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グレートレントの退治方法が決まったところで、次は魔術の勉強だ。
しかしこの世界では、その前にしなければならないことがあった。
「適正検査?」
「ええ。魔術には属性があるんですよお。炎・水・風・雷・土・光・闇の7属性です」
赤の宰相が指折り説明する。
「基本的に適正のない魔術は使えません。勇者のお2人には、まずどの属性に適正があるのか調査させていただきますねえ」
ひまりがきらきらと目を輝かせる。
「ステータスの表示、ファンタジーのお約束だね!」
「まいったな。ひまりのステータスは、可愛さと愛くるしさと純粋さと将来性がカンストしているぞ? きっと数値の表記がおかしくなってしまう」
「あははは、安心してください、そんなもん表示されませんから」
適性検査のために1台のワゴンが運ばれてきた。ワゴンの上には、7つの色違いの小瓶が並んでいる。右から順番に、赤、青、緑、黄、茶、白、黒だ。
赤の宰相は瓶の蓋を開けると、小さな皿を色の数の2倍用意して、液体を注いでいく。
「ここに血を垂らすとあら不思議、適性のある属性だけ液体が固まります。それでは勇者ヨータロー、勇者ヒマリ、どうぞ」
「わかった」
即答に周囲の人々はちょっと驚いた。見守っていたイェルは思わず声に出す。
「あなたのことですから『ヒマリに血を流させるなど許さん!』と反対するかと思いましたよ」
「……まあこれくらいなら、血液型検査みたいなものだからな」
葉太郎は兵士に小型のナイフで耳の後ろを少し切らせて血を提供する。
2人から採取した血液が、1滴ずつ皿に垂らされる。
葉太郎の皿には何の変化もない。しかしひまりの皿には顕著に違いが出た。
滴り落ちた血が皿の中の液体に触れた瞬間、ぴたりとくっつきぐるりと混ざり合う。
ぽとり、ぽとりと皿に1滴ずつ落とされる度に液体は混ざり合い、ついに7つの皿すべてが混ざり合った。
見守っていた人々からわっと歓声が上がる。
「うわあお、これはすごい。勇者ヒマリは全属性の魔術が使えますよお」
指折りの実力を持つ魔術師や神官さえ、全属性に適性を持つ者はほとんどいない。
「さすがは異世界から選ばれし勇者ですねえ」
「さすがひまりだ!」
「えへへ、そう?そうかな」
ひまりは抑えきれない喜びから頬を抑えてぴょこぴょこと跳ね回る。
一方で葉太郎の皿はというと。
「逆に勇者ヨータローは全ての属性に適正がありませんねえ」
赤の宰相は丸皿をくるくると回す。葉太郎の血液と混ぜた7つの液体は、いずれもまったく固まる気配がない。
つまり、葉太郎は一切の魔術が使えないということだ。
「ちょっと待ってください、それはおかしい」
手を挙げて異を唱えたのは、謁見の間にずらりと並んだ兵士の1人。
昨日 葉太郎と戦ったヒイラギ騎士団の副団長、フィーロである。
「私が昨日彼と対峙したとき、彼は上級の風の魔法を使っていました。魔術適正なしにできる技ではありません」
副団長たる実力者のフィーロが、昨日葉太郎から不意打ちを喰らった理由もそれだ。異世界から突如転移させられた人間が、なんの前知識もなしにこの世界で魔術を発動出来るとは思わなかったのだ。
相当な魔術の才能があるのだろう、そう思った。それどころか魔術適正もないとは、にわかには信じられない話だ。
赤の宰相は人差し指を立てた。
「だとすればあれですかねえ、ギフテッド」
ギフテッド。
その言葉に、 葉太郎とひまりを除く皆の間に緊張が走る。
イェルはぐっと唇をかみしめた。
ギフテッド。それは異界を渡る旅人へ贈られる餞別。
常人は持ちえない特殊な能力のことだ。
もっとも勇者召喚の伝承で伝わっているだけで、実際にどんな力があるのかは神官たちさえ知らない。
「なんらかのギフテッドのおかげで、勇者ヨータローは魔術を使えた、ということですか」
「魔術適正が0である以上、そう考えるのが自然でしょうねえ」
その場にいる人々の脳内を、さまざまな思考が駆け巡る。
(適正もないのに魔術が使えるギフテッドなんて)
(かなり強力な力ではないか?)
(そんな恐ろしい力が)
(この……)
皆の視線が葉太郎に集まった。
思ったことは、みな同じ。
(((この……妹のためならなんでもやりそうな男に……)))
背筋にぞっと悪寒が走る。
そして全員は決意した。葉太郎のギフテッドは早めに解明しなければならない。
ていうかこの男にチート能力を好き勝手に使わせてはいけない。
そのためにすべきことはずばり「将を射んとする者はまず馬を射よ」だ。
すなわち、葉太郎に言うことを聞かせるなら、まずは妹の信頼を得ることがマスト。
赤の宰相はにこやかにひまりに近づいた。
「では勇者ヒマリは、グレートレントを倒すための魔術の練習を始めましょうか。グレートレントなら何度も退治していますし、私が傾向と対策を考えましょう」
「私も力になります」
「あっ、私も私も」
「自分も」
ひまりの元に人々が一斉に集まる。
彼らの思惑などつゆ知らず、自分に集まってくる人々を見て、ひまりはじいんと感動した。
(みんな、子どもの私にこんなに期待してくれてるんだ。がんばって応えなきゃ!)
健気な少女は天使の笑みを浮かべ、よろしくお願いします!と元気に声を上げたのだった。




