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俺のかわいい妹がハッピーエンドをお望みだ~勇者志望の妹のため、兄は全力で裏方に徹する!なお、周囲の被害は気にしない~  作者: 結丸


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2-4

 グレートレント討伐に向けて、各々の準備が始まった。

 ひまりは炎の魔術を覚えるべく、赤の宰相さいしょうから指導を受けていた。


「魔術は大気中の魔素をそれぞれの属性に変えて発動させるんですねえ。ヒマリ様に受けていただいた適正検査は、この属性の変換に関わる能力です。さらに魔術発動の補助として我々は魔道具を使います。一般的には杖が1番多いです」

「なるほどー!」

「私の説明、難しくないです? あんまり人に教えるの、うまくないんですよお」

「はい、分かりやすいです」


 当然分からない単語もある。けれどひまりはファンタジー小説も多く読んでいるため、なんとなくニュアンスで理解できた。


「それじゃあさっそく実践してみましょお。はいっ、王様、ご協力よろしくお願いしまーす」

「……あのなあ」


 ご指名を受けたアイヴィーが、赤の宰相を睨む。


「なんで私が一緒に魔術の授業を受けないといけないんだ」

「ほら、ヒマリ様と王様は同い年ですから。感覚の近い人が近くにいた方が、習得も早いと思うんですよお」

「仕事が山ほどあるんだが?」

「息抜き、息抜き。それに勇者の身支度を整えるのは、王様の仕事ですよお」


 ひまりがアイヴィーにぺこりと頭を下げる。


「王様、私がんばって早く覚えるので。だから指導してもらえると嬉しいです!」

「……少しだけだぞ」


 どうにもひまりに頼まれると断りづらい。

 アイヴィーはひまりと向かい合う形で正面に立った。


「試しに火の魔術を打ってみろ」

「え? 王様に?」

「そうだ。実践形式のほうが覚えやすいからな」

「で、でも」


 発動できるかも分からないこの状況。当然威力の加減もできない。

 間違えて怪我を負わせてしまったらいけないと、ひまりは戸惑う。


「そんなに心配しなくても大丈夫ですよお。王の守りはぴかいちです。そのへんの兵士にも負けませんよ?」

「ということだ。さあ、早く」

「う、うん」


 ひまりは覚悟を決めて、きっと眉を吊り上げた。

 目を閉じてすうはあと深呼吸。支給された木の杖を握る。


(ええと、周囲の空気を、自分に集めるようなイメージで……)


 頭の中に「がんばれ! ひまりならできるっ! フレー! フレー!」とうちわを振り回す兄が浮かんだ。

 ひまりは小さく笑って、杖を握る手に神経を集中させる。

 杖の先端をふわふわと白い光が舞う。光はきらきらと明滅し、橙色と赤に染まった。赤の宰相が感心したように顎をさする。


(魔素が炎の属性に代わった。さすが、素質がありますねえ)


 ひまりがゆっくりと目を開く。

 目に見えないエネルギーを押し出すように、勢いをつけて声を出す。


「ファイヤー!!」


 杖の先端から生まれた火球が飛んでいく。

 アイヴィーはちょっと驚いた。まさか、1発目から成功させるとは。

 目の前に片手をかざすと、火球が見えない壁に弾かれて霧散むさんした。

 ひまりは大きく息を吐きだし、ぺたりと座り込んだ。


「で、できたあ……」


 赤の宰相が惜しみない拍手を送った。


「1回目から成功させるなんてすごいですよお! ねえ、王様」

「まあ、そうだな」

「ありがとう! 王様の防御もかっこよかったよ!」

「……なんだそれは」


 アイヴィーとてストレートに褒められて悪い気はしない。けれど赤の宰相がにまにまとしていたので、ぷいとそっぽを向いた。


「ときに勇者ヒマリ、『ファイヤー』ってなんですかあ?」

「あうっ。えっと、あの、私の世界の呪文みたいなもので……」


 ノリノリで呪文詠唱してしまったひまりは、ちょっと頬を赤くしたのだった。



 □□□□



 それから2時間後。


「ああ、疲れた……」


 アイヴィーは執務室の椅子に寄っかかり、息を吐いた。

 結局あのあともひまりの特訓に付き合い、気が付けば自分の防御魔術まで教えていた。

 ひまりの「すごい!」に妙な吸引力があるせいだ。

 葉太郎の魔物講座に、ひまりの魔術特訓。勇者を召喚してからずいぶん振り回されている。


(い、いかんぞ私っ。こんなことのために勇者を召喚したわけじゃない!)


 ぶんぶんと首を振る。勢いあまって、ぐらりと体が傾いた。椅子に積み上げたクッションがずれたのだ。


「ひゃあっ」


 慌てて机にしがみついて座りなおす。

 脚の長い机と椅子。10歳の子どもであるアイヴィーが使うには大きすぎる。

 それは前王、アイヴィーの亡き父が使っていた調度品だった。

 アイヴィーは大人用の椅子の上にクッションをしきつめて、踏み台を隣に置いて使っている。

 亡き親との思い出を少しでも残しておきたかったのだ。


 アイヴィーは思い出す。

 ここに座って真剣な顔で仕事をする父の姿を。

 寝室で自分に微笑みかける母の姿を。

 ──そして、2人との最後の日を。


「……そうだ、私は果たさなければならない」


 勇者は召喚できた。

 しかし、勇者を召喚した「目的」を何も達成できてはいないのだ。

 アイヴィーはそれを果たさなければならない。

 ぎゅ、と拳を握り、誰にも知られぬ決意を秘めて。

 アイヴィーは再び仕事に戻る。


 そのときちょうど、執務室のドアがノックされた。

 青の宰相の声が扉越しに聞こえる。


「王。お忙しいところ失礼します。勇者殿が『妹の旅支度を完璧にするぞっ!』とはりきっており、巻き込まれた魔術師と鍛冶師とその他諸々から苦情が寄せられております」

「ええい、普通の仕事をさせろー!」


 そうしてアイヴィーは、本日何回目か分からない「やっぱり勇者召喚失敗だったかも」を脳内で叫んだのだった。



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