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俺のかわいい妹がハッピーエンドをお望みだ~勇者志望の妹のため、兄は全力で裏方に徹する!なお、周囲の被害は気にしない~  作者: 結丸


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1-3

 さて。

 ラタの森で勇者が追加で召喚しょうかんされたその頃。

 グラース国のかなめであるグラース城で、1人の宰相さいしょうが落ち着きなくうろつき回っていた。

 目につくのは、肩に巻いた鮮やかな青の布。顔に刻まれたたくさんのシワは、長く生きてたくさん経験を詰んだ証だ。

 銀縁ぎんぶち眼鏡の奥の目が、知的な光を宿している。


「青の宰相サマ、少しは落ち着いたらどうです? まーだ徘徊はいかいするお年じゃないでしょ」


 飛んできた軽口の主を、青の宰相はぎろりと睨む。

 睨んだ先には40代ほどのガタイのいい男と、老人が1人。こちらの老人は、肩に赤い布をまとっている。

 ガタイのいい男の軽口に、赤い布を身につけた老人がのんびりと笑う。


「仕方ありませんよ、騎士団長きしだんちょう。私も彼も、もう56ですよお? 私なんて最近、もの忘れが激しくて。昨日のご飯も忘れましたね」

「さすがに早くね?」


 騎士団長──、ヒイラギ騎士団の団長は「あーあ」と腕を頭の後ろで組んだ。


「しっかりしてくださいよ。あのガキ……、じゃねえや、王様はまだ若いんだから、お二人にグラース国をまとめてもらわんと」

「……その王が、我々を遠ざけているんですけどね」


 青の宰相がだんだんと片足を鳴らす。


「召喚の儀に私たちを城に置いておくとは。まったく、宰相を一体なんだと思っているんです」

「一応王様なりに考えたんでしょう。勇者召喚は成功するまで、城の一部の者にしか知らせないようにしています。『城の要人が全員出払ったら、事情を知らない者たちが不審ふしんに思うかも知れないから』っておっしゃってましたしい」

「ええ、ええ。『宰相も騎士団長も誰もいないときに、城で万一があったら困る』とも言って譲りませんでしたね。その『万一』が王に起きた時のほうが一番困るんですけどね!」


 ヒートアップする青の宰相。その激しさは爆発魔法の音に驚いて暴れる馬に似ていた。騎士団長と赤の宰相が「どうどう」となだめる。


「王にはしこたま防御魔術(まじゅつ)が重ねがけしてありますし。いざとなったらすぐ駆けつけられるように、俺に高速移動の魔術もかかってますから」

「そうそう、そんなに怒ると血管切れますよお」


 騎士団長が窓の外を指差した。その先には、深い緑におおわれたラタの森がある。


「ここにいれば、問題が起きた時にすぐに合図の光が見えますよ。危険が赤で、なんかよく分からんことが起きたらとりあえず緑です」


 騎士団長がそう言った瞬間。

 森を突き抜けて空にぱぁんと緑の光が上がる。


「「「…………」」」


 一同沈黙。

 さらにぱんぱぱんぽぽぽぽーんと緑の光がやけくそ気味に上がる。

 おそらくラタの森で、なんだかものすごく訳が分からないことが起きている。


「……騎士団長、行ってきまーす」

「ああっ、もう! だから不安だったんだ!」


 青の宰相の怒号を合図に、窓から騎士団長が飛び出した。



 □□□□



 さて。場所は戻ってラタの森。

 葉太郎はさっきまでアスファルトで補整された道路を歩いていた。

 それが突然光の海に投げ出され、現在は大自然の真っ只中。

 さらに周囲にはRPGにいそうな兵士やら、虫にさされそうな恰好をした女神官もいる。

 一体何がどうなっているのやら。普通の人間なら混乱のあまり思考停止するところだろう。

 だがしかし。葉太郎は妹が絡むと、平常の120倍の適応力を発揮する。

 ここがコンクリートジャングルだろうと、本物のジャングルだろうと関係ない。

 相手はかわいい(×10)ひまりをさらおうとした。イコール葉太郎の敵、イコールぶっ飛ばす!

 シンプルイズベストな回答と共に、葉太郎は近くにいた兵士に渾身こんしんのタックルをかました。


「ぼっ!」

「ぐうえっ!」


 兵士がよろいをへこませて、周囲の兵士を巻き込みながら吹っ飛んでいく。

 想像より敵が吹っ飛んだことに多少驚いた。まるで自分の力が10倍も20倍も強くなっているようだ。


「ま、待ちなさい! 話を聞いて!」


 イェルが声を上げるが、頭に血が上っている葉太郎には届かない。

 そんな彼女の横を、一迅いちじんの影が通り過ぎていく。副団長のフィーロだ。


「合図!」


 鋭く一言だけそう告げて、フィーロが剣を抜く。

 抜き放った剣を手首で回転させると、ヒュッと風を切る音がする。そのまま速度を緩めることなく、葉太郎の喉元を狙って剣の切っ先を繰り出した。


「うぉらあっ!」

「!」


 葉太郎は先ほど吹っ飛ばした兵の剣を拾ってフィーロの剣を弾いた。

 フィーロはわずかに目を見開いた。葉太郎の動きは、剣術などまったく分かっていない素人の動きだ。しかし腕力だけで自分の剣を弾いた。先ほどは鎧兵も吹っ飛ばしていた。


(なんという膂力りょりょく。未開の地に住んでいる山賊みたいだ)


 そのままフィーロにタックルをきめようとした葉太郎。だが、体に横殴りの衝撃を受けて地面を転がった。


「副団長! ご無事ですか!」

「相手に近づくな! 距離を取って魔術を打ち込むぞ!」


 兵士達が魔術を展開し、フィーロの援護えんごを始めた。

 フィーロが片手で剣を構えて深呼吸する。


(合図となる緑の光は打った。団長が来るまでおよそ30秒。俺たちのすべきは、それまで王を死守することだ)


 とはいえ、相手を殺すわけにもいかない。曲がりなりにも召喚された勇者なのだから。

 追撃しようとする彼らを前に、イェルが一歩前に出て叫ぶ。


「皆さん、やめてください! 勇者たちは召喚されたばかりで混乱しています。どうか落ち着いて!」


 兵士たちの間にわずかに迷いが生まれた。

 むくりと葉太郎が起き上がる。


「……貴様ら」


 魔術による攻撃をものともしていない。驚異きょうい的な頑丈さに、兵士達が一歩後ずさった。

 葉太郎は自分の腹部をさすり「かっ!」と目を見開いた。


「こんな空気砲……、もしひまりに当たったら転んじゃうだろうがああああっっ!!」


 怒号どごう一発。

 葉太郎を中心とした全方位から、風の砲弾が発射された。


「なっ……」「え!?」「びゃーっ!」「ぎゃおーっ!」「うわあああ」


 フィーロが、イェルが目を見開き、兵士たちが悲鳴と共に飛んでいく。

 フィーロもとっさに防御の構えをとったものの、衝撃を殺しきれず後ろの木に体を打ち付けた。

 彼らが弱いわけではない。葉太郎が魔術を使えるという発想がなかったのだ。


(理の違う世界であれば、空気中の魔素も違うはず。それなのに、いきなりあんな強力な魔術を使いこなした……!?)


 唖然あぜんとしたイェルの長い髪を、魔術が生んだ風が揺らす。その衝撃で髪飾りが舞い上がり、くるくると回転して葉太郎の足元に突き刺さった。

 信じられない剛力ごうりきに、王兵を圧倒する魔術の才能。

 異なる世界からやってきた男に、その場の皆が戦慄せんりつする。


(これが、勇者──!)


 皆が圧倒される中、葉太郎は彼らを吹っ飛ばそうと容赦なく地面を蹴った。

 そのときだ。


「ううん……? おにい、ちゃん?」

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