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旅の紀行記怪談  作者: Eisei3


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6/10

紀行記怪談『阿波おどり・大山祇神社の大鎧』

 

 これは昨年の夏、私が愛媛県の大三島にある、大山祇神社を訪れた時のお話です。




 阿波おどり会館横のコインパーキングに車を入れ、会館に向かう。

 駐車料金は阿波おどり期間中の、上限なしの青天井価格設定だったけれど。


 一階の物産物コーナーで土産(みやげ)見繕い(みつくろい)、二階へ。

 二階には阿波おどりの衣装の展示と、演劇ホールがあった。入場料千円で安いと思って入ってみたけれど、踊りの実演が見られると思いしや、何かステージでのお客さんの踊り体験がメインだったような。すぐ出てきてしまったけど。

 

 徳島市の、阿波おどり会場。

 周辺の道路は通行規制が掛けられて、全て通行止めになっている。

 阿波おどり会館前からの、徳島駅まで続く道沿いに設けられた無料演舞場へ。


 車道の脇に設置された観覧席では、大勢の観客たちが、踊りが始まるのを今かと待ちわびている。


 ( … チャン、チャチャ チャンチャチャ、チャン … )


 遠くの方から、ガチャガチャとした鳴り物の音が響いてくる。


 昼の、()だるような熱気も冷めやらぬ晩夏の宵、軽快な鉦鼓(かね)の奏でる二拍子の賑やかな、どこかけたたましいリズムの()とともに、次第に周囲は阿波おどりの熱狂の渦に包み込まれていく。


 長竿の先に『(れん)』の名前を(しる)した提灯(ちょうちん)を先頭に、各『連』たちの華やかな踊りの隊列が続いていく。


 編笠(あみがさ)に揃いのゆかたに身を包む、きびきびとしながらも(つや)やかな女踊り。

 どこか(おど)けた雰囲気の、男踊り。腰に下げる印籠(いんろう)が揺れる。

 隊列の最後に続く、(せわ)しなく、ガチャガチャとしたリズムを奏で続ける鳴り物たち。

 整然としながらも、()()()()()()()した踊りの列は途切れることなく続く。



 つま先立つ下駄の、白い足袋(たび)のつま先。

 編笠の後ろから覗く、整えられた(うなじ)

 夕暮れの暗い夜空に伸びる、しなやかな両手の指先。揺れるすそよけの裾先(すそさき)

 踊る女性たちの幽美(ゆうび)な姿に、目も心も奪われる。


 「いいなぁ〜 …」

 スマホのレンズを踊る連の女性たちに向けながら、思わずそう呟く。


 好きな連は、『阿呆連(あほうれん)

 彼女たちの踊る『奴おどり(やっこおどり)』は、見事だった。次の動作に移る時の、一瞬の指先の動き(はね。)。しなやかな指さばき。


 

 盆踊りは、冥途の国(めいどのくに)から帰ってきた亡き人たちとともに踊る、おどり。

 今は亡き人々と、一緒に踊る。

 だが、互いの顔は見ない。見たとしても、そして気づいたとしても、互いに知らないふりをする。

 昔、そう何処(どこ)かで聞いたような気もする。


 阿波おどりも、盆踊りの一つ。

 盆の夜、黄泉の国(よみのくに)から戻って来た懐かしい顔たちも、今宵、踊る彼女らの傍らで、ともに一緒に踊っているのだろうか。



◇◆◇◆◇…



 広島の尾道から、しまなみ海道を愛媛に向かって走る。大山祇神社(おおやまずみじんじゃ)のある大三島(おおみしま)は、芸予諸島(げいよしょとう)の中でも最大の島で、その途中にあった。(いにしえ)からの歴史を刻む、神の島と呼ばれている。

 

 大山祇神社に向かう途中、海を臨む公園沿いにある道の駅に立ち寄る。時期はちょうど夏休み。広い駐車場も、たくさんの県外ナンバーで溢れかえっていた。何とか駐車場の端っこに車を停める。

 駐車場わきのしあわせの鐘には、鐘を鳴らす若いカップルたちが並び、海に臨む公園からは、島を渡る『多々羅大橋(たたらおおはし)』の白い橋げたが、青い海と空に眩しく()えて見えている。


 

 しばらく島の中心部に向かって走る。やがて周囲が開け、飲食店や商店が並ぶ街並みが現れる。

 そのとっつきに、(くすのき)の森の木々に囲まれた大山祇神社はあった。だが神社わきの、参拝者用駐車場は狭く、既に数台の車で満車だった。神社を通り越し、少し先の閉店中のドライブインの広い駐車場に車を停める。

 「ここは…。果たして、停めても良いのか?」一寸(ちよっと)思案し、周囲を伺い見る。周りには、やはりたくさんの県外ナンバーが停められている。

 「まぁ、いいいか…」私は車を降りると、神社に向かう。


 神社の入口には、大きな石造りの鳥居が構え立っていた。

 帽子をとり、一礼して参道を進む。


 両脇に仁王像が立つ楼門をくぐり過ぎると、石柱で四方を囲まれた大きな、それは大きな楠が四方にその太いコブだらけの枝を広げ、(そび)え立っている。それは(よわい)二千六百有余年あまりの年月を重ねた立派な大楠で、大山祇神社の御神木だった。

 石柱で周りを囲まれたこの御神木の周囲を、息を止めたまま三周回ることができれば、願い事が叶う(かなう)とのことだった。でも、とても息が続きそうもなかったからしなかったが。


 拝殿で参拝を済まし、お守りと御朱印を授かり奥の宝物館へと向かう。目的だった大鎧(おおよろい)はそこにあった。


 大山祇神社には、これまで重ねた歴史の中で、瀬戸内の武の要衝と祭神との位置づけから、多くの武将たちによって、それは沢山の刀剣や甲冑(かっちゅう)などの武具が奉納されてきた。だからこの宝物館には、国宝や重要文化財に指定された武具の内、実にその約8割が所蔵されているとのことで、別名、『国宝の島』とも言われている。


 宝物館には、大太刀(おおだち)太刀(たち)、そして多くの薙刀(なぎなた)長巻(ながまき)など、沢山の刀剣類が展示されていた。中には、弁慶(べんけい)の大薙刀も。

 


 甲冑類が展示される部屋に、それはあった。

 大鎧が、ガラスケースの中で黙って向かい合い、互いに、ただ静かに(たたづ)んでいる。


 国宝 『紫綾威鎧むらさきあやおどしよろい 』 大袖付 源氏の棟梁 源頼朝(みなもとのよりとも)奉納

  

 国宝 『 赤糸威鎧(あかいとおどしよろい) 』 大袖付 源義経(みなもとのよしつね)所用の鎧 別名「八艘飛びの鎧(はっそうとびのよろい)

  

 

 八百有余年の年月(としつき)を重ね、くすんだ茶色に変色し、今は落ち着いた色合いとなっているのだが、かつては、往時の武士の美意識を(まと)う晴れやかな紫や(あか)の色彩に(いろど)られ、満ちていたのか。

 武士(もののふ)の、常に(おのれ)の死を意識した(いさぎよ)さ。その美意識を体現する、死に装束(しにしょうぞく)としての大鎧が(かも)す危うい美しさ。


 『紫綾威鎧』と、『赤糸威鎧』。それぞれの鎧がガラスケースに入れられ、宝物館の展示室の中で相応の距離を置いて向かい合い、展示されていた。それは、互いに横並びでの展示ではなく、(あたか)も互いが対峙するかのように。

 

 それは、” ()()()()()()() ” だったのだろうか。

 まさか夜中に両者の鎧が動き出し、展示されている太刀を手に互いに打ち合うというのでもあるまいし。もはや既にその(あるじ)らも、とうの昔に、もう消え果ててしまっているのに。    

 「源頼朝」と、「源義経」。両者が ” 歴史の区切り ” として、この大山祇神社に奉納した二つのこの大鎧に、二人の魂など宿っているはずもないというのに。




 訪問した時は知らなかったのだが、神社の拝殿の建物を少し上った所に、『奥の院(おくのいん)』があり、その参道に中をくぐって通ることのできる大きな楠があるとのことだった。その楠は『生樹の御門(いききのごもん)』と呼ばれ、樹齢約3千年あまりの老楠の大木だそうである。

 東野圭吾の『クスノキの番人』の、楠の大木が(かも)す世界観に魅かれ、大楠に興味を持つ私は、是非(ぜひ)そこをくぐってみたいと思う。

 そして何より、この大山祇神社は三年続けてお参りをすると、願いが叶うとのことでもあった。

 

 だが、今夏(こんか)のお盆は諸事情が重なり、結局、旅に行くことは(かな)わなかったのだが。

 来年の夏は、ぜひまた訪れてみたいと思う。


 大した願いも、今の私にはもう無いのだけれど …。


 (了)





 

 お読みいただき、ありがとうございました。

 昨年のお盆、近畿から中国、四国へと旅したうち、『阿波おどり』に触れつつ、『大山祇神社』について書いてみました。

 青い空と碧い海。車窓を全開に、潮風を感じながら瀬戸内沿いを走る、実に爽快でした。

 来夏こそ、また訪れたいと思っています。

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