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俺のかわいい妹がハッピーエンドをお望みだ~勇者志望の妹のため、兄は全力で裏方に徹する!なお、周囲の被害は気にしない~  作者: 結丸


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2-1 めあて まものを退治しよう

 

 大騒動の勇者召喚(しょうかん)の翌日。

 イェルは兵士と共にグラース王城の別館を歩いていた。

 イェルが城内を歩く時はいつも兵士が同行している。護衛という名目だが、要は見張りだ。

 教会の人間が城内をかぎ回るのではないかと警戒されているのだろう。

 とはいえイェルもその程度のことは予想していたので、特に気にしていなかった。


「神官イェル様、昨日は勇者召喚という大業たいぎょう、大変お疲れ様でした」

「……ええ、ありがとうございます」


 ほんとーうに、色々な意味で大変お疲れだった。

 葉太郎の乱入、葉太郎の大暴れ、葉太郎の説得。しまいには「LEDライトにしてやるうう」とあの男に追いかけられる悪夢まで見た。おかげで目の下にはくっきりクマができている。

 もう教会に帰りたい、正直そんな気持ちもある。でもそうはいかない。

 イェルには神官として、召喚した勇者の監督かんとく責任があるのだから。

 別館の2階、来賓らいひん用の宿泊施設にたどり着いた。


「お2人とも、失礼します」


 中に入ると、椅子に腰かけていた少女と目があった。

 イェルが召喚した勇者、もとい勇者になるはずだった少女、ひまりだ。

 彼女はイェルを見てぱっと顔を明るくし、嬉しそうにこちらへ向かってきた。


「イェルさん。おはようございます」


 王宮に招かれたひまりはグラース国の洋服を着ていた。

 ふわりとふくらんだ袖と、すずらんのつぼみのように丸まった白のスカートが、彼女の柔らかな雰囲気によく似合っている。


「あらためてよろしくお願いします。私は勇者初心者なので、色々教えてくださいね」

(……い、いい子……!)


 礼儀正しいひまりの様子に、イェルは心の中でブワッと涙を流した。

 とても「あれ」が兄とは思えない。

 イェルは膝をついて目線を合わせ、優しく微笑んだ。


「もちろんです。こちらこそよろしくお願いしますね、ヒマリ」


 握手を求め手を差し出したところ、ひまりが誰かに引っ張られて後ろに下がった。

 その誰かとは、もちろん葉太郎である。

 彼もひまりと同じく、グラース国の衣装を身につけている。

 黒を基調とした衣服に、銀の軽鎧。肩当てにはグラース国の紋章である蔦をモチーフにした模様が刻まれている。様になっているのがなんだか腹立たしい。

 葉太郎はじろりとイェルを睨む。


「昨日は一応了承したが、俺はまだお前達を信用したわけではないからな、LED」

「イ ェ ル です!」


 ひまりが兄の前に立ち、「めっ」と叱った。


「お兄ちゃん、人の名前をそんなふうにからかったら駄目だよ。お兄ちゃんだって、自分の名前をちゃんと呼ばれなかったから悲しいでしょ?」

「うん、そうだな、悲しい。今のはお兄ちゃんが悪かった。ごめんなさい」

「絶対! 絶対思ってないですよ、この男っ」


 なぜなら葉太郎の顔には「ひまり以外の人間にどう思われても別に……」と書かれていた。そりゃあもう、ありありと書かれていた。


「ひまりが言うなら仕方がない、一時休戦だ、イェル」

「うふふふふ、あなたが勝手にふっかけてこなけりゃ終わる喧嘩なんですよ、ヨータロー?」


 ばちばちと火花を散らす2人。無言の戦いが繰り広げられる部屋の扉が再び開かれた。

 やってきたのはヒイラギ騎士団副団長、フィーロである。


「ここにいたのか。急いでくれ、王が玉座で待っている」


 彼は一種即発な空気をものともせず割り込んだ。

 葉太郎とイェルは無言で睨みあいながら歩き出す。ある意味息が合っているのかもしれない。


「騎士団のお兄さん。昨日はちゃんとご挨拶できていなかったですね。私、幸上ひまりです。よろしくお願いします」

「ああ。俺はフィーロだ。よろしく頼む、勇者様」

「ひまりでいいですよ」

「うん、ではヒマリ」


 にらみ合う2人に対して、フィーロとひまりの間でのほほんとした空気が流れる。

 別館の2階から渡り廊下を進み、螺旋らせん階段を降りる。外の美しい庭園を見ながら、そのまま1階に降りて大広間へ。

 大広間の奥では兵士達がつたを模した金の装飾扉を守っており、勇者の姿を確認すると一礼して扉を開けた。


 そこはグラース王城、謁見えっけんの間。

 一糸乱れぬ隊列で並んだ兵士たち。昨日葉太郎が吹っ飛ばした面々の姿もある。

 オパールグリーンのびろうどの先にはシンプルな玉座。

 そこに君臨くんりんするは、小さな王様アイヴィー・グラース。

 10歳の少女は荘厳な場の雰囲気に呑まれることなく、凛と声を放つ。


「よく来たな、勇者たち。私こそがグラース国の王、アイヴィー・グラースだ」


 前へ、と命令され、葉太郎とひまりはびろうどの上を進む。

 ひまりは幼稚園の卒業式に歩いた赤い絨毯を思い出した。今踏んでいるオパールグリーンのびろうどは、それよりもずっと高級そうだ。ひまりは背筋をめいっぱいに伸ばして、ぎくしゃくと歩いて行った。

 葉太郎はそんなひまりを見ながら「録画しておきたいなあ」と参観日の保護者のようなことを考えていた。


 2人は王から数歩離れた位置で立ち止まる。

 アイヴィーは短い眉を吊り上げて緑の瞳を細め、葉太郎たちを見下ろした。

「昨日の貴様の乱闘らんとうは、召喚されたばかりで混乱していたということで特別に許してやる。その分、今後はしっかりと勇者の責務を果たすように」

「ひゃ、ひゃいっ」


 緊張のあまり舌を噛んでしまったひまりは、ちょっと恥ずかしそうに頬を触った。

 暴れた当の本人はどこ吹く風である。


「さっそくだが、まずはお前たちの力を試させてもらおう。昨日お前たちが召喚されたラタの森。そこにいるグレートレントという魔物を倒してこい」


 腕試しにと課せられる勇者の試練。ファンタジーの王道展開だ。ひまりはわくわくと胸を高鳴らせた。


「青の宰相さいしょう、魔物の説明を」


 後ろに控えていた青の宰相が前に出て、分厚い本を取り出した。

 魔物の情報やステータスを知っておくことは戦闘の基本だ。ひまりは真剣に耳を傾ける。


「グレートレントは、ラタの森に生息する魔物です。強いですが数は少なく、年に1~2体存在が確認されています」

「はいっ」

「植物科に属し、現在5種類の亜種あしゅが確認されています」

「あ、あしゅ?」

「上半身の葉に毒が仕込まれており、この葉を飛ばして獲物を弱らせます」

「ええと、毒で相手を弱らせるタイプってことですね」

「そうですね、強力な出血毒ですので、回復より回避に専念されたほうがよいかと」

「しゅっけつどくだからかいふくよりかいひ。ええと、ええと……」


 ひまりの目がぐるぐると回る。頭からぷしゅうと湯気が出始めた。


「昼は直径2メートル前後の切り株の形態で、夜になると」

「──そこまでだ」


 突如葉太郎が口を挟んだ。

 一旦本から顔を上げる青の宰相に、葉太郎がくわっと牙を剥いた。


「専 門 用 語 がっ! 多すぎるっ!」


 びりびりと響き渡る怒号。葉太郎は青の宰相から本をぶん取った。


「それが今からなんのゆかりもない貴様らのために健気に戦う10歳に対する説明かっ! 分かりやすく楽しく覚えやすくっ。かつ魔物の危険性を正しく理解できるようにすべきだろう!」


 葉太郎はぱぱぱん! と手を打った。


「俺が手本を見せてやる、でかい紙と板を持ってこい!」


 かくて、王様よりも偉そうな勇者による初めての魔物退治〜事前準備編〜が始まった。

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