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旅の紀行記怪談  作者: Eisei3


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10/10

紀行記怪談『厳島神社・錦帯橋』

 これは、広島県の厳島神社を訪れた時のお話です。

 先に、山口県の錦帯橋を訪れた話を書いてあります。

 やはり数年前のお盆の時期で、まだ、厳島神社の大鳥居の改修工事が行われている時期のことでした。



 国道二号線を、広島県との県境を越え、山口県岩国市へと入る。

 国道を右折して、ずっと、川沿いの道を辿っていく。

 

 道が開けた先に、『錦帯橋(きんたいきょう)』はあった。

 

 橋の袂を降り、川原の敷地に車を乗り入れる。小石だらけの川原に広がる駐車場に沢山の県外ナンバーの車が停まり、駐車場から橋までの間には飲食の茶店が建っている。

 観光客を呼び込むのぼり旗の横に並ぶテーブルでは、大勢の客たちが話しに興じていた。折りしも、丁度、お盆の時期。多分、都会から帰省した観光客らで混み合っているのだろうか。

 

 橋の入口わきの商店通りを歩く。少し入った所に建つ(いにしえ)の酒屋さん(観光交流所)で、錦帯橋の「御橋印(ごきょういん)」を頂く。

 寺社の御朱印や、お城の御城印だけでなく、()()()。最近、こういうのが増えているのか。つい、頂いてしまうけれど … 。



 日本三名橋の一つ、錦帯橋が、錦川の広い川をまたぎ渡っている。


 その長さ、約193mの木造橋。およそ35m間隔で円錐状に積まれた白く高い石垣の上を、五連のアーチ橋が連なる。

 その、アーチの最高部から川面までの高さは、約13mとのこと。 


 橋の袂の料金所を抜け、錦帯橋へと足を踏み入れる。

 板を横に敷き詰めた橋桁が、目の前に高く盛り上がり、アーチを描きながら向こうへと、ずっと続く。

 


 青空へと向かって()り上がる橋桁のアーチの向こうに、濃い緑の木々が茂る山並みが連なる。

 眼下に広がる白い石畳の中の川面には、広い川原を流れる淡く澄んだ水の流れが、晩夏の渇水にも淀むことなく(あお)く流れる。


 正面に見える、小高い山の緑に茂る木々の間に、小さく、石垣の上に白い三層のお城の姿が佇んでいた。それは、城山の山頂に立つ『岩国城』だった。 

 錦帯橋との景観を考慮して、城山の今立つ場所に移築・再建されたとも聞くが、果たしてどうだったのだろうか。

 橋を歩きながら望む城山の緑の木々と、お城の白い壁と塀とのコントラストは景色に(はえ)て、中々素敵だと思うけど。


 

 階段状に木の板が張られた橋の上を、大勢の観光客たちが思い思いに歩き、行き交う。 

 

 橋の頂上からは、眼下に光る青い川面に、日射しを銀鱗に煌めかせ泳ぐ鮎の姿が見えた。そして橋脚下(きょうきゃくした)の影の中には、編み笠を頭に、ジッと竿先を流す一人の釣り人の姿があった。


 茹だるような陽光の中、アーチの間の上り坂は、中々、普段の運動不足の身には応える。が、時おり川面から吹き上げてくる風は、一抹の(りょう)を汗ばむ肌に運んでくれる。

 

 

 日傘を手にした若い女性たちが、太鼓橋状のアーチの坂を、晩夏の強い日差しを受けながら傘の作る影の中を歩いてゆく。

 その傘が()()()()()の中、欄干の木組みの陰に巣食い(うごめく)くこの世ならぬモノたちも、歩く女性たちの背後を窺っているのだろうか。

 この晴れ渡った明るい陽の光の中、憑く(とき)を見計いながら。

 

 錦帯橋には、やはり心霊スポットとしての一面もあった。


 かつて、橋の近隣にあった処刑場跡。そして橋の建設時、立派な石積の橋脚のいずれにか、埋められたという人柱の怨念とか … 。


 『 ぅをぉ~ぃ …  ぅぉおぉぉ~ぃ … 』

 『 ぅぉぉぉ~ぃぃ たすけてぇ~ … … だれぇ か~ … 』

 

 橋を渡る身に、夜ごと遠くで誰かが呼び掛けてくる、何かを訴えるような苦しみの声。

 

 処刑場にうち捨てられた胴体が、今も首を探しさまよい上げるうめきの声か。それとも橋の欄干の陰に染み付いた、(はりつけ)に胴を貫かれた魂が上げた、断末魔の苦悶の叫びの声か。

 果たして、橋脚の白い石積の中に塗り込められる、人柱の髑髏(しゃれこうべ)が夜ごと上げる恨みの声なのか。

 

 夜闇(よやみ)の中、写真に写り込む不自然な人影。夜闇(よいん)の陰の中から、突然背後に迫る足音と、背中にまとわり付く、ぞわつくような冷気の影 …  今も、この橋を取り巻く異様として語られる、これらの怪異。


 やはりこの橋も、昼と夜の狭間(逢魔が時)は、この世とあの世を繋ぐ入口となるのかもしれない。

 この世にある多くの橋が、そうであるように。


 

 明日の盆の送り火の夜、黄泉の国(よみのくに)から帰った懐かしい顔たちもまた、この橋を渡りあの世へと帰っていくのだろうか。




挿絵(By みてみん)

( 錦帯橋 と 岩国城 )




◇◆◇◆◇…




 『まもなく、目的地周辺です』

 ナビが、そう告げる。


 世界文化遺産 『厳島神社(いつくしまじんじゃ)』。


 広島市を過ぎ、国道二号線をたどり入った廿日市市。

 空は真夏の青空が広がり、辺り一面眩い日射しに包まれた午後のことだった。


 道の両脇に、沢山の駐車場入り口を案内する看板が置かれた通りを進む。

 お盆料金に吊り上がった駐車料金を払い、フェリー乗り場へと向かう。


 乗り場は人で溢れかえっていた。

 フェリーに揺られ、約10分。船は静かに、宮島の船着き場へと泊まる。


 フェリーを降り、人の流れに乗って歩く。

 御笠浜を回り込むと、大鳥居が見えた。大鳥居は令和の大改修工事の最中で、シートに覆われた中に薄らと、鳥居の朱色の(あかい)姿が透けて見えている。



 朱色(あか)が鮮やかな社殿。

 朱色の柱と天井の梁が支える長い廊下の板敷と、厳かな社殿の建物が続いてゆく。

 

 鮮やかな朱の色彩と、床板の茶、屋根に()かれた檜皮(ひわだ)の軒の黒色とのコントラストが、強く、網膜の奥に刺さる。

 廊下の所々からは、神殿を囲む浜の海が見える。海からは、強い潮の香りが風に乗って漂う。


 社殿は、ただただ、とても厳かな雰囲気に包まれていた。

 「()の島 … 」 そう感じた。


 おみくじを引く。

 1番。『吉凶未分きっきょういまだわからず

 「うーん … 中々に、微妙、か … 。」 一応、持ち帰る。



 参拝を終え、焼きガキを食べながら周辺を歩く。

 強い日差しの中、鹿たちが、川に架かる橋の下の日陰で休んでいる。

 朱色の五重塔に、豊国神社の千畳閣の大きな建物。

 塔脇にある階段の坂を下りながら、五重塔を見上げて写真を撮る。中々のアングルで、塔が青空に映えている。

 坂下の食堂で食べた名物のあなごめしは、とても美味しかった。でも、少し … かなりタレが甘いような。



 厳島神社近くの、宝物館を訪れる。

 宝物館には、数多の(きら)びやかな刀剣や鎧などの宝物が展示されていた。

 中でも、平清盛が、平家一族の繁栄を祈願して、厳島神社に奉納した装飾経である『平家納経』の華やかさは、平安貴族の趣味やその当時の感覚を良く伝えてくれる。

 展示されているのは複製だったが。充分に、その雰囲気は感じさせてくれた。


 「大潮で波が満ちた時に、また、ここを訪れるといいよ。」

 「そうすれば … その時、どうして清盛が、()()()お社を建てたかが解るから… 。」 

 そう、宝物館を案内してくれたガイドの人は言った。


 ( 大潮の波が満ちた時 … )

 

 私が厳島神社を訪れた今日、潮は全くの干潮の時間だった。

 海の波が、浜に立つ社殿の橋脚に打ち寄せ洗うどころか、神殿の床下からは、浜の沖合に立つ鳥居の方へと向かって引く潮が、まるで川の流れのように見えていた。

 各社殿が建つ敷地の間には、浜の砂の上にあちらこちらと潮だまりが、池の様に残り見えていただけだった。

 だから今の厳島神社は、()()()()()()()()()に見えた。海に浮かぶ … のではなく。


 全て、私の無計画な性分が招いた、旅の結果だったのだが。




 あれから、まだ、私は厳島神社を再訪できてはいない。

 だから、あのガイドさんがあの時、私に言った()()()()()は、まだ私は確かめられずにいる。

 約850年前に、平清盛がこの場所に厳島神社を建てた、『()()()意味』を…。


 次に訪れる時は、満潮の潮の満ちる時間を確かめて、確実に海に浮かぶ社の姿を眼にしたいと思う。



 宮島は、太古から神の島と呼ばれる。 

 厳島神社を訪れると人生が変わるとも、人生の転機を迎える人は、神社に招き呼ばれるとも言われている。

 

 だから、また、ここを訪れるつもりでいる。

 私もまだ、残りの自分の人生を、何とか変えてみたいと思っているから… 。




挿絵(By みてみん)

(神殿内からの、改修中の鳥居遠景)


(了)


 


 お読み頂き、ありがとうございました。


 錦帯橋良かったです。

 世界遺産、神の住まう島 厳島神社。やはり最高です。鳥居が改修工事中だったのが、少し残念でしたが。


 海に浮かぶ朱の神殿。大潮の日、海の波が、神殿の渡り廊下の板敷を洗う様を見てみたいです。

 ぜひ、また訪れたいです。

 



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