12.家族と参謀
中平4年(187年)9月初旬 荊州 長沙郡 臨湘
「反乱軍の討伐成功、おめでとうございます」
「「「おめでとうございます」」」
「うむ、これも諸君らの協力のおかげだ」
無事に区星の乱を片づけると、俺たちは臨湘へ戻った。
その際、桂陽の郡都である郴県にも寄り、太守に会って恩を売ってきた。
ついでに、”孫堅の協力により、郭石を討ち取った”という報告を、朝廷へ送ってもらうよう話をつけてある。
零陵の方も事後承諾だが、やはり同様の報告を上げてもらう予定だ。
これによって桂陽と零陵の太守に恩を売りつつ、俺の成果をアピールできる。
形式は大事なのだよ、形式は。
そして臨湘で一息つくと、俺は太守として本格的な指示を下した。
「諸君。私は主に反乱鎮圧のために派遣されたと理解しているが、太守の仕事もおろそかにするつもりはない。私はこの長沙で、良民が保護され、公文書が正しく処理され、そして賊徒が然るべき処罰を受ける治世を望んでいる。もちろん諸君らは、力を貸してくれるであろうな?」
「はっ、も、もちろんでございます」
ちょっと威圧しながら言えば、文官たちは震え上がり、率先して協力を申し出てくれた。
けっこうなことである。
「よろしい。それでは諸君、仕事を始めようではないか」
「「「はっ」」」
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中平4年(187年)10月中旬 揚州 呉郡 銭唐
1ヶ月ほど政務に励んでいると、それなりに仕事が進むようになってきた。
ちなみにその間に俺は、劉先という若者を見出している。
彼は零陵出身で28歳の文官なのだが、非常に有能だった。
たしか劉先といえば、後の荊州刺史 劉表の配下として名が残る文官である。
俺はこれ幸いと、彼を郡丞に抜擢して、文官を統率させた。
おかげで郡の政務も順調に流れはじめたので、次の行動に移る。
家族を呼び寄せるため、揚州へ出かけたのだ。
「父上っ!」
「ちちうえっ!」
「おお、策、権。大きくなったな~」
呉雨桐の実家である銭唐にたどり着くと、俺を見つけた孫策と孫権が飛びついてきた。
孫権を抱き上げて、高い高いをしてやると、キャッキャと声を上げて喜ぶ。
すると騒ぎを聞きつけた家族が集まってきた。
「あら、あなた、お帰りなさいませ」
「ああ、ただいま。だがこれからみんなには、長沙へ引っ越してもらうぞ」
「ウフフ、ようやく一緒に住めますのね」
「ああ、待たせたな」
「ちちうえ~」
「あぶ~」
それぞれ嫁の呉雨桐に、孫翊、孫匡である。
嫁さんは俺が洛陽で単身赴任を始めると、故郷の銭唐へ戻り、実家で子育てをしていたのだ。
俺もたまに帰省してたもんだから、さらに子供が増えていたりする。
ちなみに子どもたちの年齢は、
孫策:13歳
孫権:6歳
孫翊:4歳
孫匡:2歳
といったところで、孫策以外はまだ幼い。
それと孫策と孫権の間には、他に娘が2人いる。
この日は久しぶりに一家団欒を楽しみ、それから数日は親類へのあいさつ回りや、引っ越しの準備で忙しくしていた。
ところが富春の実家に帰ったら、親戚を4人も押しつけられる。
「孫賁です。これからお世話になります」
「孫河です。よろしくお願いします」
「徐琨です。伯父上みたいになれるよう、がんばります」
「そんほ、です」
孫賁と孫輔は、俺の兄貴である孫羌の息子で、孫河はちょっと遠縁の子供だ。
どちらも親はすでに亡く、扱いに困っていたらしい。
そして徐琨は俺の妹が徐家に嫁いで、そこで産んだ子供である。
つまり俺の甥っ子どもなわけだが、まだ幼い孫輔まで含めて、面倒みろと押しつけられたのだ。
俺のことを、なんだと思ってやがる。
まあ、彼らは史実でも役に立ってるから、結局は受け入れたんだがな。
ちなみに彼らの年齢は、こんな感じだ。
孫賁:20歳
徐琨:19歳
孫河:18歳
孫輔: 8歳
孫輔は別として、俺の配下を充実させるには、ちょうどいいかもしれない。
こうして彼らと家族を連れて、次の目的地へと旅立った。
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中平4年(187年)10月下旬 徐州 広陵郡 射陽
「お久しぶりです、張紘どの」
「これはこれは、孫堅どの。ご活躍は耳にしておりますぞ」
「いえ、それほどでも」
次に寄ったのは、広陵郡の射陽だ。
ここで張紘の家を訪ねると、彼は機嫌よく出迎えてくれた。
俺は家の中に招かれると、改めて彼と話をする。
「聞きましたぞ、孫堅どの。今度は長沙の太守になられたとか。あちらはいかがですかな?」
「はい、とりあえず反乱の鎮圧には成功したのですが、日々の政務には苦労しております」
「ハハハ、それもまた経験、ですかな」
そう言って笑う張紘は、今年35歳。
相変わらず聡明そうな面立ちに、風格が加わった感じである。
俺はそんな張紘に、相談を持ちかける。
「実は折りいって、張紘どのにお願いがあります」
「ほう、なんですかな? このような無位無官の者に、お力になれることがありましょうか?」
「ご謙遜を。あなたほどの方であれば、引く手あまたでしょうに」
「フフフ、私なりに思うところがありましてな。して、願いとは?」
「はっきり言えば、私の参謀となって、仕事を助けていただきたいのです」
「ほう、それはまた……」
全くの予想外だったのか、張紘が大きく驚く。
しかしこちらこそ予想外の反応である。
なんてったって張紘は、洛陽で学問を修めた秀才なのだ。
その名声は徐州だけでなく、洛陽にも響いている。
しかし彼は何か思うところがあるのか、実家の手伝いをする程度で、仕官はしていなかった。
これはひょっとして、俺を誘ってる?
そう思っての勧誘なのだが、ちょっと違ったようだ。
しかしここで逃してはならじと、さらに踏み込んだ。
「ご存知のように、昨今は朝廷の威信も陰り気味で、長沙のような田舎は荒れております。しかしせっかく太守となったからには、そんな地にも安定と繁栄をもたらしてやりたい。とは言え、このような武骨者についてきてくれる賢者は、なかなかおりません。もし張紘どののような賢人に支えてもらえれば、いくらかは望みに近づけると思うのですが」
そう熱く語ると、張紘が食いついてきた。
「さすがは孫堅どの……失礼ながら私は、貴殿を少々学のある程度の武人、と侮っておりました。しかしその心映えは、古の聖人にも匹敵するほど。今までいろいろな方からお誘いを受けてきましたが、今日ほど心を動かされたことはありません。これを天命と信じ、貴殿に協力させていただきましょう」
「おおっ、ありがとうございます。本当にありがとうございます」
俺は張紘の手を握り、何度も頭を下げた。
だって超うれしいんだもん。
張紘といえば、張昭と並び称されるような孫呉の重臣だからな。
その能力は折り紙つきで、政務面で俺を大きくサポートしてくれるだろう。
これで少しは、俺の地盤も強化されるだろうか。
そんな未来に思いをはせつつ、彼の雇用について話を詰めていった。
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中平4年(187年)11月中旬 荊州 長沙郡 臨湘
ハロー、エブリバディ。
孫堅クンだよ。
無事に家族と甥っ子、そして張紘を連れて、長沙へ戻ってきた。
甥っ子どもはさっそく県尉の見習いに押しこんで鍛え、張紘はとりあえず主簿として働いてもらってる。
張紘の手腕はさすがで、長沙の政務が一段とスムーズになった気がする。
いや~、それにしても、家族と一緒に暮らせるのって、たっのしいな~。
…………
…………
なんて甘いこと、あるわけねえよな。
実質5歳以下のガキが3人もいるんだから、うるせ~うるせ~。
今の我が家は、まるで動物園のようだ。
ああ、単身赴任時代がなつかしいなぁ。
だけど俺は、元気に生きてます。
ようやく参謀役をゲット。
ちなみに張昭は寄り道するには遠かったので、またいずれ。




