第9話 帰ってきたのは、一人だけ
次の依頼は、最初から嫌な匂いがした。
掲示板の端。
人の集まらない場所。
【街道沿い魔物掃討】
【合同依頼】
【報酬:銀貨二十枚(分配)】
「人手が足りねえんだ」
受付の男が、淡々と言う。
「単独は認められない。
最低四人だ」
《依頼条件:高リスク》
《分配方式:生存者割》
……分かりやすい。
◆
集まったのは、五人。
FとEが混じる即席パーティ。
派手な杖。
新品のローブ。
「銀貨二十枚だぞ」
一人が、浮かれた声を出す。
「一人四枚。
悪くねえ」
「生きて帰れればな」
俺が言うと、鼻で笑われた。
「慎重すぎだ」
《対人評価:軽視》
◆
現場は、森沿いの街道。
視界は悪く、逃げ道も限られる。
《地形危険度:中》
《魔物反応:複数》
「散開するぞ!」
誰かが叫ぶ。
――悪い判断だ。
「固まれ」
俺は言った。
「逃げ道を確保しろ」
「Fが指図すんな!」
声が飛ぶ。
◆
魔物が出た。
数は、想定より多い。
高出力魔法が、放たれる。
派手だ。
だが――
《魔力枯渇:急上昇》
一人、詠唱が止まる。
「くそ……!」
次の瞬間、前線が崩れた。
◆
混乱。
叫び声。
一人が倒れ、
もう一人が引きずられる。
「下がれ!」
俺は叫ぶ。
だが、聞かれない。
《撤退同意率:0%》
なら――
自分で決めるしかない。
◆
俺は、下がった。
最短距離で。
当てる。
止める。
離れる。
魔法は最小限。
《魔力消費:安定》
派手さはない。
だが、途切れない。
◆
背後で、爆音。
高出力魔法が暴発した。
悲鳴。
それで、終わった。
◆
気づけば、森は静かだった。
俺だけが、立っている。
折れた杖。
焦げた地面。
《生命反応:なし》
……全滅だ。
◆
ギルドに戻る。
夕方。
受付の男が、俺を見る。
「……他は?」
「戻らなかった」
男は、深く息を吐いた。
「またか」
◆
報告書。
死亡者五名。
原因欄には、短く書かれた。
【戦闘不能】
それ以上は、問われない。
◆
「報酬は?」
俺が聞くと、
男は首を振った。
「全滅扱いだ」
「……」
「分配はなし」
《収入:0》
机の上は、空だ。
◆
だが、男は俺を見た。
「お前、生きてるな」
「ああ」
「それでいい」
それだけだった。
《内部評価:上昇》
◆
夜。
安宿の部屋。
銀貨は、増えていない。
だが――
借金も、怪我も、ない。
《生存状態:良好》
AIの表示が、淡々と示す。
(銀貨二十枚は、
命の値段だったのか)
なら、
支払われなかったのは当然だ。
◆
翌朝。
掲示板に、新しい札が貼られていた。
【高リスク】
【帰還条件:生存】
【報酬:銀貨十五枚】
分配、ではない。
《条件変更:注目》
俺は、札を見上げる。
討伐数でもない。
成果でもない。
帰ってくること自体が、仕事。
俺は、札を剥がした。
静かに。
迷いなく。
ここでは、
生き残った者だけが、
次の仕事を選べる。
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