第5話 共同研究課題
一年次の中盤に差しかかる頃、
学園は次の“選別”を始めた。
「共同研究課題を実施する」
教師の一言で、教室がざわつく。
「魔法理論と実技の統合評価だ。
二人一組で課題に取り組め」
評価対象は、
成果
効率
再現性
だが、全員が知っている。
実質的には、魔法科上位者の見せ場だ。
◆
組み合わせが、読み上げられていく。
貴族と貴族。
魔力量と魔力量。
順当な組み合わせ。
「……次。
レイ・アルトナー。
エリナ・フェルシュタイン」
一瞬、空気が止まった。
ざわめきが、遅れて広がる。
「なんであいつが……」
「釣り合わないだろ」
エリナ自身も、わずかに目を見開いた。
《相互干渉:強制》
AIの表示が、淡々と現実を示す。
◆
「よろしく」
エリナは、最低限の礼儀だけを向けてきた。
「足を引っ張らないで」
「そのつもりはない」
「ならいいわ」
会話は、それで終わった。
◆
課題内容は単純だった。
指定術式の改良。
威力を落とさず
詠唱を短縮し
魔力消費を抑える
――理論上は、難題だ。
エリナは即座に動いた。
「詠唱を削るなら、魔力を増やすしかない」
「その場合、暴発率が上がる」
「結界があるわ」
彼女は、当然のように言う。
《思考傾向:短期最適》
AIが補足する。
◆
「術式構文、ここが冗長だ」
俺は、指で構文の一部を示した。
「この補助符、二重になっている」
エリナは眉をひそめた。
「それは安定化のためよ」
「過剰だ。
魔力制御が追いついていないから、余計に必要になっている」
「……感覚で言わないで」
「計算だ」
《構文誤差:+6.2%》
《簡略化余地:あり》
AIが、数値を示す。
◆
エリナは、しばらく黙った。
そして、試すように詠唱を組み替える。
火球が生まれる。
以前より、明らかに小さい。
だが――
結界への衝撃は、ほとんど変わらなかった。
「……」
彼女の目が、わずかに揺れる。
「魔力消費は?」
「約二割減」
エリナは、信じられないものを見るように、火球の痕跡を見つめた。
《成功率:92.8%》
◆
「どうして……」
「魔力が多いほど、制御を甘くできる。
だから気づきにくいだけだ」
「私は……間違ってた?」
「間違ってはいない。
ただ、無駄が多かった」
エリナは、唇を噛んだ。
天才は、
自分が改善できる余地があることを、初めて突きつけられる。
◆
発表の日。
二人の成果は、教室の注目を集めた。
「詠唱短縮、三割。
威力低下、誤差範囲内……?」
教師の声が、少しだけ上ずる。
「優秀だ」
だが、続く言葉は冷たかった。
「ただし、この改良は高度すぎる。
一般化には向かない」
《評価:限定的》
エリナが、ゆっくりと俺を見る。
「……あなたのやり方、評価されないのね」
「いつものことだ」
◆
解散後。
エリナが、珍しく足を止めた。
「あなたの魔法は、
強くない。
でも……危険でもない」
「褒めているのか?」
「……たぶん」
《感情反応:複雑》
彼女は、そう言って去っていった。
◆
カイルが、廊下の端で待っていた。
「どうだった?」
「成果は出た」
「評価は?」
「微妙だ」
カイルは、肩をすくめる。
「らしいな」
《信頼形成:安定》
AIが、静かにログを残す。
◆
夜。
机に向かいながら、俺は思う。
(理解されなくてもいい)
だが――
理解できる人間が、確実に増えている。
それだけで、十分だった。
《学習フェーズ:深化》
《次段階条件:社会的摩擦》
次は、
摩擦が“事故”として現れる。
俺は、まだ知らない。
それが、
取り返しのつかない形になることを。




