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それゆけ、孫堅クン! 改 ~ちょい悪オヤジの三国志改変譚~  作者: 青雲あゆむ
第3章 中華分裂編

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28.洛陽の奪還

 洛陽の外で呂布と騎馬戦をくり広げていたら、不覚にも落馬してしまった。

 生粋の騎兵である呂布の技量に、わずかにおくれを取ったのだ。

 しかし俺はなんとか体勢を立て直すと、剣を抜いて立ち上がった。


「まだまだ! これからだ!」

「ハッ、往生際が悪いぞ。その首、すぐにも切り落としてやるわ!」


 騎乗したままの呂布が近づき、俺に矛を差し向ける。

 馬上から繰り出される攻撃は、たしかに脅威ではあったが、避けるだけならなんとかなった。

 むしろ地面で両足を踏んばれる分、自由に剣を振れてやりやすいほどだ。


 おかげでなんとか呂布の攻撃をしのいでいるうちに、それに気づいた味方が駆けつけてきた。


「孫堅さま~っ!」

「やらせるかっ!」

「うぬ、下郎が、邪魔をするか!」


 孫河そんか孫賁そんほんの2人で攻め、なんとか呂布を後退させる。

 その隙に俺は馬上に戻り、呂布を追い詰めようとしたところで、別の味方部隊が追いついてきた。


「孫堅さま~、ご無事ですか~? 洛陽は奪還しましたぞ~!」

「な、なんだとっ?!」


 隊を率いる黄蓋の言葉に、呂布が大きく動揺する。

 それは敵の兵士たちにも伝わって、一気に形勢が傾いた。


「皆の者、洛陽は取り返したぞ! 逆賊呂布を討ちとれっ!」

「「「おおっ!」」」


 兵数がほぼ同等になり、しかも洛陽を奪還したと知った味方が、にわかに勢いづく。

 その勢いにはさすがの呂布も抗しきれず、やがて敵軍は敗走を始めた。

 俺もしばしそれを追ったが、適当なところで切り上げ、洛陽へ戻った。


 すると黄蓋が言ったとおり、そこに敵軍の姿はなく、城門が開かれている。

 城門を守っていた程普に近づくと、嬉しそうに話しかけてきた。


「おお、孫堅さま。ご無事でしたか。こちらはご指示どおり、片づけておきましたぞ。それにしても味方に城内から内応させるとは、さすがですな」

「ああ、ご苦労。どうやら城内では、朱儁しゅしゅんさまが上手くやってくれたようだな」


 なぜこうも簡単に洛陽が制圧できたかといえば、朱儁が内応してくれたからだ。

 しかし俺が来るまで、朱儁は呂布たちに身柄を拘束されていた。

 たとえ誰かの手引きで兵を起こしても、すぐに鎮圧されていた可能性が高い。


 そこで俺はわざわざ正面から姿を見せ、呂布を引きずり出したわけだ。

 俺に強い憎しみを抱くあいつなら、必ず出てくると踏んでいたが、予想以上に上手くいった。

 そしてヤツが俺を追う間に、朱儁は密偵の手びきで解放され、城内の制圧に動いたのだ。

 まだ鎮圧はしきれていないようだが、いずれ終わるだろう。


「よし、俺たちも反逆者を制圧するぞ」

「かしこまりました」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


初平3年(192年)5月中旬 司隷しれい 河南尹かなんいん 洛陽らくよう


 あれから朱儁や周忠と合流すると、洛陽の大掃除を始めた。

 すでに朱儁は劉協陛下を保護し、一緒にいた王允おういんの身柄を押さえていた。

 そこから王允たちの協力者の拘束に動いたのだが、あいにくと成果は芳しくない。


「参った。連中、ずいぶんといさぎよく逃げだしたもんですね」

「ああ、私が兵を挙げてから、多くが逃げだしたようだ」


 驚いたことに、袁家を始めとする名士連中が、ごっそりと逃げだしていたのだ。

 どうやら俺が城外で呂布と戦ってる間に、朱儁が兵を挙げたのが、想像以上に速く広まったらしい。

 朱儁が宮廷を押さえ、俺が呂布の軍勢に手間どっているうちに、別の門から逃げだしたようだ。


「結局、呂布にも逃げられたしな。連中、どこに行くと思います?」

司隷しれい潁川えいせんは押さえているから、おそらく兗州えんしゅうだろう」

「まあ、そんなとこでしょうね」


 ムカつくことに、呂布の野郎もまんまと逃げおおせていた。

 ヤツは部下を守ることもせずに、ひたすら逃亡したらしい。

 あいにくとこちらの手勢が少なかったこともあって、とうとう見失ってしまう。


 そんな奴らの逃亡先だが、兗州が濃厚だ。

 なぜなら司隷や豫州の潁川郡には、漢朝に忠実な太守が配置できているからだ。

 しかしそれより東になると、あまり信頼できない連中もいる。

 それは反董卓派の名士との妥協の結果であるが、忌々しい話である。


「それで1週間ほど前、具体的に何があったんですか?」

「ああ、それなんだけどね。急に呂布の兵が押しかけてきて、協力するよう強要してきたんだ。逆賊 董卓は討ち取ったから、今後は呂布と王允が政権を担うとね。しかし私が協力を拒むと、そのまま軟禁されてしまった」


 すると朱儁の後を、周忠が引き継ぐ。


「私の方にはいきなり罷免の指示が来た。他にも蔡邕さいよう李儒りじゅ賈詡かくなども罷免され、謹慎を申しつけられていたな。私はおとなしいふりをして、情報を集めていた」


 そう言う周忠に、俺は肝心なことを訊く。


「それで、董卓どのは見つかったんですか?」

「ああ、王允たちが捕まったと知って、ようやく出てきたよ。ただし、まともな手当てもできずに隠れていたため、衰弱がひどい。今は医者が診ているところだ」

「よかった……とりあえず、命は永らえたんですね」

「まだ予断は許さんようだがな」


 董卓の生存を知って、心底ホッとした。

 味方が逃がしたとは聞いていたが、瀕死の重傷だったのだ。

 もしかしたらと、気が気でなかった。


 そんな俺の表情を見て、朱儁が話題を変えるように周忠に訊ねる。


「ところで、王允に味方したのは、どんな奴らなんですか?」

「それはもう、主流派のほとんどだよ。袁家はもちろん、楊彪ようひょう黄琬こうえん荀爽じゅんそう周毖しゅうひ許靖きょせい伍瓊ごけいなどだな」

「そいつらって、董卓どのに重用されてた連中ですよね?」

「ああ、表面上は従うふりをして、裏では陰謀を企んでいたのだろう」

「そしてそいつらは、形勢が悪くなって逃げだした、と」

「ああ、孫堅の電光石火の行動に、よほど驚いたらしいな」


 周忠が肩をすくめながら、苦笑する。

 普段は偉そうにしている名士連中の、不甲斐なさを嘆いているのだろう。

 そこまで聞いたところで、俺は決意を示す。


「今回の報いは、絶対に受けさせてやりますよ。1人残らずとっ捕まえて、後悔させてやる。だけどあいつら、このまま逃げるだけじゃ済みませんよね?」

「ああ、このままでは済まないだろうな。どうやら奴らは、反董卓連合の連中と連絡を取っていたようなのだ。下手をすると、再び兵を挙げるかもしれん」

「なんと! それは本当ですか?」

「残念ながら、本当だ」


 朱儁が驚きの声を上げると、周忠は苦々しそうな顔で肯定する。


「俺もその可能性は高いと思います。なので至急、兵を集めるべきでしょう。すぐに荊州から1万ほど呼びます。魯陽にも1万ほど置いておけば、当面は対応できるでしょう」

「おお、助かるよ。そういえば、董卓の配下は今、どこにいるのかな?」


 それに答えたのは、周忠だった。


董旻とうびん董璜とうこう牛輔ぎゅうほなどの親類衆は、呂布に殺された。その他は反乱分子の討伐といって、あちこちに出かけている。すでに使者は出してあるが、集結には時間が掛かるだろうな」

「そうですか……そういえば、公孫瓚どのは?」

「ああ、彼も軟禁されていたので、救出したよ。今は城内の捜索を手伝ってくれている」

「そうですか。当面は兵力が揃うのを待ってから、脱走者の捜索が課題ですかね?」


 すると周忠が渋い顔をしながら、別の問題を提示する。


「それだけではないぞ。ごっそりと人が抜けた宮廷を、なんとか立て直さねばならん」

「ですね。そっちの方は、周忠さんにお願いできますか? せっかくだから、家格の低い人とか採用するのも、いいんじゃないですかね? 間違いなく、風通しは良くなりますよ」

「ずいぶんと気楽に言ってくれるな。それが大変なんだぞ」


 苦い顔で周忠は言ったが、断らなかったので、そちらは任せていいだろう。

 俺も軍事面では、それなりに働くつもりだ。



 そうしてひととおりの確認を済ませると、俺はある人物に会いにいった。


「久しぶりだな、王允」

「……」


 牢屋の中の王允に話しかけると、ヤツは無言で顔をこちらに向ける。

 血走った目で俺をにらみつけるあたり、まだ心は折れていないようだ。


「なぜこんなことをした?」

「……なぜだと? 逆に聞くが、お前は以前の形が正しいと思っていたのか?」

「別に問題はなかったと思うがな」

「馬鹿なっ! 董卓なぞという田舎者がふんぞり返って、天子さまをないがしろにする状態が、正しいはずがないっ!」


 王允はつばを飛ばして、まくし立てる。


「たしかに董卓が主導していたが、天子さまをないがしろにしてたわけじゃない。彼はむしろ、この漢朝を建て直そうとがんばっていたと思うがな」

「そんなはずがないっ! ヤツは政治を壟断ろうだんし、私欲の限りを尽くしていたのだ! 私はそんな奸臣に、天誅を下したに過ぎない!」

「……聞く耳なんかないってか。まあ、お前の運命はもう、決まっている。せいぜい、敵の情報でも喋るんだな」

「私は何も漏らさんぞ!」

「がんばれ。ああ、それと董卓は生きてるからな」

「なんだとっ! おい、ちょっと待て!」


 大きく動揺する王允を無視し、俺は牢を後にする。

 その後、拷問でいくらかの情報をもたらした王允は、人知れず処刑された。

 しかしそれは新たな動乱の、序盤のひと幕にすぎなかった。

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前作の”それゆけ、孫策クン! 改”はこちらから。

それゆけ、孫策クン! 改

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