4-2
それから3時間後。
イェルは街外れの武器屋兼防具屋の前に座り込んでいた。
その隣には、腕を組んで壁に肩を預けるフィーロもいる。
葉太郎は街についてすぐに鉱石を換金した。そのままあっちこっちの防具屋に飛び込み、3店舗目の店にひまりと一緒に入ったところで出てこなくなった。
いったい何をしようとしているのか聞く暇もなかった。
「なにをする気なんでしょうか、あの男」
「さっぱりだ。換金した金も、あれでは精々普通の服を数枚買うのがせいぜいだろうし」
2人はそろって「はあ」とため息をついた。
「そういえばイェル。教会にはすでにギフテッドのことを報告したのか?」
イェルはぎくりと身を強張らせた。
本来なら余すところなく真実を報告しなければならないのに、イェルは教会に隠している。葉太郎が教会に危険視され、ひまりと引き離されないために。
もしや、グラース国はそんなイェルの内情を知って、カマをかけてきているのだろうか。
イェルはフィーロを見上げた。彼は相変わらずの無表情で、全然考えが掴めない。
なんと答えるのが正解か。イェルが必死に思考をめぐらせていたそのときだ。
防具屋の扉が「ズバアン」と開き。
「待たせたな!!」
紫に輝くサンバの衣装をまとった葉太郎が現れた。
思考がすべて吹っ飛んだ。
「な、な‥‥、何してるんですかあんたは!?」
上半身はほぼ半裸、ギンギラギンに輝く紫の羽が、背中でファッサアと豪快に揺れる。
「どうだ!」
「どう、と言われても……。なぜ防具屋から出てきて、さらに防御力が下がっているんだ」
フィーロの真っ当なつっこみに、葉太郎が得意げに胸を張る。頭につけたでっかい羽飾りがブァサッと揺れた。
「派手だろう。宴会用の衣装だから暗闇でも目立つ」
「防具ですら無いじゃないですか」
孔雀男の後ろから、ひまりがぴょこんと顔を出した。
ひまりもワンピースに着替えていた。光る鉱石の粉末を散らした生地がきらきらと光っている。頭には兄とお揃いの羽飾り付きだ。プテラノドンタオルの首にも羽飾りのチョーカーが巻かれていた。
ワンピースの裾をつまんで小首を傾げる。
「えへへ。似合うかな?」
「ひ、ヒマリはかわいい。かわいいですが」
こちらはかわいいで済むが、兄の方は完全にアウトである。
一体どうしてそんなことに。2人の視線をものともせずに、葉太郎が解説する。
「あの洞窟の問題点は、やたらと怖い『雰囲気』だ。ならばそれを楽しいものに書き換えればいい。お化けだらけの真っ暗洞窟も、光を散らして踊りながら進めば、楽しいダンスホールに早変わりだ」
現代において、暗闇はおどろおどろしいお化け屋敷にも、ロマンチックなプラネタリウムにもなる。大切なのは暗闇におけるその他の演出だ。
葉太郎はビシッとポーズを決めた。
「俺たちはっ、皆で楽しく歌い踊りながら最奥部へ向かう!」
「え」
洞窟内をこの格好の勇者と練り歩くの?
そもそも、街から出るまでこの男と一緒に歩くの?
「い、いやだーーっっ!!」
イェルは心の底から叫んだ。
「諦めろ、もうお前達に残された選択肢は、楽器を鳴らしてBGM係になるか、俺と踊り狂うかの2つしかないっ!」
「フ、フィーロ副団長、なんとか言ってください!」
「俺はリズム感にはそこそこ自信があるので、楽器係になろうと思う」
「私を置いて受け入れないでえ!」
イェルに迫るサンバ衣装or楽器係。
地獄の2択にイェルは半泣きで叫んだのだった。
□□□
そして再びウィルドン山。
洞穴の中では、ゴーストたちが彷徨っていた。
彼らには理性はない。あるのは生者への執着のみ。
洞窟の中をさまよう彼らの前に、新たな生者の気配が現れた。
(タマシイヲ)
(タマシイヲ)
ゴースト達はくすくすと笑いながら、正者を脅かそうと壁から這い出ようとする。
そして、目撃した。
「なっにっも〜〜、怖くは〜ないさ〜!」
「ないさ〜!」
シャンシャンシャンシャン。
洞窟の中で踊り狂う成人男性を。
背中の羽をわさわさと揺らす様は、孔雀の求愛行動のごとく。無駄に良い声が洞窟内にわんわん反響した。
さらに灯りの魔術で照らされた羽が、男が腰を振り回すたびわっさわっさと光って洞窟を照らす。照らしまくる。
「君がいれば〜、ぼっくは無敵〜〜っ」
「むてき〜っ!」
シャンシャンシャンシャン。
そんな彼に合いの手を出す1人の少女。
くるくると回るたびに、ワンピースの裾が翻ってきらきらと光る。
とても楽しそうだ。
「くらっやみも〜、君の心の声〜〜!」
「こころのっ、こえ〜!」
「すべて受け止めるさー! ああ~~!」
シャンシャンシャンシャン。
さらに彼らの背後には2人の男女がいた。
2人が持つY字型の棒には、鈴がしこたまぶら下げてあった。それをでんでん太鼓のように振り回してシャンシャン鳴らしている。
2人は真顔だった。楽しくはなさそうだった。
ゴーストたちに理性はない。でも本能はある。
その本能が訴えかけてきた。
「なんかヤバい」と。
一行は歌い踊りながら、器用に洞窟の奥へと進んでいく。
男は朗々と歌いながら、大きく腕を開いた。
「こころ開けば〜〜っ、みんな友達っさー!」
「っさー!」
シャンシャンシャンシャン。
ゴーストたちに悪寒が走る。
このままでは友達にされる。
(ヤバイ)
(ヤバイ)
現代人よろしくヤバイを連呼しながら、ゴースト達は速やかに退散した。
(……ゴーストが退散しましたね)
イェルが自分と同じく無心で鈴を鳴らすフィーロに耳打ちする。
(予想以上の効果だったな。こんど騎士団でも検討してみようか)
(検討できる度胸はすごいですが、騎士たちが泣くと思いますよ)
(ふむ。……しかし、ここからは油断できんぞ)
フィーロがシャシャシャァン! と杖を激しく鳴らす。
(最奥部には、ルビーを守護する強力なストーン・ゴーレムがいると噂がある。その強さによっては、踊りながらでは勝てないかもしれん)
(歌と踊りをやめればよいのでは……?)
一方、ゴーストが退散したことも知らず、勇者2人のミュージカルはまだまだ続く。
「よーし、ひまり。次は何を歌おうか」
「じゃあね、キューティーヒロインのオープニングがいいな」
「任せろ。ヘイカモンッ、ミュージック!」
心を無にしたイェルは、再び杖を構えたのだった。




