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俺のかわいい妹がハッピーエンドをお望みだ~勇者志望の妹のため、兄は全力で裏方に徹する!なお、周囲の被害は気にしない~  作者: 結丸


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23/24

4-1

 それから2日後。

 勇者一行は、グラース城から南西にあるウィルドンの集落に向かっていた。

 名前の由来は小さな山だ。カタカナの「コ」の字をした小さな山は、ウィルドン山と呼ばれている。その「コ」の字の真ん中にある森を切り出して作られた小さな集落が、今回の目的地だ。

 メンバーは前回と同じく4人。勇者ひまり、葉太郎、副団長フィーロ、神官イェルは、ウィルドンの集落──に入る前にウィルドン山に登っていた。


 ウィルドン山はその多くが鉱石をとりつくし廃坑となったが、そうでない箇所もある。彼らの現在の目的は、まだ生きている山の中にある巨大な洞穴だった。

 ぽっかりと空いた空間のいたるところで、鉱石や水晶が光っている。

 なぜこんなところに来ているかといえば、鍛治師への手土産のためだ。

 相手はかつて王城に出入りした名のある職人。手ぶらでうかがうのは失礼にあたる。そこで鉱石を現地調達することになったのだ。

 狙っているのは、ウィルドン山北部の洞穴で採れる赤い宝石。最奥部でまれに見つかる「ソル・ルビー」と呼ばれている巨大な宝石だ。


 騎士団に務め、斥候や捜索の経験もあるフィーロが指揮をとる。


「ウィルドン山は鉱夫達も頻繁に出入りしている山だ。そこまで強い敵もいない。とはいえ足元が悪いから気をつけていくぞ」

「はーい」


 イェルは杖の先に魔法の灯りを灯した。

 真っ暗な足元が少しだけ照らされると、かさかさと何かが逃げる音がした。虫か、あるいは蝙蝠こうもりだろうか。


「よし、行くぞひまり」

「う、うん」


 葉太郎とひまりは手を繋いで進んでいく。

 薄暗い洞穴は外より気温が低い。イェルはぶるりと身震いした。

 くすくす、ふふふ。

 洞窟の雰囲気にそぐわない明るい笑い声。

 イェルはすぐにその正体に気づく。


「気をつけて、ゴーストです」


 明かりの付いた杖を真上に向けると、洞窟の壁から浮かび上がる、半透明な人の姿が照らし出された。

 ゴースト。洞窟や森奥などどこにでも現れる闇属性の魔物だ。

 がらんどうの目と口が、三日月の形に歪む。

 おそろしい笑顔にひまりが一歩後ずさった。

 くすくす。あはは……。

 楽しそうなその声は、葉太郎たちを自分たちと同じ世界に引きずり込もうと企んでいる。


「ヒマリ、あれから光属性の魔術は習いましたか?」

「う、うん。ゴースト用の浄化の魔術も習ったよ」

「では同時に」


 イェルが魔力を研ぎ澄ませる。

 浄化の魔術は水や光属性の系統の魔術が多い。中でもポピュラーなのは光属性の魔法だ。

 明かりを灯したままでも、ゴーストを浄化する術くらいなら同時に発動できる。

 イェルの隣でひまりが浅く呼吸をしながら、葉太郎と繋いでいない右手を前にかざした。

 そして、2人の魔術が発動する。


「「光よ!!」」


 イェルの放った輝く雨が、天井のゴーストを浄化する!


「ぐおおおお!?」


 ひまりの放った輝く雨が、手をつないでいた隣の兄を直撃した!


「おにいちゃーーん!?」

「あれえ!? ヒマリ!?」


 予期せぬひまりの大暴投に、イェルは素っ頓狂な声を上げた。

 もっとも霊用に作られた浄化の魔術は、その分他の生物には効きにくい。

 葉太郎も多少衝撃はあるだろうが大したダメージにはならないだろう。

 ぴかぴかと発光しながらうずくまる葉太郎。その背中をさすりながら、ひまりが半泣きで謝る。


「ごめんね、お兄ちゃん、ごめんね」

「大丈夫だひまり、浄化の魔法を受けて兄ちゃんの清らかさに磨きがかかったぞ」

「もともと清らかだったみたいな言い方だな」

「図々しい男ですね」


 しかし、だ。葉太郎はぴかぴか光りながら首を傾げる。

 ひまりは真面目な子だ。家庭科の調理実習の前日には、同じおかずを練習のために作るがんばりやさん。

 だから教えてもらった魔術はなんども練習をしてから使用しているはず。にもかかわらず、浄化魔法は盛大に暴発した。


(もしかしてひまりは、光属性との相性が悪いのか? 光の化身みたいな子なのに?)


 いや、だからこそ逆に光属性の魔術が暴走するとか?などと考えつつ、葉太郎はひまりをじっと見つめる。

 いつもならすぐに兄の視線に気が付いて、にこっと微笑み返してくれる天使。しかし今は兄の視線に気づかず、プテラノドンタオルの首元をきゅっと掴み、視線をさまよわせている。

 洞窟のどこかで、ばさばさとコウモリが飛び立つ音がした。

 ひまりが小さく息を呑む。その様子を見て、葉太郎ははっとした。


(ひまり……、洞窟が怖いのか!?)


 考えてみれば当たり前だ。

 不気味な笑い声の反響する薄暗い洞窟。どこからともなく飛び出すゴースト。

 完全に「心臓の弱い方・小さなお子様はご遠慮ください」のお化け屋敷だ。

 ひまりはまだ10歳の少女。怖いに決まっている。

 そんなことも気づかずにこんな場所を連れ回すとは、幸上 葉太郎、一生の不覚。

 今すぐ自分にセルフジャーマンスープレックスを決めてやりたい。


「ひまり。ごめんな、出よう。今すぐに出よう」


 腕を引っ張る葉太郎に、ひまりははっとして、慌てて笑顔を作った。


「ぜんぜん大丈夫だよ、お兄ちゃん! 私の武器のために、みんながんばってくれてるんだもん。絶対ソル・ルビーを見つけなきゃ!」

「……」


 葉太郎はいつもひまりを見守っている。

 だからひまりの「大丈夫」が「大丈夫じゃない」時だってすぐに分かる。

 だけどひまりは決して音を上げないだろう。ならばお兄ちゃんのやることは1つ。


「……いったん外に出るぞ」

「お、お兄ちゃん、本当に大丈夫だよ」

「ああ、安心しろ、帰るわけじゃない」


 葉太郎は立ち上がった。反省もセルフジャーマンスープレックスも後でできる。

 ならば自分は、少しでもひまりの恐怖を和らげるために尽力するのみ。


「少し道を戻るぞ。山に入る前に少し大きな街があったな。この洞窟で採った鉱石は、すぐに換金できるか?」


 洞窟を進む中で、4人は少し鉱石を採取していた。それを換金するつもりだろうか。


「それはできるが、入口付近の鉱石では大した金にはならないぞ」

「それは問題ない。奥に進むため、少し装備品を整えるだけだからな」


 葉太郎がそのへんに落ちていた鉱石を拾って掲げた。


「今回のクエストのコマンドコードは『たのしく いこうぜ』だ」

「「「???」」」


 突如決められた戦闘コマンドに、3人はそろって首を傾げたのだった。

 


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