第4話 評価されない正解
実技評価の結果が張り出されたのは、翌朝だった。
廊下の掲示板前には、人だかりができている。
歓声と落胆が、はっきり分かれていた。
「やった、上位だ!」
「やっぱりエリナは別格だな」
名前の並びは、分かりやすい。
魔力量が多い順。
結界を大きく揺らした順。
《評価基準:出力依存》
俺は、掲示板の端を一瞥しただけで視線を外した。
《順位:下位》
《備考:実戦不向き》
……予想通りだ。
◆
「ふざけんなよ……」
カイルが、低く唸る。
「どう見たって、外してたやつの方が多かっただろ」
「評価は命中じゃない」
「それがおかしいって言ってるんだ!」
剣士科の生徒が何人か、黙って頷いた。
彼らは分かっている。
当たらない攻撃が、実戦でどれほど無意味かを。
《剣士科戦闘思想:命中・持久・連携》
AIが、静かに整理する。
◆
次の授業は、講義だった。
担当は、実技評価を下した教師。
「魔法とは、抑止力だ」
教師はそう言い切った。
「敵を近づけないための力。
威力こそが、価値を決める」
誰も反論しない。
反論する理由が、ない。
ここでは、それが“正解”だからだ。
俺は、手を挙げた。
教室が、わずかにざわつく。
「何だね」
「質問があります」
教師が、少しだけ面倒そうに頷く。
「高出力魔法を連続使用した場合、
魔力枯渇後の戦闘継続は、どのように想定していますか」
一瞬、沈黙。
「……それは、支援が補う」
「支援が間に合わなかった場合は」
教師は、眉をひそめた。
「仮定の話だな」
《論点回避:確認》
AIが、淡々と表示する。
◆
「実戦では――」
俺は続けようとした。
「十分だ」
教師が、遮る。
「君は優秀だが、視野が狭い。
この学園では、まず力を示せ」
力。
それ以上の議論は、不要だという顔だった。
《結論:精度・持久は評価外》
◆
授業後。
廊下で、エリナとすれ違う。
彼女は、俺の順位表を見ていた。
「……納得してるの?」
「評価に従っているだけだ」
「悔しくないの?」
「悔しさは、改善に繋がらない」
彼女は、少しだけ眉を寄せた。
「変な人」
「よく言われる」
《感情反応:軽度苛立ち》
天才は、
評価される世界に疑問を持たない。
疑問を持つ必要がないからだ。
◆
その日の夕方。
剣士科の訓練場から、金属音が響いていた。
カイルたちは、何度も何度も同じ動きを繰り返している。
派手さはない。
だが、一切の無駄がない。
《動作誤差:極小》
《持久戦適性:高》
「魔法使いより、よっぽど制御されてるな」
俺がそう言うと、カイルは苦笑した。
「評価されねえけどな」
「生き残る」
「それだけだ」
それで十分だと、俺は思った。
◆
夜。
寮の部屋で、俺は椅子に座る。
《補足推論:高出力魔法は、実戦継続時間を著しく短縮する》
AIの表示が、静かに浮かぶ。
(やはり)
この学園は、
短期的な勝利だけを評価する場所だ。
だが、戦場は違う。
ダンジョンも、魔物も、
待ってはくれない。
(なら)
俺は、決めた。
ここでは評価されなくていい。
評価される場所へ、行けばいい。
《目的変数:未設定》
《方針:精度・持久・再現性の蓄積》
静かな夜だった。
だが確実に、
俺はこの学園と、ズレ始めていた。
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