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異世界転生した俺は、AIで魔法の精度を極めて無双する  作者: 蒼野湊


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第3話 天才は、精度を知らない

実技演習の日は、学園全体が浮つく。


理由は単純だ。

この授業だけは、分かりやすく優劣が決まる。


出力。

範囲。

どれだけ派手に壊せるか。


王立魔法学園における実技評価は、それがすべてだった。



「本日の課題は、初級攻撃魔法の威力測定だ」


教師が淡々と告げる。


「結界は最大強度で展開している。

 遠慮はいらん。

 出せるだけ出せ」


制御についての言及は、ない。


《評価項目:出力・範囲・視認性》

《命中精度:評価対象外》


AIが即座に整理する。


(……なるほど)


当たるかどうかは、問題ではないらしい。



魔法科の生徒たちが次々に前へ出る。


火球。

雷撃。

風圧。


結界が揺れるたび、観客席から歓声が上がる。


「すごい……」

「今の見たか?」


派手であること。

それ自体が、評価だった。



エリナの番が来ると、空気が変わった。


詠唱は短い。

だが、魔力の集まり方が違う。


《魔力総量:異常値》

《出力予測:高》


放たれた火球は、

的を粉砕し、その奥の結界を大きく歪ませた。


衝撃音。


教室がどよめく。


「さすがだ……」

「やっぱり天才だ」


教師は満足そうに頷く。


《制御誤差:+9.3%》

《暴発リスク:17.8%》


――だが、それは誰にも指摘されない。



カイルが、小さく舌打ちした。


「……剣だったら、怒鳴られてるぞ」


「魔法は違う」


俺はそう答えた。


「壊せばいい」


《世界評価関数:破壊力重視》


AIの表示は、冷たい。



次が、俺の番だった。


前に出ると、

視線の質が変わる。


期待ではない。

確認だ。


「どれだけ低いか」を。


《推奨出力:40%》

《命中率:97.1%》


(抑えすぎか?)


だが、出力を上げれば、

俺の魔力制御では散る。


火球は、控えめだった。


音も小さい。

範囲も狭い。


だが――

的の中心だけを、正確に撃ち抜く。


焦げ跡は、円形で、無駄がない。


一瞬、静寂。


教師が口を開く。


「……威力不足だな」


それだけだった。


《評価:低》


命中については、

一言も触れられない。



席に戻る途中、

カイルが拳を握っていた。


「なあ……」


「分かってる」


「当たってた」


「ああ」


「じゃあ――」


「この授業じゃ、意味がない」


それが、答えだった。



休憩時間。


エリナが、こちらに歩いてくる。


初めて、はっきりと。


「あなた」


周囲が、息を呑む。


「どうして、威力を上げないの?」


「上げられるからといって、上げる必要はない」


「当たらなくなるでしょう」


「でも、当たってた」


彼女は、一瞬言葉に詰まった。


《感情反応:困惑》

《自己評価揺らぎ:微》


「魔法は、感じるものよ」


「感じるだけじゃ、外れる」


その瞬間、

エリナの眉がわずかに動いた。


「……あなたの魔法は、弱い」


「そうだな」


「でも」


言葉を探すように、一拍置く。


「……気持ち悪い」


それだけ言って、彼女は去った。



カイルが小声で言った。


「褒めてないよな?」


「警戒だ」


《相互干渉:深化》


AIの数値が更新される。



その夜。


寮の天井を見ながら、俺は考える。


(この世界では、

 壊せる力が正義だ)


だから、天才は疑わない。


自分が正しいと。

自分が安全だと。


《仮説:高出力魔法は、長期的に事故率が上昇》

《補足推論:高出力魔法は、短期戦向き。長期戦では魔力枯渇率が急上昇する》


AIが、静かに示す。


だが――

その結果が出るのは、もっと後だ。


評価される間は、誰も止めない。


(なら)


俺は、目を閉じた。


評価されない正解を、積み上げるしかない。


ここでは意味がなくても。

ここを出た先で、意味がある。


《学習フェーズ:進行》

《次段階条件:未達》


静かな夜だった。


だが確かに、

“天才の魔法”と“俺の魔法”の間に、

埋まらない溝ができ始めていた。

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