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俺のかわいい妹がハッピーエンドをお望みだ~勇者志望の妹のため、兄は全力で裏方に徹する!なお、周囲の被害は気にしない~  作者: 結丸


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1-4

 ひまりがぱちぱちと瞬きをしながら、ゆっくりと目を覚ました。


「っ! ひまりっ!!」


 葉太郎はコンマ1秒で殺戮さつりくマシーンの顔から兄の表情に戻り、ひまりに駆け寄った。

 あまりの切り替えの早さに、兵士たちも付いていけなかった。


「大丈夫か!? どこか痛いところはないか?」

「うん。……あれえ? ここって……」


 そこでひまりも、周囲の違和感に気づいたらしい。

 あたり一面に広がる森。ゲームに出てきそうな兵士達(なぜか木の上に引っかかったり茂みに突っ込んだりしている)。

 ひまりは不思議そうにあたりを見回し「はっ!」とした。


「も、もしかしてこれは……! 本でよく見る異世界てんせー!?」

「妹よ?」


 夢と希望にあふれる10歳は、成人男性よりさらに順応が早かった。

 ちなみにこの場合は異世界転生ではなく異世界転移が正解である。

 ひまりはきらきらと目を輝かせて手を握った。


「お兄ちゃん。私たち異世界に飛ばされちゃったんだよ!」

「い、異世界?」

「うん!」


 あまりにも突拍子もない子どもの発言。普通なら、何を馬鹿なと呆れるところだ。


「そうか、異世界か!」


 だがしかし幸田 葉太郎、妹を全肯定するスタイルで生きている。

 ひまりが異世界だと言うならば、ここは異世界、間違いない。

 ひまりは寝台からぴょんと降りると、地面に座り込んで茫然ぼうぜんとしているイェルに近づいた。


「お姉さんが私たちをこの世界に連れてきたんですか?」

「そ、その通りです。よく分かりましたね」

「本で読みました。勇者を召喚するのは、大体神官やお姫様が多いんですよ」


 ひまりがえっへん、と胸を張った。プテラノドンタオルの頭も得意げに傾く。

 そして再びはっとして、頬を紅潮こうちょうさせながら自分を指さした。


「あ! と、いうことは……。もしかして私が、選ばれた勇者ですか!?」

「あっえっ」


 期待いっぱいのひまりの言葉に、イェルが小さく戸惑いの声をもらした。それに気が付かず、ひまりはぱたぱたと足を鳴らす。


「えへへ、嬉しい!憧れてたんだ、勇者!」

「ええと、そのう。多分最初はそうだったんですが、その」


 イェルが視線を泳がせながら、もごもごと(つぶや)く。

 その視線は葉太郎の右腕へ。視線に気づいた葉太郎が自分の腕を見た。するとどうだろう、そこには、見覚えのない金の輪っかが付いている。

 葉太郎はしばし考える。言いよどむ女神官。謎の腕輪。さっきの「最初はそうだった」という気になる発言。そして光の海での出来事。

 ああなるほど、と葉太郎は納得した。

 おそらく当初の予定では、この誘拐犯達はひまりを勇者としてこの世界に連れてくるはずだったのだ。

 だがそこへ葉太郎が乱入した。そしてやたらと光るこの腕輪が、葉太郎の腕についている。

 それが意味するところは、つまり。


(勇者は俺なのか)


 足をぱたつかせていたひまりが、女神官の戸惑った様子に気づく。

 へにょりと眉を下げて、力なく尋ねた。


「……ち、違いました? 私、勇者じゃないのかな……?」


 ひまりの悲しそうな声を聞いた葉太郎の行動は早かった。

 右腕についた金の輪を掴み、ふんっと力を入れて「ぽきっ」と折る。

 二つ折りのアイスを半分こするくらいのノリで、軽快に。


「折っ……」

「お?」


 その蛮行ばんこうを目撃したイェルが絶句した。

 葉太郎が背後にいるため、何が起きたか分かっていないひまりは首をこてんと傾げる。

 葉太郎はそのまま金の輪っかの半分をポケットにねじ込んだ。

 残り半分を素早く両手のひらでこねて伸ばしていく。この腕輪、意外と柔らかい材質のようだ。


「伸っ……」

「の?」


 ひまりがふたたび、首をこてんとした。

 伸ばされた金の棒は、ワイヤーのように細くなった。それを左手の人差し指に巻き付けくるくると巻く。指を引き抜くと、いくつも円を描いた細いワイヤーが残った。

 それを少しいじるとあら不思議、五枚の花びらのお花のできあがり。

 即席のワイヤーフラワーである。

 葉太郎はその花飾り(元:金の腕輪)をひまりの頭にそっと飾った。


「おや、ひまり。頭に何かついているぞ?」

「え? ……わっ。ほんとだ、かわいい!」

「きっとそれが勇者の証だ。すごいな、ひまりは勇者だったんだ、お兄ちゃんびっくりだ」


 神官もびっくりである。


「ちょちょちょっと、あなた! こっちに来なさい!」

「ああん!? お前らみたいな得体の知れないやつらとひまりを一緒にできるか!」

「いいから来なさい馬鹿たれー!」


 鬼の形相をしたイェルと、ひまりから離れない葉太郎はぎゃあぎゃあと騒ぐ。


「……な、なんなんだ、こいつら……」


 そしてすっかり存在を忘れられていた王様が、目の前の光景を見ながら茫然ぼうぜんと呟いたのだった。

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