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「勇者達をウィルドン山に?」
「そうだ」
翌日の会議の間で、アイヴィーは城の要人達にそう宣言した。
当然そこには、赤の宰相や青の宰相の姿もある。
ざわめく城の者たち一同を代表して、青の宰相が口を開いた。
「何故ウィルドン山に? 強い魔物が出たという報せも特に来ていません。距離もある。馬車で往復5日はかかるでしょう。わざわざ勇者達を行かせるメリットはないと思いますが?」
この世界では「転移魔術」は滅多に使われない。肉体強化や飛行の魔術が使われる場面はあるが、基本は徒歩や馬車で移動している。
それは城の者であっても同じことだ。
「──それに関しては俺から説明しよう!!」
ばあんと勢いよく扉を開けて(というか張り飛ばした)、葉太郎が登場した。
「ひいっ、でたぞ!」と誰かが悲鳴を上げた。リアクションが、窓から大きな虫が入ってきたときとほぼ同じだった。
青の宰相ががたんと音を立てて席を立つ。
「バッ……、ごほん! よ、ヨータロー殿、いったいなぜここに?」
「王に聞いてくれ。まったく、ウィルドン山に行きたい理由については俺から話してやると言っていたのに。なぜ俺を呼ばずに会議を始めるんだ」
アイヴィーは頭を抱えた。お前がいるとまとまるものもまとまらなくなるからだ、と内心で叫ぶ。
ご臨終したドアの蝶番を見つめながら赤の宰相がのんびりと告げる。
「勇者殿、あとでドアは鍛冶師のところに持っていってくださいねえ」
「それについては謝る。しかしまずは皆が知りたがっているウィルドン山行きの理由をお教えしよう!」
葉太郎は1人1人に素早く紙の束を配った。
1番上にでっかい文字で「めあて ひまりの素敵なステッキを作ろう(星マークハートマークきらきらマーク)」と書かれていた。
「ひまりは勇者だ。ならばそれに相応しい装備を整えるのは必須。そこで俺は、ひまりに変身ステッキをプレゼントしたいと思った」
変身ステッキってなに。そんな視線が一斉に王に送られる。王はそっと視線を逸らした。
葉太郎は、ひまりと一緒にたくさん異世界転移もののアニメを見ていた。
だから知っている。前の世界の知識を活用してこの世界の冒険に役立てるのが異世界転移ファンタジーのお約束。
「前の世界の知識をフル活用し、ひまりが好きそうな変身ステッキの設計図を書いてみた!! 資料2ページ目をご覧ください!!」
「なんて無駄な知識の活用を……」
「持ち手の部分は握りやすい形状に、柄の部分に様々な形の宝石を埋め込み、先端にハート型とリボンを使用し、可愛さをふんだんに追加っ!!」
葉太郎が手をハートの形にしてびしっとポーズを取った。
「だが鍛冶師の親方に相談したところ、これだけ細かい形状のものを作ろうとすると、飾りと杖本体を分離して作るため、かなり重量が増えると言われた。ひまりの腕に負担がかかるのは好ましくない」
そこでウィルドン山だ、と葉太郎が窓の方角を指さした。
「ウィルドン山に住んでいる引退した城の鍛冶師なら、杖を重くせずともそういった細工が得意だと聞いた。そうだな、アイヴィー?」
「……そうだな。王家の装飾剣の半数は、そいつの作品だ。分離せずとも、杖本体を加工して飾り立てることができるだろう」
つまりひまりの可愛い変身ステッキのため、葉太郎はウィルドン山に行きたいのだ。
「それを相談したところ、アイヴィーに止められてな。自分1人では判断できないと言われた。だからこうして会議の場にやってきたというわけだ。俺も一応社会人。コストに見合わない仕事に認可は下りないということは分かる。そこで! ウィルドン山に変身ステッキを作りに行くことで、この先俺たち勇者のモチベにどのような影響が出て、ひいてはグラース国にどのくらい貢献できるのかをまとめてきたぞ」
ばっと大きく両手を広げる。両手に握った資料の束がばさりと揺れた。
「さあ城の政を司る要人達よ!! 資料3ページ目をめくるがいい、お前達が納得できるよう、全身全霊を込めてプレゼンテーションを始めてやろう!!」
勇者が宣言したその場所で。皆が思考を放棄したその会議の間で。
誰よりも早く我に返ったのは青の宰相だった。
彼は資料3ページ目をめくる──のではなく、起立した。今度は音を立てずに。
そして皆をぐるりと見回し、一言尋ねた。
「勇者のウィルドン山行きに賛成する者は、挙手を」
その言葉に。
全員が一斉に手を挙げた。
まだ理解が追い付いていない者たちも、本能的に手を挙げた。
綺麗に天井を指す手を見渡し、宰相は自分のもらった資料に、さらさらと「許可」の文字を書いた。
そのまま葉太郎の元へ歩いていき、資料を差し出す。
「反対意見なしで許可です。はい、退出」
葉太郎は少し意外そうに瞬きしたが、ふっと笑った。
「ひまりの可愛さをもってすれば、当然……か」とか呟きながら、くるりと回れ右した。そして床に落ちているドアを脇に抱えて、退出していったのだった。
嵐が過ぎ去った会議の場に、沈黙が落ちた。
「……その、王様。昨日は大変でしたね……」
「今日は会議を早めに終わらせますので、どうぞ休息を」
「……ああ……」
そうして、その日の会議は早急に終了となったのだった。
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それから数時間後。
「王様、お兄ちゃんから聞きました。ウィルドン山、無事に行けることになったって」
「……ああ、うん」
「私、がんばるね! 任せてください」
「ああ、その、お前は心配していないんだが」
アイヴィーはちらり、と背後の葉太郎を見る。
「ハートはちょっとふっくらさせたほうがかわいいかな……、いやあえて非対称というのも捨てがたい……」
ぶつぶつと言ってる葉太郎を指さして、ひまりに尋ねた。
「あいつ、当初の目的忘れてないよな?」
「……だ、だいじょうぶ!」
「おい本当に大丈夫なんだろうな!? 私の目を見ろ、目を!!」
アイヴィーは目を逸らしたひまりの肩を、がくがくとゆすったのだった。
かくて王から秘密の命を受けた勇者2人は、ウィルドン山へと臨む。
妹のためにかわいい武器を作りたいという私欲をセットにして。
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ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
周りが葉太郎の奇行に慣れ、勇者兄弟にちょっとずつ影響を受け始めています。
なお良い影響もあれば悪い影響もあり。
ドアを壊したのは鍛冶師の親方にめっちゃ怒られます。




