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それゆけ、孫堅クン! 改 ~ちょい悪オヤジの三国志改変譚~  作者: 青雲あゆむ
第3章 中華分裂編

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幕間: 董卓の油断

 俺の名は董卓とうたく 仲潁ちゅうえい

 涼州に生まれ、異民族の羌族きょうぞくとも親しくしてきた。

 おかげで連中の考え方や戦い方に詳しくなり、しばしば辺境の防衛に駆り出されたものよ。


 しかし中平元年の黄巾討伐は、大きく勝手が違った。

 守るものもなく、イナゴのように群れ戦う黄巾賊は、ある意味おそろしい敵だ。

 そんな奴らを相手に手勢を損なうのも馬鹿らしかったので、適当に手を抜いておいた。


 そしたらあっさり罷免されて、涼州に戻される。

 フヒヒッ、俺にとっては好都合だ。

 この乱れた時代なら、まだまだ出世の機会はあるからな。


 案の定、翌年には”辺章と韓遂の乱”が起こり、また中郎将に返り咲いた。

 しかし皇甫嵩こうほすうの指揮下におかれていては、どうにも成果が挙がらない。

 そうしてダラダラとにらみ合ってるうちに、皇甫嵩が罷免されてしまった。


 その次にやってきたのが、張温という無能だった。

 こいつは軍才もないくせに、車騎将軍でございとふんぞり返り、的はずれな指示を出しやがる。

 馬鹿馬鹿しくてぞんざいに扱っていたら、真っ向から俺に挑んでくるヤツがいた。


「しかし剛勇をもってなる董卓さまが、賊軍ごときに手も足も出ないとは、不思議でなりませぬ。ひょっとして何か、別の意図でもおありでしょうか?」

「貴様、何者だ? 何をもって俺の忠勤を疑う?」

「これは失礼。私は孫堅 文台。張温将軍のご厚情によって、討伐軍に加わることとなりました。以後、お見知りおきを」

「孫堅? フンッ、朱儁のところにいた若造か。生意気な」

「董卓さまに覚えてもらえていたとは、光栄です。しかし話を戻しますが、董卓さまほどの武勇がありながら、賊軍を放置しておく理由が分かりません。何か、特別な事情でもございましたか?」

「そんなものはない。あまり無礼なことを言っておると、斬り捨てるぞ」


 賢しげに口出しする小僧をにらんでやるが、ヤツは一向にひるむ気配がない。

 それどころか平気な顔で、情報を要求してきおった。


「おお、怖い。しかし将軍の配下として、言うべきことは言わねばなりません。董卓さまは敵が手ごわいとおっしゃるだけで、何も詳しい情報を出しておられない。その辺をご説明いただけませんか?」

「クッ、小賢こざかしい。よかろう。状況を説明してやる」


 結局、ヤツの口車に乗せられて、情報を吐き出させられた。

 必要なこととはいえ、あまりおもしろくない。



 その後、張温の指揮によって辺章たちと対峙したが、案の定、膠着した。

 まったく、間抜けが。

 敵のことを理解もせず、この程度の軍勢で勝てるわけがなかろう。


 しかし予想外のことは起こるもので、空から火の玉が落ちてきたのだ。

 そこで逃げだした敵軍を、さんざんに討ち取ってやったものよ。

 とはいえ敵の数は多く、かなりの部分を逃がしてしまった。


 そこで追討することになったのはいいが、やはり張温はバカだった。

 俺と周慎しゅうしんをふた手に分けて、賊軍を追わせようとするのだ。


「いくら逃げ出したとはいえ、敵はいまだに精強であり、全軍をもって当たらねば反乱軍は打ち破れませんぞ!」

「いや、3万もあれば十分であろう。それとも董卓どのは、自信がないと?」

「そうは言いませぬが……」


 現実問題として、こいつは上司なのだから、命令には従わねばならない。

 一方で別働隊の周慎にも、孫堅が噛みついていた。


「どうやら敵のこもる楡中ゆちゅうには、兵糧ひょうろうの蓄えが少ないようです。ならば周将軍が2万の兵で楡中を囲み、私が残り1万を率いて、敵の補給路を遮断するというのはいかがでしょうか?」


 ほほう、こいつはけっこう、分かってるようだな。

 しかし周慎のボケはほとんど考えず、その提案を却下していた。

 どうしようもないボンクラだ。

 それを聞いて落ちこむ孫堅に、俺は声を掛けてみた。


「無能な上司を持つと、お互い苦労するな?」

「……大きな声では言えませんが、全くそのとおりです」


 フハハ、こいつ、はっきりと言いやがるじゃねえか。

 しかし他の連中に比べれば、はるかに見どころがある。

 その後、意気投合した俺たちは、たまに酒を酌み交わす仲になった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


中平6年(189年)10月 司隷しれい 河南尹かなんいん 洛陽らくよう


 あれから涼州刺史となった俺は、手勢を鍛えながら、機会をうかがっていた。

 その間に2度ほど、”洛陽へ来て皇甫嵩と代われ”という指示があったが、適当にごまかしておいた。

 今の朝廷の命令など、従うに値せんわ。


 やがて大将軍の何進から、軍勢を率いて上洛せよとの指示が下る。

 何進は宦官ともめていると聞くから、そのための示威行動だろう。

 ひょっとしたらおもしろいことが起こるかと思い、俺は上洛した。


「董卓さま。天子さまが洛外に避難しているようです」

「なんだとっ! ただちに保護するのだ!」


 そうしたら、なんたる幸運か。

 至上のぎょくがこの手に転がりこんできおったのだ。

 俺はただちに天子と陳留王を保護し、そのまま洛陽へ入城した。


 そしたら玉をかっさらわれた名士どもが、あっけに取られておったわ。

 まったく愉快な話だ。

 せっかくだ、この勢いで朝廷を改革し、もっと住みやすくしてやろう。



 しかし改革は思うように進まなかった。

 いろいろと策を弄して、洛陽の軍勢を手に入れたのはいい。

 さらに司空と太尉を歴任し、とうとう相国にまで成り上がることで、権威も確立できただろう。


 その間、皇帝の劉弁を廃位させて、弟の劉協を皇帝にしたりもした。

 何太后かたいごうという後ろ盾を持つ劉弁より、劉協の方が扱いやすいからな。

 何太后を自殺に追いやったのも、まあ上手くいったと言えるだろう。


 しかし厄介だったのは、名士どもの手綱を握ることよ。

 俺はわざわざへりくだって、袁家を始めとする名士たちに、人事の刷新を任せてやった。

 しかし最初はこちらを恐れている風だったのが、徐々に大胆になってくる。

 やがて自分たちの望む名士を抜擢し、次々と要職につけていった。


 それでも利益を与えているうちは、言うことを聞くと思っていたのだが、ある日、とんでもない報告が入ってきた。


「陳留郡で、張邈ちょうばく張超ちょうちょう橋瑁きょうぼう孔伷こうちゅう劉岱りゅうたいらが、反乱を起こしました!」

「な、なんだとっ!」


 なんと俺が太守や刺史にしてやった連中が、叛旗をひるがえしたというのだ。

 しかも張邈らに続いて、袁紹えんしょう王匡おうきょう韓馥かんふく袁遺えんい鮑信ほうしん曹操そうそう袁術えんじゅつたちも蜂起したという。

 俺は奴らを推薦した周毖しゅうひたちを呼びだし、激しく詰問した。


「その方らが推薦した者どもが、こぞって叛旗をひるがえしておるぞ! これはお前らが企んだことかっ?!」

「い、いえ、決してそんなことは。おそらく何かの行き違いではないかと……」

「そ、そうです。大至急、使者を遣わし、彼らの言い分を聞いてみましょう」

「ならばとっとと動かんか~っ!」

「「「はは~っ」」」


 しかし使者を出したはいいが、ほとんどの者が殺されたという。

 このうえは無能どもを処刑して、長安へ遷都しようかと悩んでいたら、思わぬ朗報が舞いこんできた。


「長沙の孫堅が、荊州の叛徒を押さえるだと? もしそれが実現すれば、いくらか楽になるな。もう少し様子を見るか」


 以前、一緒に戦った孫堅が、俺に味方すると言う。

 まあ、たしかにあいつは名士というよりも、俺と同じ武闘派だからな。

 あり得ないことではないだろう。

 ここはひとつ、ヤツに懸けてみるか。



 そうしてしばらく様子を見ていたら、孫堅は本当に王叡おうえい張咨ちょうしを捕らえ、さらに袁術を追い払ってくれた。

 おかげで俺は窮地を逃れ、体勢を立て直すことができたのだ。

 そして久しぶりに会った孫堅に真意を問いただすと、ヤツは嬉しいことを言ってくれた。


「孫堅。おめえ、なんで俺に味方してくれるんだ?」

「昔、一緒に戦った仲じゃないですか。それに俺にとっては、董卓どののやってることが、そう悪くないように思えたんですよ。今、この国は、いろいろと行き詰まってますからね。変革が必要なんですよ」


 一緒に戦った仲か。

 そんなことで味方するだなんて、普通はあり得ねえだろう。

 だけどおべんちゃらだけで、なんの役にも立たない名士どもよりは、よほど信頼できる。

 こんなヤツがいるってだけでも、改革に取り組む甲斐があるってもんだ。

 まあもちろん、ヤツも実利を求めてのことだろうがな。


 その後、孫堅の協力もあって、反乱軍の鎮圧には成功した。

 しかしその首謀者たちを、処刑できなかったのは計算違いだった。

 あんなにも助命嘆願が多いと、さすがの俺もためらっちまう。


 まあ、反乱軍の牙は抜いたんだ。

 なんとかなるだろう。

 実際に最近は大きな反乱もなく、この国は無難に治まっている。


 孫堅の野郎も、荊州で改革に取り組んでいるそうだ。

 たまにあいつと酒を飲むのが、俺の楽しみのひとつなんだ。

 だけどあいつ、呂布と相性が悪いんだよなぁ。


 呂布の方は対抗心まる出しだし、孫堅も警備体制を見直せと言ってくる。

 2人とも俺が頼みにする仲間なんだから、仲良くやってくんねえかなあ。

 そう思っていたら、ある日の晩に異変が発生した。


「何事だ? 騒がしいぞ」

「これは董卓さま。お休みのところ、お騒がせしてすみません。しかし大至急、お話ししたいことがあったのです」

「おう、呂布か。一体なんだ?」

「それがですね……」


 その瞬間、殺気を感じて右手を上げると、激痛が走った。


「ぐうっ……な、なんのつもりだ? 呂布」

「お前の命はここで終わりだ。後は俺に任せて逝け!」

「裏切ったのか? この恩知らずが!」

「ヘッ、てめえに恩なんかねえよ! とっとと死ねや!」

「くそ、これしきでやられてたまるか!」

「くっ、しぶとい」


 必至に抗ったが、すでに右腕は使い物にならず、もうこれまでかと思った。

 しかし次の瞬間、部屋の中に松明たいまつが放り込まれたんだ。

 そこから立ち上がる煙で、目は痛み、咳が止まらなくなる。

 それは呂布も同様で、奴が混乱している間に、誰かが近寄ってきた。


「孫堅さまのご指示で、助けに参りました。こちらへ」

「ゴホッゴホッ、た、助かる」


 言われるままについていくと、なんとか窮地は脱したようだ。

 しかし傷から流れる血が止まらず、意識が朦朧としてきた。

 このままでは俺は……


 いや、なんとしても生き延びて、孫堅に謝るんだ。

 こんな所で、死んでたまるか!

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