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異世界転生した俺は、AIで魔法の精度を極めて無双する  作者: 蒼井テンマ


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第6話 貴族というバグ

模擬戦演習の告知が出たのは、共同研究課題の直後だった。


「基礎課程合同模擬戦を実施する」


掲示板の前で、貴族生徒たちが楽しげに話している。


「やっと実戦形式か」

「評価、跳ねるぞ」


模擬戦は、学園で数少ない

“成績が一気に動く”授業だった。



「嫌な予感がする」


カイルが、ぽつりと言った。


「剣士科は、こういう時いつも――」


「囮だな」


俺が言うと、カイルは苦笑した。


「言うなよ。

 分かってる」


《役割予測:前衛・被弾率高》


AIの数値は、淡々としている。



事前説明。


教師は、結界展開区域を指し示した。


「結界内での模擬戦だ。

 実戦同様に動け」


安全性についての説明は、簡単だった。


「致命傷は防がれる。

 以上だ」


《結界強度:未公開》

《安全保証:曖昧》


……情報が足りない。



班分けは、すでに決まっていた。


魔法科上位。

貴族中心。


その前に――

剣士科。


「前に出ろ」


命令口調。


カイルが、小さく息を吐いた。


「行ってくる」


「無理はするな」


「無理しないと、評価されねえんだよ」


それが、この学園だ。



模擬戦開始。


魔法が飛び交う。

派手な閃光。

爆音。


観客席から、歓声。


だが――

違和感があった。


《結界干渉:不安定》

《負荷偏重:前線》


結界が、剣士科側にだけ歪んでいる。


(……意図的か)



「前に出ろ!」


貴族生徒の号令。


カイルたちが、前進する。


魔法が、後方から放たれる。


狙いは――

雑だ。


《命中誤差:大》


剣士科が、避ける。

受ける。

耐える。


それでも、前に出る。



その瞬間だった。


結界が、歪んだ。


《警告:結界強度低下》

《推定原因:過剰出力》


「下がれ!」


俺は叫んだ。


だが、爆音がそれを掻き消す。


火球が、想定以上の威力で炸裂した。


結界が、耐えきれず――

割れた。



衝撃。


視界が白くなる。


《致死確率:89.4%》


AIの数値が、冷酷に浮かぶ。


カイルが、前にいた。


俺の視界に、彼の背中が映る。


次の瞬間――

爆風が、すべてを飲み込んだ。



静寂。


煙が晴れたとき、

結界は、再展開されていた。


「……事故だ」


教師の声。


「結界の想定外負荷によるものだ」


倒れている者たち。


その中に――

動かない一人。


カイル。



駆け寄ろうとした俺を、制止する腕。


「下がれ」


貴族生徒だった。


「まだ危険だ」


《生命反応:消失》


AIが、確定を告げる。



治療室。


白い布。


「……残念だったな」


教師は、そう言った。


「名誉ある事故だ」


名誉。


その言葉が、理解できなかった。



数日後。


処分は、なかった。


結界担当は、軽い注意。

魔法出力者は、無罪。


「不可抗力だ」


それで、終わりだった。


《因果関係:切断》

《責任所在:消失》



墓地。


簡素な墓標。


カイルの名だけが、刻まれている。


「……生き残れって言ったのに」


返事はない。


風だけが、通り抜ける。


《感情変数:不可逆損失》


AIが、初めて見慣れない項目を表示した。



背後で、足音。


エリナだった。


「……ごめんなさい」


「君が謝ることじゃない」


「でも……」


彼女は、言葉を探す。


「この学園に、

 あなたは向いていない」


「知ってる」


「それでも、ここにいたら――」


「次は、俺が死ぬかもしれない」


エリナは、否定できなかった。



その夜。


寮の部屋で、俺は荷物をまとめた。


《学習フェーズ:完了》

《目的変数:再定義》


AIが、静かに表示する。


(学園では、生き残れない)


ここは、

壊す力を競う場所であって、

生きる力を育てる場所ではない。


なら――


行く場所は、一つだ。


評価されない正解が、

そのまま命になる場所へ。


《次行動候補:冒険者登録》


俺は、扉に手をかけた。


振り返らない。


ここで失ったものは、

ここでは、取り戻せない。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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