。しかしこの臧旻、功労者の功に報いることは忘れぬ。だから今後も、バリバリと働いてくれ」
「はっ、微力を尽くします」
「うむ、頼んだぞ、ワハハハハハッ」
おじさん達ったらもう、めっちゃ上機嫌。
そりゃあ、許昌が反乱を起こしてから、もう1年半も経つんだ。
みんな、とっとと片づけて、帰りたいに決まってる。
ここでようやく突破口が見えてきたんだから、喜びもひとしおなんだろう。
しかし俺も朱儁も、無邪気にはしゃぐほど子供ではない。
あくまで刺史や太守の功績になるよう、現場働きに徹するつもりだ。
これも21世紀で身に着けた処世術だな。
上司のヨイショなんて、お手の物だ。
その晩はたっぷりとお酒を飲まされながら、接待に専念した。
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熹平3年(174年)4月下旬 揚州 会稽郡 句章
上虞の周辺が落ち着くと、俺たちは句章へと軍を進めた。
臧旻や尹端なんかもう、許昌を倒す気マンマンである。
実際に戦うのは、ほとんど俺と朱儁なんだけどね。
そして句章に迫ると、許昌の息子の許韶が総大将となって出てきた。
およそ1万ほどの敵兵が、俺たちの前に立ちふさがる。
対する官軍は、全て合わせても5千人をいくらか超える程度だ。
しかしその多くが訓練されており、士気も高かった。
「掛かれ~っ!」
「「「おお~~っ!」」」
臧旻の号令で、官軍が攻めかかる。
もちろん俺と朱儁の軍は最前線で、まっさきに駆けだしていた。
ただし俺は今回、朱儁を見習って、少し後からついていくようにした。
そして呉軍の全体に目を配り、押されてるところに応援を出したり、じかに加勢したりするわけだ。
もちろん呉景と孫静は、俺のそばで戦っている。
そこが一番安全なので、俺も安心できるというものだ。
不思議なことに、俺が先頭に立った時よりも、呉軍の進行は順調だった。
点で押すよりも、面で押した方が、敵の戦力が分散して、全体の成果は高まってるんだろうな。
なるほど、これが集団で戦うってことか。
そうこうするうちに、不甲斐ない味方にじれたのか、敵軍大将の許韶が前に出てきた。
俺はこれ幸いと、許韶の前に立って挑発する。
「てめえが大将の許韶か? 俺は孫堅 文台。貴様を倒す男だ!」
「フハハッ、馬鹿め。身のほどを思い知らせてやるわっ!」
「ヘッ、ゴチャゴチャ言ってねえで、掛かってこいやっ!」
「おのれ、こわっぱ!」
許韶は並みよりも倍は重そうな大剣を、軽々と振り回してきた。
なかなかの腕っぷしではあるが、俺から見れば隙だらけだ。
「ほれ」
「ぬうっ、小癪な」
俺は深く踏みこまずに、敵の剣を軽くあしらい、その手足に軽い攻撃を放つ。
それは致命傷ではないものの、不利を悟った許韶が、とうとう賭けに出る。
「ええいっ、これを受けてみよ!」
「当たるかよ!」
敵の渾身の一撃をかわしながら、逆に剣を叩きこんだ。
「ぐはあっ!」
「うわあ~、許韶さまがやられた~!」
「ば、化けもんだ! 敵うはずがねえ!」
「逃げろ~!」
血しぶきを上げて倒れる許韶を見て、敵の兵士たちが悲鳴を上げる。
すでに押され気味だった敵の士気は一気に崩壊し、我先にと逃げはじめた。
「さすがだね、兄さん!」
「くっそ~、かっこいいじゃないですか」
「おう、お前らもよく踏んばってくれたな。追撃だ!」
「「「おおっ!」」」
それまで邪魔が入らないよう、周りを固めていた孫静たちが、喜びの声を上げる。
そんな彼らに号令を掛け、呉軍が一丸となって追撃を始める。
当然、朱儁の会稽軍もそれに続き、他の官軍も加わってきた。
それは敵軍が句章の城に逃げこむまで続き、俺たちは城外で、盛大に勝鬨を上げたのだ。
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ハロー、エブリバディ。
孫堅クンだよ。
野戦で快勝したはいいものの、許昌が城に閉じこもると戦況は膠着した。
さすがに1年半も反乱を続けてるだけあって、句章の城は大幅に強化されている。
その城壁は上虞の5割増しは高くなっており、兵数もこちらを上回っているので、容易に侵入を許さない。
「なぜじゃ、なぜ落ちんのじゃ?」
「ですから、攻城戦をするには兵力が少なすぎるのです。あれを落とすには、現状の3倍は必要です」
揚州刺史の臧旻と、朱儁の声が響き渡る。
もう何回目のやり取りだろうか。
敵の本拠を目の前にして、臧旻が焦るのは分かる。
しかし強化された城を落とすには、官軍の兵力が少なすぎた。
それを朱儁が根気よく説明するのだが、すぐに話は振り出しへ戻ってしまう。
まるで駄々っ子だ。
そんなうんざりする会話を聞きながら、攻略法を考えていた。
俺なりにあれこれと思案した結果、手段はひとつしかなさそうだ。
とっとと戦を終わらせて帰るため、それを進言することにした。
「臧旻さま。俺に考えがあります。ただしそれには、全軍の指揮権を俺と朱儁さんに、預けてもらわねばなりません」
「おおっ、それは真か? 可能であれば任せるぞ。どのような方法じゃ?」
「それはですね――」
結局、臧旻は俺の提案を受け入れ、それから5日間は激しく城を攻めたてた。
ただし極力、犠牲を抑えつつ、敵を休ませない攻め方でだ。
そして5日めの深夜。
「急げ。音は立てるなよ」
「「「……」」」
俺は30名の決死隊を率いて、城壁へ向かっていた。
そして敵に気づかれないギリギリまで近づくと、静かに弓に矢をつがえる。
「行け」
指示を出しざま、俺は城壁上の敵兵を狙い射った。
矢は見事に命中し、敵兵が倒れる。
それと同時に決死隊はハシゴを抱えて城壁に駆け寄り、それを立てかけた。
決死隊がハシゴを登っている間も、俺は城壁上の敵を射つづける。
3人ほど倒すと、敵に気づかれたものの、決死隊の邪魔はさせなかった。
やがて味方の兵士が城壁上にたどり着き、そこで戦闘が始まる。
そうして決死隊の半分ほどが登りきったところで、俺もハシゴに取りついた。
瞬く間にそれを登りきり、城壁上の戦闘に参加する。
連日の戦闘による疲れからか、敵兵の数はあまり多くない。
そこに俺が加わったことで、一気に戦況が有利になった。
味方を引っ張って城門まで突き進むと、やがてそれを開け放つことに成功する。
「見ろ、味方が門を開いたぞ! 突撃だ~!」
「「「うおお~~~っ!」」」
城外で待ち受けていた官軍が、怒涛のように門へ殺到してきた。
この日、1年半に及ぶ許昌の反乱は、とうとう終わりを迎えたのだ。




