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旅の紀行記怪談  作者: Eisei3


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8/10

紀行記怪談『金刀比羅宮・銭形砂絵』

  

 これは、香川県の金刀比羅宮を訪れた時のお話です。

 先に、銭形砂絵を訪れた話を書いてあります。やはり数年前の、お盆の時期のことでした。




 琴弾(ことひき)公園から、琴弾山山頂にある銭形展望台へと、車で上る。

 しばらく林道の坂を上ると、山頂だろうか、左手に展望台があった。少し下った無料の駐車場に車を停め、展望台に歩き戻る。

 

 屋根付きの展望台の階段を上がる。途端に視界が開け、眺望が広がる。

 目の前には、白い雲が流れる青い瀬戸内の海と、点在する小島が。そして遠くの空との境目に陸地が、ずっと霞んで伸びているのが見える。その先は広島、尾道あたりだろうか。

 

 視線を、手前に広がる浜に落とす。有明浜の、青色に茂る松林の木々の中に、丸く、白砂で描かれた「寛永通宝」の文字が見えた。それが、『銭形砂絵(ぜにがたすなえ)』だった。

 その大きさ、東西122m、南北90m、周囲345m。展望台から眺めると、ちょうど真ん円に見えるようになっているとのこと。

 あの、時代劇の中で銭形平次が、逃げる下手人に向かって投げる、一文銭の寛永通宝。たぶん、これは裏に波模様のある、4文銭ではないと思うけど … 。

 

 「()() … 」


 正直、感動しかなかった。

 瀬戸内の、碧く輝く海の色。強い日差しに白く輝く、砂浜。

 白く続く砂浜に、濃い青色の松原の並木。その青い松林の ” 海原 ” の中に、寛永通宝の砂絵が眩い陽の光を受け、影文字が更に白く、松の波間に浮き立って見えている。


 

 江戸の時代、寛永10年(1633年)に造られたとのことで、領内の巡見に訪れる当時の藩主を歓迎するために、領民たちが一夜でこの砂絵を砂浜に造り上げたと言われている。

 砂絵は、砂浜の白砂を盛り上げ造られていて、現在も保存のため、毎年、春と秋に数百名の市民の方々が「砂ざらえ」という砂絵を美しく整えるための活動を実施しており、その姿が維持されている。

 

 だが、寛永通宝の鋳造が開始されたのは、寛永13年のこと。銭形砂絵ができたという、讃岐(さぬき)国主の生駒高俊(いこまたかとし)がこの地を巡見のため訪れた寛永10年には、まだ寛永通宝は鋳造されてはいなかった …  … 等、この砂絵ができた由来については、謎に包まれているみたいではあるが。



 だいぶ前の大晦日、国営放送のゆく年くる年の番組で、ライトアップされたこの「寛永通宝」の映像が中継されたのを目にしたことがあった。(もしかしたら、記憶違いかもしれないが … ) それが、銭形砂絵との出会いだった。

 「()()、何 ⁉ これ? 」と、私は思った。その時、心に誓った。これは、いつかここに行かねばと。

 

 この場所を訪れ、この白砂に描かれる銭形砂絵の姿を目にすると、健康で長生きする上に、お金に不自由しないで幸せに暮らせるという。

 もう、絶景という眼福だけではなく、お金に健康、そして幸せまでと、至れり尽くせりのご加護が … そこにはあった!


 だから当然私も、香川に来たらうどんよりも何よりも、まずは銭形砂絵だった。

 心の中で手を合わせながら、砂絵を眺めたし、スマホで何枚も写真を撮って待ち受け画面にもした …

 

 

 しましたよ。そう …  なのに。

  

 でも、まだその効果は、少しも現れてはいないのだけれど … 。

 


挿絵(By みてみん)

夕景の中の銭形も素敵でした。




◇◆◇◆◇…


 


 「終日駐車して、500円だよ」

 駐車場の入口に座るおじさんに、500円硬貨を渡す。

 まだ参拝客で混み合う前の早朝、参道口前にある有料の駐車場に車を停める。

 

 親しみをこめて ” こんぴらさん ” と呼ばれる、香川随一のパワースポットである『金刀比羅宮(ことひらぐう)』。


 香川県琴平町の、琴平山(象頭山(ぞうずさん))の中腹にあり、785段の石段を登った山の高い場所にこんぴらさんの御本宮はあった。

 海の守り神とされ、「海の神様」として親しまれている大物主神(おおものぬしのかみ)をお祀りしている。


 江戸の時代、社寺参詣が庶民に許可された唯一の旅だった頃から、人々は ” こんぴらさん ” への参拝を夢見ていたそう。「お伊勢参り」と呼ばれる伊勢神宮への参拝と並び、こんぴらさん詣では庶民にとって一生に一度の憧れだったという。

 そして、当人に代わって旅慣れた人が代理で参拝する、代参という風習もあったようで。中には、飼い主の代わりに代参する犬も現れ、「こんぴら(いぬ)」と呼ばれていたとか。

 飼い主を記した木札、初穂料、道中の食費などを入れた袋を首から下げて、旅人から旅人へと連れられ、街道筋の人々に世話されながら、立派に代参の務めを果たしたとのこと。

 犬派の私としては、『 えらい! 』の一言しかありません。わが家の『のの』(二代目、チワワ、♀10才)では、絶対にまねできませんから(当然ですが … )

 

 お犬も偉いのですが、旅籠(はたご)や飯屋はまあ商売とは言え、袖触れ合う(そでふれあう)見ず知らずの旅人たちが協力して、誰かの果たせぬ一生に一度の参拝の願いを背負ったこんぴら狗に、代参の務めを果たさせようと努めたその当時の人々の心意気が、ほんとに素敵だなと思う。

 

 

 こんぴらさんへ登る参道わきには、道の両側に、沢山のみやげ物店やうどんなどの食事処が建ち並ぶ。

 それらの店を冷やかしながら、参道の急な階段を上がって行くと、大きな門が現れる。

 瓦葺の立派な総門、大門。ここから先は、もう神聖な境内となる。

 大門をくぐり、境内へと入る。

 

 大門を入って直ぐの参道わきに、大きな白い傘を立てた5軒の飴屋が並ぶ。『五人百姓(ごにんひゃくしょう)』。

 女性たちが飴を並べた小さな縁台わきに座り、名物の「加美代飴」を勧める。境内で唯一商売を許された特別な店であるとのこと。  

 

 

 参道から続く御本宮までの石組みの階段、785段。かなり急な上りの階段。時々、参道わきに居並ぶ灯篭や石柱沿いの緩やかな勾配に。だが、またすぐ急な勾配が続いていく。

 昼の猛暑を避け、お参りしようと登り始めた朝。しかし気温は既に30℃越え? 青い空を仰ぎ見ると、まだまだ暑くなる様子。ねっとりと湿気を含んだ空気が、肌にも服にもべたっとまつわり付いてくる。


 銅でできた「桜馬場西詰銅鳥居さくらのばばにしづめどうとりい」。

 立派な鳥居に、「しあわせさん、こんぴらさん」の文字が書かれた黄色い色の看板が掲げられている。

 周囲の木々の緑に、黄色地に黒色で書かれた文字が良く映える。黄色は、何かこんぴらさんの、由緒あるイメージカラーなのだろうか。

 


 785段目。御本宮に、やっと辿り着く。

 まだ早い時間だったが、大勢の参拝者たちが。

 御本殿に参拝して手を合わせ、深く拝礼する。階段登りでかいた汗まみれの身体に、清々しい気が満ちる。


 御札授与所前に並んで、御朱印と幸せの黄色いお守りを頂く。


 おみくじを引く。中吉。 … まぁ、良いか。

 枝に結ぶ。


 

 御本宮をお参りして、右手の展望台から眼下を望む。絶景の中に、香川の「讃岐富士」が遠くに、聳え立って見えていた。  


 

 まだ、奥社までは1,368段と、まだ500段以上もある。日頃運動不足の体は、既にぼろぼろ… ひざ腰、あっちこっちと痛みまくり。更には、朝方の涼しいうちにとの目論みで登ってきたものの、近年の異常気象には勝てもせず。身体を包み込むべとべととした熱気に、もう息も絶え絶えに。

 御札授与所前に設けられた休憩用テントの中。天井から噴霧されている細霧ミストの霧が、ほてった体に心地よい。暫し休憩。

 奥社は、またこんど … 。

 

 帰りの、下りの急な階段を降りていく。

 帰りの階段は、行きとは違う別ルートの階段を下る。足を踏みはずさぬよう、慎重に歩を進めてゆく。



 

 

 金刀比羅宮には、『崇徳天皇(すとくてんのう)』が合祀されている。

 

 時の権力争いに巻き込まれ、保元の乱を起こすも敗北し、保元元年(1156年)、讃岐に流された。死後、都に祟りを及ぼした悪霊として畏れられた崇徳天皇は、この場所に合祀される。


 崇徳天皇は、菅原道真公、平将門と共に、日本の三大怨霊ともされている。

 


 帰京を望みつつも、大乗経写経の納経の願いを「呪詛が込められているかも」と、時の朝廷に拒絶され、深い絶望の中に沈んだ崇徳帝の思い。

 この瞬間から、崇徳帝は()()への道を歩み始めたという。



 遠い京都(みやこ)への望郷の想いの中、若くして崩御された崇徳帝の深い悲しみと絶望が、今もなおさまよっているのだろうか、静寂なこの境内の中に …。


 

挿絵(By みてみん)

遠景の中の讃岐富士


(了)



 


 お読み頂き、ありがとうございました。


 銭形砂絵。寛永通宝の砂絵、良かったです。

 絶景の眼福に、お金に幸せまで。あり余るほどのご加護が … 全く、ありませんが、まだ … 。

 次は、夜間のライトアップの姿を見てみたいですね。 


 金刀比羅宮。さすがは、こんぴらさん。

 心が鎮まりました。でも、階段が … 次は奥社までトライしてみたいですね。

 特別な、お守りが頂けるとか。

 

 ぜひ、また訪れたいです。


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